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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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愛には愛を持って/4

 自分と同じ話ができる配偶者がいるとは思わなかったのだ。


「同じやり方ですか?」


 妻からの質問がやってきた。深緑の短髪は横へ揺れる。


「いや、違う。正中線だ」

「あぁ、それですか。ありがとうございます」

「くくく、正中線を知っている……」


 女で知っている人間に初めて会った夕霧命は、本当にいい結婚をしたのだと思った。師匠とのことを知らない倫礼は不思議そうな顔をした。


「え……?」

「何でもない」

「あと、それから、無住心剣流むじゅうしんけんりゅうなんですけど、やってますか?」

「くくく……」


 申し合わせたかのように、自分のやっている武術を知っている妻の前で、夕霧命は珍しく笑った。予想外の反応をされて、倫礼は戸惑う。


「あれ? 剣術はしてなかったんですか? バッサバサ人を切るテレビゲームのモデルでは日本刀使ってたけど……」

「いや、それをやっている」

「上げて下げるが基本じゃないですか? 横向きに剣振る時は武器の重みとかで下すとか、重力に逆らわないで上げるとかじゃないですよね? だから、違うのでは……?」

「宇宙はどの方向にも広がっている。だから、横の時も同じだと俺は解釈している」

「なるほど! ありがとうございます」


 おまけの武術の話は完全なる卓上論で、眼から鱗だった。夕霧命はまた目を細める。


「師匠の言う通り、俺はいい結婚をした」

「はぁ?」


 何を言っているのかわからない倫礼は思いっきり聞き返したが、途中で大声を上げた。


「あっ! 夕霧さんの師匠って……ん〜〜? あ、わかった、ピンときた!」

「誰だ?」

「あの猫に化けてた人じゃないですか?」

「当たりだ」


 もうずっと忘れていたが、必要なところで必要な人物が出てくるように、神世とつながっている人間の女はできていた。倫礼は懐かしそうな顔をする。


「うわ〜! あの人のところに行ってるんですか、意外――じゃないや! ぴったりだ」


 途中で言い換えた倫礼に、夕霧命は不思議そうな顔をする。


「なぜ変えた?」

「思い出したんです。夕霧さん、他の種族の人たちに好かれる体質だって」

「そうだ」


 会ったばかりだというのに、昔コウから教えてもらった話で、神の男のことは知っている。アンバランスなようでいてぴったりとくる関係で、面白いと夕霧命は思った。


    *


 光命は不安がっていた。未来の見えない人生を体験するのが、守護神の資格を取ることになるのだ。期間は二週間。外部との連絡は一切取ることができない。


 可能性で全てを測っている彼は、行く前からあれこれ導き出しては、答えがでない日々を送っていた。


 四十年以上も地球で生きている倫礼は、そんなことをしている神の光命に物申すをした。


「何度導き出しても、人生は失敗することがつきものなんです」

「ですが、失敗はしたくないのです」


 光命が言い返すと、さっきからずっと同じやりとりが続いてしまっていた。おまけの倫礼はイライラしてきて、とうとう怒鳴り散らした。


「だったら、失敗したら新しい可能性を導き出して、また失敗したら新しい可能性を導き出して、人生に争い続ければいいじゃないですか!」

「そのような考え方があったのですね」


 光命の冷静な声で倫礼は我に返った。急に笑顔になり、


「あぁ、そうか。この考え方を光さんに伝えるために、今みたいな話に神さまが持っていったんですね?」

「えぇ、神の導きです」


 ひとつずつ、大人になって、愛を深めて、とうとう研修に行く前日の夜となった。ベッドの中で光命は、おまけの倫礼を優しく抱きしめたまま耳元でささやいた。


「あなたをこのまま私の中へ連れ去りたい」

「連れ去ってください」


 倫礼は我慢していた気持ちが滝のようにあふれ出し、涙をポツリポツリとシーツに落とした。これが他の人なら、二週間なんてあっという間だと笑い飛ばせるが、おまけの倫礼はどんなに努力しても、光命がそばにいないということが一日も耐えられなかった。


 いつの間にか泣き疲れて、おまけの倫礼は光命の腕の中で眠りについた。


 そして翌日――。光命は出発した。倫礼は地球にいながら、彼の後を魂を飛ばして追っていたが、乗っていた列車を降りたところで、もうそれ以上見ることは許されなかった。

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