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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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真面目にやりやがれ/1

 結婚式も無事に終わり、夫婦十四人の生活だが、おまけの倫礼のそばにやってくるのは、旦那たちが多かった。


 今日もせっせと小説を書いていた倫礼はトイレから戻る廊下で、心の中で独り言を言う。


「孔雀大明王さんって、本名なのかな?」

「違います」


 凛とした澄んだ声が響き渡った。振り返ると、マゼンダ色の長い髪とニコニコの笑みをした夫が立っていた。


「あぁ、月さん」倫礼はそう言って、同意を求める。「やっぱり役職名なんですね?」


「えぇ」

「何て言うんですか?」

「あきひこです」

「え……?」


 倫礼は固まってしまった。月命はニコニコの笑みのまま小首を傾げる。


「なぜ驚いているんですか?」


 呪縛から解かれてように、倫礼は語り出した。


「いや、孔雀大明王さんをモデルに書いた小説のキャラクター『彰彦あきひこ』って名前だったんです」

「うふふふっ。相変わらず勘がいいですね〜」

 

 倫礼は言葉の途中で、ピンとひらめいてしまった。


「どういう字――あ!」

「おや? 思いついたんですか〜」

「はい」とびきりの笑顔で倫礼はうなずいて、「神さまの名前って、芸術的なんだよね。明るさを引き呼び込むで、明引呼。素晴らしい」


 人間の記憶力には限界がある。おまけの倫礼はパソコンに旦那と妻の名前を入力して、ことあるごとに見返しては覚えるように努めていた。


「ガキども連れてきたぜ」


 明引呼のしゃがれた声が聞こえると、子供が二人走り寄ってきた。


「あぁ、はっくんと甲くん。久しぶり〜」

「あの時のお姉ちゃんだって、パパに聞いた」


 倫礼は子供たちの頭を優しくなでる。


「そう、中身は違うんだけど、記憶はきちんと残ってるよ」

「ママになった」


 子供たちはパチパチと小さな手を打ち鳴らす。


「そうだね。いろんなことがあったけど、親子になれてよかったね」

「うん、よかった」

「相変わらず、木登りしてるの?」

「時々する」


 元気で何よりだ。おまけの倫礼は手を差し出して、小さなそれと握手をした。


「そうか。これからもよろしくね」

「うん!」


 去ってゆく小さな背中はなんだか頼もしく見える。子供たちだって、戸惑いがないわけでないのだろう。それでも、それぞれが、『みんな仲良く』の法律を守ろうと努力しているから、声を掛け合い一緒に遊んで絆が出来上がっているのだ。


    *


 もう少しで夜が訪れる夕暮れ時。肌を重ね合った後、月命は明引呼のミニシガリロを一本取り出し、青白い煙を上げた。裸のままかけた毛布にくるまり、解いてしまった長い髪を色っぽくかき上げる。


「明引呼はどなたか好きな人はいないんですか〜?」

「地上だとよ、嫉妬とかすんじゃねえのか。そういう話はよ」

「ここは地上ではありません。神世です。僕は気にしません。君の心が満たされることをしてあげたいんです」

 

 ジェットライターで炙った葉巻を、明引呼は口に挟んで青白い煙をふーっと吐き出した。


「だな。オレだってそうだぜ。てめえはもういねえのか?」

「僕はこう見えても保守的ですから、二人だけで十分です」


 明引呼は鼻でふっと笑いながら、空いている手で月命の肩に毛布をかけてやる。


「保守的っつうのは、カミさん一人で満足すんじゃねえのか。男ふたり加えやがって」

「うふふふっ」と、月命は不気味な笑い声を上げた。「僕の話に君はまだ答えていません」


「他に惚れてる野郎ならいんぜ」

 

 葉巻を挟んだ手で、明引呼は剛毛の短髪をガシガシとかき上げた。


「プロポーズをしてはいかがですか?」

「それよりも先に、他のやつらに相談だろ?」


 毛布の下で、肌がするするとすれ合う。


「みんな、賛成しますよ。愛しているんですから」

「だな。それじゃ、一言断ってから行ってか?」


 カーテンの隙間から、クレーターが見えるほど大きな紫の月を月命は仰ぎ見た。


「地球にいる倫礼はまた思い出すのでしょうか?」

「あれのことは知ってっから、思い出すかもしれねえぜ」

「彼女はまた頭を抱えるかもしれませんね〜」


 愛し合った微熱がジリジリと胸を焦がす、至福に満たされた時間が夫二人きりのベットの上で続いていた。

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