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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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陛下の命令は絶対服従/2

 国立ホテルの最上階にある、ティーラウンジへと連れてこられた。会員制となっていて、店の入り口からではなく、店内へ直接入れる秘密厳守の場所だ。


 近くの公園の噴水で遊ぶ親子が、はるか下に眺められる。スタッフが引いた椅子にふたりは腰掛けると、光命が慣れた感じで話しかけた。


「自動システムを利用しますので、下がってくださって結構です」

「かしこまりました」


 従業員は頭を下げて、部屋はふたりきりになった。光命が声をかけない限り、商品は瞬間移動で運ばれてきて、今後一切他の誰かがそばにこないということだ。


 コーヒーに砂糖とミルクをたっぷり入れて、一口飲んだ蓮から話を切り出した。


「話というのは何だ?」

「地球にいらっしゃるあなたの奥様について――のことです」


 光命の口から、おまけの倫礼の話が出てくるとは思っていなかった。蓮はいつ知ったのだと思った。


 陛下に言われて、おまけの倫礼のそばに行った時から、光命に会ったことなどなかった。それとも、おまけが勝手に勘違いをしていて、青の王子はとっくの昔から――


「知っていたのか?」


 蓮は聞いたが、光命の紺の長い髪は横へゆっくりと揺れた。


「いいえ、つい先ほど知ったのです」


 そうなると、光命とおまけの倫礼を結ぶ人物はひとりしかいない。鋭利なスミレ色の瞳で、地球五個分もある堂々たる建物を見つめた。


「城へ呼び出されたのか?」

「えぇ、今からきちんとお話しします」


 光命にとっても、それは寝耳に水の話だった。


    *


 数十分前のことだ。

 自宅のピアノを神経質な指先で強く優しく叩き、まぶたの裏に隠していた水色の瞳が開かれると、そばに置いてある写真立てが視界に入った。


 夕霧命とその妻の覚師、光命と知礼。そして子供たちと一緒に遊園地に行った時に撮ったものだ。


 自分の望んだ通り完璧な幸せではないにしろ、神から与えられた日常は穏やかで輝いていて、幸福に包まれ、再び目を閉じようとすると、異変を感じた。ふと手を止める。


「音がおかしい……」


 静かになったピアノ室で、レースのカーテンを見ようとすると、突如知らない男の声が背後でした。この部屋に他に人はいないのに。


「――ご無礼をお詫び致します」


 貴族服を着た男が立っていた。襟元には獅子の紋章が彫られているバッチをつけている。


「城の方?」


 独特の服装と紋章。街で見かけることはほとんどない。光命も生まれたばかりの頃は何度か見かける機会はあったが、最近はめっきりなくなっていた。


 男は礼儀正しく頭を下げ、用件を切り出した。


「通常でしたら、時を止めるようなことはいたしません。ですが、陛下から内密にと仰せ遣っており、今回このような方法で、早秋津 光命さまのもとへまいりました」

「陛下がご内密に……?」


 細い指をあごに当てて、冷静な思考回路を展開する。陛下が自分に内密な話があるとして一番高い可能性は……。


「どなたにもおっしゃらないようにとの配慮から、時を止め、他の者に秘密はもれないよう、こちらのような方法を取りました。陛下の『執務室』へご同行願えますか?」


 午後を少し回った時間帯。陛下は今はまだ謁見の間で、予約を入れた人々と話をされていることが通常だ。仕事の手を止めてまでの用となると、


(謁見の間ではなく、執務室……。どのような内容なのでしょう? しかしながら、帝国で暮らす私には断る通りがありません。ですから……)


 陛下のご意思は理解できなかったが、あごに当てていた手を解いて、光命は城の部下に優雅に微笑み返した。


「えぇ、構いませんよ」


 ふたりは瞬間移動で消え去ったが、首都の中心街に建っている早秋津家や他の場所も、人々が不自然に動きを止め、大きな力――神威が働いていることを認めざるを得なかった。


    *


 一瞬のブラックアウトのあと、光命の目の前には、執務室の机の向こうに、逆光を浴びた人物が座っていた。


「ご苦労だった。下がっていい」

「はい、失礼いたします」


 部下は一礼して、部屋から出て行ったが、時はまだ止まったまま。全ての音が消え去っている中で、光命は陛下の前で跪いた。陛下は珍しく少しだけ微笑む。


「元気でやっていることは他の者からよく聞いている」

「お気にかけてくださって、ありがとうございます。お久しぶりでございます」

「久しぶりだ」


 高貴な雰囲気をまとった陛下と、貴族的なイメージが強い光命は、それぞれの立場でしばらく黙ったままだった。


「挨拶はこのくらいにして、お前に頼みたいことがある」

「えぇ」


 光命は顔を上げて、陛下のお言葉を拝聴した。

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