表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
37/244

王子の思考回路が好きで/6

 コウの前で、横顔を見せている澄藍に一言忠告が入った。


「今回は肉体のお前に合ってないやつを入れたからな。違いがよくわかるんだろう。理論を学ぶためにしてやったことだぞ」

「あぁ、ありがとう」

「光命と基本的に同じだ。感情は抜きにして、事実から可能性を導き出して、言動を起こす」

「そうか」


 さっきまであんなにバタバタと動き回っていたのに、静かに椅子に座って、リアクションもほとんどない澄藍。


「もう違ってる。今日までのお前は、やる気という何の理論もない感情で突っ走っていたのに、お礼だけ言うようになった。事実を事実としてただ捉えてる証拠だ」

「そんなところまで、影響が出てた?」

「今までの好きな食べ物は何だった?」

「フライドポテト、ステーキ、フライドチキン」


 ジャンクフードのオンパレード。


「だろう? これからは和食になるぞ」

「そう」


 澄藍の返事は合理主義者らしく、とても短いものへと変わっていた。


「じゃあ、よろしくやれよ」


 コウは霧のように消え去り、それさえも数字化された頭の中を、澄藍は感動し続けていた。


    *


 寝ても起きても、澄藍は青の王子のことばかり。


(光命の世界はとても綺麗だ。数字で全て成り立ってて、曖昧なもの不透明なものがなくて美しい)


 絵ではなくて、実写化したら、この王子はどんな血色で、どんな肌の質感で、どんな声色で、話しかけてくるのかを、澄藍は想像する。


(実際はどんな人なんだろう? 貴族的な雰囲気で、優雅な王子様みたいだ、キャラクターのイラストは。こう、一緒に舞踏会でダンスを踊って、いつまでも微笑んでいて……。白馬に乗った王子様……)


 乗馬というハイソな趣味を持ち合わせている神が、デパートへ行くために使っている乗り物は、黒塗りのリムジン。


 そんな神世をのぞくことはできないが、澄藍は背後にいる気配を感じる。フリーターから一気に会社役員へと職を変えた配偶者。子供のいない自分たちでは余るほどの収入を得るようになった。


 それでも、幸せと言えるかどうかは疑問だったが、彼女はどこまでも誠実でいようと思っていた。


(光命はただの憧れだね。芸能人を好きでいるみたいな感覚。でも、思考回路が美しいのは真実だ)


 配偶者が眠りについたのを、寝室のドアがパタンとしまったことで確認して、澄藍は誰にも、神にさえも聞こえないようにつぶやく。


「だって……。私は結婚してるし、それより何より神さまだから、恋愛対象にはならない。ううん、振り向いてももらえないよ」


 日付が変わっても、青の王子と過ごす時間は終わらず、舞踏会でダンスを踊るような気分で、ふわりふわりと毎日が過ぎてゆく。


    *


 数日後。冷蔵庫を開けたまま、澄藍は首を傾げた。


「本当だ。油物を見るだけで気持ち悪い。あんなに好きだったのに、こんなに変わるんだ。焼き魚とか和菓子じゃないと食べられないや……」


 着替えようとすると、コウがカウンターキッチンにふと現れた。


「どうだ?」

「座ってるだけで、頭がクラクラするんだよね。どうしたのかな?」


 船に乗っているみたいになって、日常生活がまともに送れないくらいになっていた。コウは理由をもう一度説明する。


「それは、肉体と魂が合ってないからだ。どんな感じだ?」

「自分の内側から、二つの声が聞こえてくる」

「何て言ってる?」

「出ていきたい、と、出ていけ」

「完全に、魂と肉体がお互いを主張し合ってるな」

「でも、しょうがないね」


 聞き分けのいい澄藍はクローゼットを開けて、外出着に着替え始める。コウは薄暗い部屋の中で、神々しい光を発していた。


「そうだ」彼はうなずいて、「肉体を入れ替えるのは、神さまがしてることだからな。人間のお前に選択権はないぞ」


「そうだね。よし、これはこれで事実。起きてしまったことは変わらないから、受け止めるだけ。とにかく、好きな食べ物を買ってこよう」


 澄藍は着替えを終えてバッグを肩からかけ、玄関へ向かってゆく。見事なまでに感情を抜きにして、理論的に生き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ