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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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時代の最先端/3

 別の街角にいた女子高生は、天にまで登るような黄色い声を上げた。


「きゃぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

「ディーバ、かっこいい!」

「時代の最先端じゃん!」

「誰もやってないことやるなんて!」

「音楽もそうだけど、私生活もそうなんて、カッコいい!」


 あれだけ心配していた同性同士の結婚だったが、すんなり世の中に認められ入り込まれていく予兆を見せていた。


    *


 記者会見の騒動が起こった式場では、祭司が前へ出てきて声を張り上げた。


「はい、みなさん。ここは神聖な儀式場ですから、お帰りください。参列者の方も帰ることができず困っておりますので……」


 神に使える身の司祭の言葉は絶対で、テレビ局の記者たちは撤収を始めた。式場の中に閉じ込められたようになっていた夕霧命は、ようやく式場の外の空気をすえた。

 光命はあっという間に友だちに囲まれ、脇を小突かれる。


「大人の世界を満喫してた光が、子持ちなんてな」

「それも、いきなりだもんな」

「めでたい」

「そうだな、めでたい」


 胴上げをされている光命を遠くから眺めながら、焉貴はため息をついた。


「蓮のやつ、俺のこと好きだったんじゃないの? 他の男と結婚しちゃうなんて、ゲキ落ち込みなんだけど……」


 しばらく会っていないと思ったら、他の男に熱を上げていたとは、さすがの焉貴でも予測できなかった。祝いの席だが、気持ちがやけに沈む。

    *


 記者が引いてからすぐ、蓮は着替えて、マネージャーと一緒にコンサートホールの舞台袖にやってきていた。リハーサルがもう少しで始まる。


 蓮は懸念を抱いていた。あの混乱は、慣れている自分でさえも少々堪えた感じがしていた。銀の長い前髪をさらさらと不機嫌に動かしながら、


「事務所から言って、マスコミを規制しないと、光に負担が――」


 その時だった、蓮の目の前に貴族服を着た男が現れたのは。


「明智 蓮どの、陛下が謁見の間にお呼びでございます」

「わかった」


 呼ばれている以上、行かないわけにはいかなかった。国で一番偉い方が声をかけてくださったのだから。予約の順番の合間に組み込まれ、真紅の絨毯の上で、蓮は片膝をついて跪いた。


「お久しぶりでございます」

「久しぶりだ」


 分身したあの日から、九年の歳月が流れていた。その間一度も会うことはなかった。


「お前に頼みたいことがある」

「はい」

「新しい人の愛し方を世に広めてほしい」


 陛下の思惑はそういうことだったのだ。性別で差別をしない愛し方が新しい時代を担っていくのだと読んでいた。


「新しい愛し方……?」


 蓮は思わず顔を上げて陛下を仰ぎ見た。


「性別、人数に関係なく人を愛することだ。従って、マスコミへの制限を許可しない。以上だ」


 それでは、光命がまた気絶してしまうのではないかと、蓮は懸念し、物申すをしようとしたが、


「陛下、誠に僭越ながら――」

「これは命令だ」


 陛下に言い切られてしまった。深くこうべを垂れうなずくことしかできなかった。


「はい、かしこまりました」


    *


 その日は朝から晩まで、同性婚の話でテレビは持ちきりだった。


 聖輝隊の庁舎では、独健がお茶をしながら、テレビのニュースを見ていた。同僚は画面を横に、独健には話しかける。


「ディーバのニュースで持ちきりだな」

「そうだな」

「独健はどう思う? 男同士の結婚」

「いいんじゃないのか?」


 肩にふざけたように回された腕で、独健は同僚から逃げられないようにされた。


「誰か好きな男がいるのか?」

「ぶっ!」独健は飲んでいたお茶を思わず吹き出して、慌てて否定する。「いない。俺はストレートだ!」


 奥さんに子供もいて、それ以上の幸せを望む気持ちもないし、そんなシチュエーションにあったこともない。平和な暮らし。


 同僚は感慨深く言う。 


「霊界から上がってくる子供から始まった、明智家ブームだったけどさ、大人でも養子になりたいってやつがあとが絶えなかったらしいな。子供でもなかなか一門には入れないみたいで、でもさ、分家に婿養子なら大人でも入れるかもな」

「家名がほしくて結婚するやつなんか、どこにもいないだろう。たまたまだろう?」


 独健は少しだけ怒っていた。今テレビでやっている結婚が誰かの興味本位のために利用されるなどとは許しておけなかった。


「ま、そうだな」

「男と結婚か……。どこか別世界の話だな。俺には関係ない」


 独健はこの時まだ知らなかった。まさか自分がこの複数婚に巻き込まれる運命になるとは。

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