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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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愛には愛を持って/2

 しかし会ったことがない。倫礼は自信なさげにキーボードを触りながら聞いた。


「夕霧命さんですか?」

「そうだ」


 おまけの倫礼は直感した。光命が長い間結婚しなかった本当の理由を。複雑な思いで言葉をこぼす。


「……そうですか。光さんは夕霧さんを好きだったから、長い間結婚しなかったんですね?」

「えぇ」

「やっぱり、十四年は無駄じゃなかった」

「なぜ、そのように思うのですか?」

「十四年前に出会ったも、申し訳ないですが、男性同士の恋愛を真剣に取れなかったと思います。自分が障害者になってみて、人の痛みがわかるようになりました」

「そうですか」

「だから、十四年間あってよかったんです」


 光命は妻の横顔をそっと見つめる。本当は十四年も待たせたことに、罪の意識を感じていたが、おまけの妻はこうやって乗り越えていってしまう。そして、光命の心の重荷をとってしまうのだった。


 倫礼は笑顔で光命と夕霧命を交互に見る。


「やっぱり納得です」

「なぜですか?」

「なぜだ?」


 おまけの倫礼はパソコンの縁を指先で何度もなぞる。


「小説のモデルによく使わせてもらっていて、このふたりは価値観がとても似ていて、従兄弟同士。それなのに、お互いを補うような性質で、小さい頃からずっと一緒だったら惹かれて当然なのかな? って合点がいきます。恋愛対象として二人を書いたことはないですが、二人のやり取りのシーンが書きやすかったのはこう言うことだったからなのかと、今なら納得です」


 二人が好き合っていた。森羅万象のねじれがなく、ごくごく自然のことのように、倫礼には思えた。この二人が今ここにいることは、ずっと前から決まっていたことだったのだろう。


 そんな二人が家族になる。配偶者になる。おまけの倫礼は居住まいを正して、深々を頭を下げた。


「夕霧命さん、よろしくお願いします」

「明日式が終わったら、みことははずせ」

「はい……」


 今日初めて会って、明日には呼び捨て。心と心がつながる神世では仲が深まるのは、地球よりもずっと早い。倫礼は少しついていけない気持ちになったが、おまけである以上食らいついていくしかないのだ。


 夕霧命は一息ついて、光命に話しかける。


「それにしても、たった二週間でプロポーズしてくるとは、お前は落ち着きがない」

「仕方がないではありませんか。時間がなかったのですから」


 いつも冷静な光命なのに、少しムキになっていた。そして、言い争いが始まる。


「お前はあの時もそうだった」

「あなたもそうではありませんか」

「お前はいつもそうだ」

「あなたもではありませんか」


 従兄弟同士の小競り合いを、倫礼は微笑ましげに見ていた。


「あ、あれ? 二人にしかわからない会話をし始めた。痴話喧嘩?」


 人間の女はくすりと笑った。仲睦まじく喧嘩している神の男二人を眺めていると、倫礼はふと思いついた。


「どうして、光さんがずっと結婚しなかったのかのもうひとつの理由がわかりました」


 光命と夕霧命は言い争うのをやめて、遊線が螺旋を描く優雅な声が聞き返した。


「なぜですか?」

「夕霧さんにも知礼さんにも、光さんは誠実でいたかったんですね。だから、一人をきちんと愛せるようになるまでは、結婚しないって決めてたんですね?」

「えぇ」


 光命は優雅にうなずいた。倒れるほど悩んだ日々が嘘のように、今は晴れ晴れとした気分でいられることを、彼は神に感謝する。


「大人の世界を満喫してたわけじゃなかったんだ」


 二回目の結婚からずっと中途半端だった想いが、今一直線の線となってつながって、おまけの倫礼はほっとした。光命は優雅に微笑む。


「そちらも少々ありますが……。神の示した道は違っていたのです」


 ずっとそっちへ行ってはいけないと思っていたが、実は神の御心であり、進むべき道だったのだ。今となってはいい思い出だ。


 おまけの倫礼は珍しく嬉しそうな顔をした。


「でも、もういいんです。みんなと結婚したんですから」

「えぇ、そうです」


 一件落着となると、すらっと背の高い色気のにじみ出た女がやってきた。


「あぁ、初めまして」

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