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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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恋に落ちたのは誰/2

「えぇ、どちらにいますか? そうですか。それでは、すぐに迎えに行きますよ」


 光命が電話を切ると同時に、待ちきれないと言わんばかりに、倫礼は話しかけた。


「どう?」

「くるそうですので、迎えに今から行ってきます」

「そう。じゃあ、楽しみにして待ってるわね!」


 一旦家に上がっている光命は身なりを整えようとすると、蓮が気を利かせた。


「戻ってくる時は、ここに直接でいい」

「ありがとうございます。それでは、失礼」


 慣れた感じで瞬間移動でいなくなると、夫婦ふたりは話し出した。


「あんなに綺麗な人だなんて、恋に落ちるのも仕方がないわよね?」


 倫礼の問いかけに、蓮は怒りで歪んだ顔をする。


「なぜ、その話を今さら言う必要がある?」

「今さら? 今じゃなくて?」


 倫礼は鋭利なスミレ色の瞳をじっと見つめた。妻の言動がわからず、ぎこちなく首を傾げると、蓮の銀の前髪がサラッと落ちて、両眼があらわになった。


「??」

「相変わらずね」


 倫礼は思う。自分と結婚した時も、まったくと言っていいほど恋心をスルーしていった蓮だったが、夫婦となった今では旦那の心など手に取るようにわかるのだ。


 青の王子に恋をしたのは、おまけの倫礼だけでなく、夫の蓮までもがあの絶美に囚われてしまったのだった。


 沈黙がどこまでも続いていきそうだったが、不意に響いた光命の声に、夫婦は我に返った。


「戻りましたよ」

「こんばんは」


 赤茶のくせ毛で、どこかとぼけている瞳を持つ女――知礼がにっこり微笑んでいた。倫礼はパッと表情を明るくさせる。


「あぁ〜、やっぱり素敵な人だった!」


 おまけの倫礼がずっと思っていた。光命が好きになったのだから、その彼女はきっと素敵な人なのだろうと。まさしくそうだった。倫礼の中には嫉妬心などどこにいもなかった。


「どういうことですか?」


 おまけの倫礼の存在を知らない知礼は目をパチパチと瞬かせた。初対面の人に知っているようなそぶりを見せられるとは。しかし、この話は内密にと陛下に言われている。倫礼は何気ないそぶりで、話をそらした。


「ううん、こっちの話。初めまして、倫礼と申します」

「もしかして、ファンタジー作家の明智 倫礼さんですか?」


 まだ有名でもないのに、そんなことを言われるなんて、倫礼は聞き返した。


「あら? もしかして、あなたも作家さんなの?」

「はい、そうです。ノンフィクション作家の知礼と申します」


 倫礼は胸の前で手をパンと鳴らした。


「知ってるわ! あらそう! 会ってみたかったのよ。ここが知りたいってことを、よく下調べして、本にしてる人だって毎回感心させられて、本全部持ってるわよ!」

「ありがとうございます」


 作家同士で、自分たちも仲がよくなれると、倫礼は思った。この世界では出会ったら愛は永遠。ということは、いつかは結婚する運命となる。それならば、早めに仲良くなっておくに越したことはない。


 みんなが席につくと、倫礼はノリノリになってグラスをかかげた。


「それじゃ、出会いを祝して乾杯!」


 心地よいグラスの鳴る音が響くと、様々な話をしながら食事が始まった。運命のように、明智家での食事会はこのあと定期的に行われてゆくが、決定的な変化をもたらすのはまだだいぶ後――二年も先になる。


 子供たちも一緒の食事会で、光命にピアノを習いに行っている息子の百叡はいつもとびきりの笑顔だった。ある時、光命に百叡が言った。


「先生がパパだったら、僕嬉しい」


 小さな人の告白は、大人の光命を強く揺さぶった。百叡の父親になれたら、どんなに素敵な日々が待っているのかと想像するのだった。


    *


 おまけの倫礼が光命と結婚したいと望むようになった日の前日、神界では涼やかな夜が広がっていた。


 中心街にある高級レストランの展望台に、蓮と光命は訪れていた。一緒に食事によく行くようになってから、三年の月日がもう少しで流れようとしている。


 遠くの街明かりがくすむことはなく、よく見渡せる場所で、光命は感嘆の吐息をもらした。


「なんと素敵な景色なのでしょう」

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