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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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お前の女に会わせて/3

 林が途切れ、初夏の日差しが倫礼の髪を明るく照らし出して、彼女は目を細め、サングラスをかけた。


 焉貴はそれを眺めながら、小さくつぶやく。


「月主命ってあいつじゃないの?」


 同姓同名はいる。しかし、月の主などという名前を使っている人間はそうそういない。


 池に立ち寄って、鴨が水面を泳ぐ姿を倫礼は眺めながら、綺麗に整備された石畳の上を歩き出した。


「月主命さんはどのような方ですか?」


 会ったこともなかったが、コウが力説していたのを思い出した。三代理論派の神として挙げていた話だ。メンバーは光命、江の旦那――緑、そして、今話している月主命のことだった。


 同じ思考回路だが、重きを置いている箇所が違うのだと、コウはふんぞり返りながら説明していた。倫礼はそれを懸命に思い出す。


「え〜っと、理論で考える人で、負ける可能性の高いものを選びます」

「あとはありますか?」


 おまけの倫礼は、月主命のある話がギャグに思えて、忘れたくても忘れられないほど強烈な印象を残していた。


「あぁ、聞いただけなのでわからないんですけど、陛下の元へくる女性がみんな月主命さんと結婚したいって言ってたって聞きましたよ」

「そうですか」


 うなずいた焉貴は思う。その話は今では伝説となっていて、月主命といえば、女を誰一人もれることなくプロポーズさせる、レディーキラーだと。


 どんな魔法を使っているのかという笑い話まであるくらいだった。本人は超現実主義者で魔法使いではないのに。


 再び、人間世界には聞こえないように、シャットアウトした。


「やっぱりあいつ、同僚なんだけど……」


 焉貴は考える。男を愛する気持ちはよくわかる。孔明に対してそうなのだから。そして、今隣で不機嫌に歩いている銀髪の男にだって同じだ。


「しかも、さっきの話と足したらさ、俺と月主が結婚するみたいじゃん?」


 モデルと名前が一緒になって、ひとつに結ばれる――そんな予測が生まれてもおかしくはなかった。


 しかし、どうやってもあのマゼンダ色の長い髪を持ち、邪悪なヴァイオレットの瞳を隠している男は違う。多少話は合いやすいが、性的にどうとかという相手ではない。


 女がさっきから使っている勘には決定的な弱点がある。それははずれることがあるということだ。焉貴の名前は当てたが、月主命のことははずしたのか。


 銀の長い前髪を不機嫌に揺らしていた蓮は、ふと立ち止まった。


「焉貴と月主……?」


 小学校で出会った先生だが、今では呼び捨ての仲となったふたり。

 丁寧な物腰が似ていると言えば似ている。しかし、親しくなってみると、ふたりとも言葉遣いが違う。理論的で感情を持っていない。


 だが、なぜか吹き出して笑ってしまうほど、おかしなことを言ってきたりしてきたりするのだ。蓮にとってはお気に入りの時間を過ごせるふたり。それが何からくるのものなのかわからないが――


「何お前、考えてんの?」


 焉貴の黄緑色の瞳にのぞき込まれていることに気づき、蓮は気まずそうに咳払いをした。


「んんっ! 何でもない。おまけの話はまだだ」


 守護神が言った通り、人間の女からは続きが聞こえてきた。


「焉貴さんって、冷静な人で、揺るぎない信念を持っていて、悪に対して非常に厳しい人。感情に左右されないというか、それを持っていない。違いますか?」


 焉貴は思わず、神の力を使ってしまった――。不自然に人々は動きを止め、無風無音となった地上。


「何これ、どうなってんの?」


 さっき会ったばかりで、視線も合わせてこない人間が神の性格を当てる。ミラクル風雲児もさすがに、待ったをかけた。


「お前、勝手に時間を止めるな」


 守護神の仕事とは、同僚との折り合いがとても大切なものだ。地球は人ひとりのために回っていないのだから。守護神でもない男が勝手に止めていいものではない。


 それでも、焉貴は動じることなく、倫礼の言っていた通りに人の意見に左右されず、時を止めたまま話を続けた。


「お前話したの? 俺のこと」

「話していない」


 蓮は首を横に振った。連れてくる約束だって、忘れかけてたのを催促されて今ここにいるのだ。

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