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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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恋に落ちたのは誰/1

 おまけの倫礼を間に挟んで出会った男ふたりは、あの日から食事に一緒に出かけることが当たり前となっていた。おしゃれなレストランで食後のコーヒーと紅茶を飲みながら、音楽に精通する者同士おしゃべりがはずむ。


「世界のことを音楽で例えるなら、あなたはどのように表しますか?」


 光命の問いかけに、蓮は視線を窓の外へ向けて考え始めた。


「世界……」

「えぇ」


 光命は紅茶を一口飲んで先を促す。目の前にいる綺麗な男は何と返してくるのか期待しながら。


「……サーティンス、サスフォー……いや、ディミニッシュ」

「コードで表すということですか?」

「そうだ。光は?」


 砂糖をたっぷり入れたコーヒを飲んで、蓮は光命の中性的な唇をじっと見つめた。


「そうですね……? 八分の五の微分音符でしょうか?」

「ん」


 この男のセンスはやはり素晴らしいと、蓮は心の中で噛みしめていたが、光命はくすくす笑い出した。


「おかしな人ですね、あなたは。私の前では一度もイエスと言ったことがないのですから」

「…………」


 蓮は無邪気な子供のような笑顔に急に変わった。光命の笑いは未だ収まらず、


「なぜ微笑んでいるのでしょう?」


 しばらく、男ふたりは幸せいっぱいだった。しかしやがてやってくる。


「そろそろ帰りましょうか」

「ん」


 相手の飲み物がなくなるたびに、別れの時がやってくるのではないかという心配は、こうして現実となる。


 蓮と光命の心の中で同じ言葉が、密かでありながら切実に浮かぶ。


 このまま帰らずに、夜の街に消えてしまいたい――


 鋭利なスミレ色の瞳は微動だにしなかったが、内心疑問の色が出ていた。


(なぜ、そんなことを思う? いつも通り連絡すればすぐに会える。なぜ、帰りたくないと思う? ……考えてもわからない)


「どうかしたのですか?」


 いつまでも帰り支度をしない蓮に、問いかけた光命が椅子から立ち上がって、後れ毛を耳にかける神経質な指先に釘付けにされ、蓮はまた動きを止めてしまう。


(光は綺麗だ……! なぜ、そんなことを思う? ……これも考えてもわからない)


「どうかしたのですか?」


 まだぼんやりとしていた蓮に二度目の光命の問いかけがくると、蓮は首を横に振った。


「……何でもない」

「そうですか」

「今度、家で食事をするのはどうだ?」


 泊まっていくという手もある。それが打開策だと、蓮は思った。光命は何の抵抗もなくうなずいた。


「えぇ、構いませんよ」


 名残惜しさを胸に、ふたりはそれぞれの家路についた。


    *


 明智家のリビングダイニングで、光命は倫礼の本体と蓮に迎え入れられた。お客様用にと少し張り切った料理がテーブルに並べられている。

 すらっと背が高く、人の目を奪ってしまうような絶美な男――光命の前に、倫礼は手を差し出した。


「初めまして……なのかしら?」


 どうにも不思議な体験だった。おまけの倫礼と記憶をシンクロしている本体にも、光命への想いや記憶がある。実際は会ったことはないのに、何と言っていいか倫礼は迷ったが、光命は優雅に微笑んだ。


「えぇ、そうです。あなたとお会いするのは今日が初めてですからね。早秋津 光命と申します」

「明智 倫礼と申します」


 紺の長い髪が癖のある緩いカーブを描いていて、冷静な瞳は水色。逆三角形のエレガントな体躯。倫礼は思わずため息をもらした。


「やっぱり綺麗ね。あの子が好きになるのも無理ないわ」

「ありがとうございます」


 優雅にお礼を言った光命の背後を、倫礼はのぞき込んで残念そうに言う。


「あら? 彼女は一緒じゃなかったの?」

「なぜその話になる?」


 蓮は超不機嫌顔をこっちへ寄越した。


「私っていうか、あの子の中では、光命さんは彼女といつもペアなのよ。だから、一緒にくるものだと思って、四人分料理作っちゃったわ」


 戒めとして、光命にパートナーがいると言うことは、健在意識で忘れていても、おまけの倫礼はしっかりとラベルを貼っていたのだ。


 会いたがっているのならば、光命はそう思って提案した。


「それでは、今から連れてきましょうか?」

「光が気を使う――」


 蓮の言葉の途中で、倫礼は思いっきり割って入った。


「あら、そう? じゃあ、お願いするわ。でも、何か用事があったらいいのよ」


「えぇ」と、光命はうなずいてから、瞬間移動で携帯電話を取り出して、意識下でつながっているそれを、タッチすることなくダイヤルした。すると、すぐに相手につながった。


「もしもし? 今友人宅に招待されているのですが、よろしかったら一緒にいかがですかとおっしゃっていますが……」

「どうかしら?」


 倫礼はテーブルに頬杖をついて、右に左に首を傾ける。

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