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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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愛していても/4

 人より多くの能力を持つと言うことに、悩みもつきものだ。明引呼は知らないながらも、ほんの少し不憫ふびんに思った。


「えぇ」月主命はうなずいて、結婚したから今日までの日々を頭の中でさらう。「ですが、彼女は文句も言わず、自分なりに解釈をして、僕たちと共に歩もうと努力をする方なんです」


「それで惚れたってか?」


 女みたいな長い髪をして、それどころか女装してまで学校に行き出した男を落とした女。明引呼の中に少しばかりの興味が湧いた。


「僕の場合はまた別の理由もありますが、一生懸命な彼女が好きなのも確かです〜」

「一生懸命か。昔っから変わらねえな」


 あの悪に集中攻撃を受けていた時でさえ、逃げ出さずに懸命に立ち向かおうとしていた女の想いが、神と人間と言う関係で、今更ながら心に割り込んできた。


 しかし、時間切れだ。明引呼はガシガシと藤色の短髪を何度もかき上げる。


「がよ、女として好きかどうかはまた別の話――」

「パパ? 誰の話?」


 いつの間にか、ドアからのぞいていた我が子がそばに寄ってきていた。アッシュグレーの鋭い眼光で子供たちを見下ろす。


「あぁ? 昔の話だよ。てめえらがまだ護法童子だった頃のよ」

「そうなんだ」


 あれから世の中は平和になった。この子たちも、将来の夢を持つようになっていた。彼らが結婚に反対するとは思えない。子供は無邪気だ。兄弟が増える。パパとママが増えると言って、喜ぶしか選択肢がないだろう。しかし、配偶者は――


「ほら、お風呂の用意ができたわよ?」


 遠くの方から、妻の子供たちを呼ぶ声が聞こえたきた。


「は〜い」


 パタパタと子供たちはドアへ走っていって、あっという間に出て行ってしまった。明引呼は時計を見てあきれた顔をする。


「いつもより早い時間ってか。知ってやがったんだな? カミさんは」


 月命に明引呼が気持ちがあると知っていたからこそ、子供たちが話の邪魔をしないよう、呼び出したのだ。何もかもお見通し。そして、妻の返事はイエス。


 月命は目を一瞬だけ伏せて、珍しく柔らかく微笑んだ。


「それでは、プロポーズの返事を聞かせてください」


 だがしかし、明引呼は暮れてゆく農園を窓から見渡して、声をしゃがれさせた。


「野郎どもの意見次第だな」


 上司の性癖を気にする人間もいるだろう。商品のイメージが落ちることだってある。そう考えると、明引呼一人で決めることはできなかった。


 みんなを大切に思う兄貴だからこそ、月命は愛したのだ。彼はマゼンダ色の髪を揺らして、静かに言葉を紡いだ。


「そうですか。それでは、今日は失礼します」

「おう」


 瞬間移動で指輪は持ち帰られると、一人残された部屋で、明引呼はどう切り出すのか、考えあぐねいていた。


    *

 

 そして、翌日の農園の昼休み休憩。野郎どもがテレビの前に集まって、ざわついていた。たまたま通りかかった兄貴に気づかず、男たちはバイセクシャルの複数婚の特番に釘付けになっている。


「カッコいいっすね?」

「男と男が結婚して、家庭を築くっすよ」

「誰もやってないことやるって、すごい勇気いるっすけど」

「この人たちはやったっす」

「すごいよな」


 テレビのまわりで、背後に兄貴がいるとも知らず、男たちはまだまだ話に夢中だった。


「うちでも誰か出たら、応援するぞ」

「そうだ、そうだ。素敵な家族ができるんっすから」

「商品も今より売れるかもしれないっすよ」

「確かに、新しい家族の絆がつまった肉って宣伝で、いけるっすね」

「いいことづくめだ」


 明引呼は口の端を歪めて、ふっと笑った。


「心配してたオレがバカみてえじゃねえか」


 時代は変わったのだ。あの悪が蔓延っていた時とはもう違うのだ。人を愛することに人数も性別も関係ないのだ。すんなり受け入れられる時代になったのだ。


 農園を見渡せるウッドデッキの上で、明引呼は携帯電話をポケットから取り出し、月命を呼び出す。


「どうかしたんですか〜?」


 凛とした澄んだ女性的な男の声がゆるゆると語尾を伸ばしてきた。


「結婚してもいいぜ」

「そうですか」


 月命は相手に愛おしく触れるように、指先で唇にそっと触れた。この男と魂で結ばれる。どんな感覚なのか。そう想像する前に、明引呼は髪をガシガシとかき上げた。


「がよ、年末の繁忙期に差し掛かっちまってるから、式は十二月の二十八日以降にしてくれや」


 今はまだ、十月の半ば。二ヶ月以上も先の話。だが、もう忙しさは始まっているのだった。


「おや、だいぶ間が空いてしまいますが、仕方がないです〜。皆さんには僕からきちんと伝えておきます」

「よろしくな」


 明引呼の長年の心の重荷は今ようやく降りた。太陽の元で胸を張って堂々と暮らしていける。やってくる未来はどこまでも明るく、大きく育って広がってゆくのだろう。


 しかし、とんでもない事件が起きるとは、明引呼どころか策略的な月命も予想だにしなかった。

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