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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
171/244

お前の女に会わせて/1

 神がふたり、地上を歩いていた。初夏のさわやかな風が吹く、首都郊外の街を。山吹色のボブ髪をかき上げると、黄緑色の瞳が現れ、マダラ模様の声が聞いた。


「そう、地球ってこんなとこなのね」

「そうだ」


 答えるのは、銀の長い前髪に、鋭利なスミレ色の瞳を片方だけ隠した蓮だった。彼の隣をさっきから歩いているのは焉貴で、初めて行ったフルーツパーラーでした約束のために、地球にわざわざ降臨してきた。


「どれがお前の女?」

「あそこだ」


 ふたりの目線の先には、ブラウンの長い髪をひとつにまとめ、ひとり気ままに歩いている、おまけの倫礼の姿があった。


「どこ行くの?」

「近くの公園に散歩だ」

「そう」


 自分たちに近づいてきては、素通りすぎてゆく人間たち。気づくものは誰もおらず、ぶつかることもせず。しかしそれ以上に、休日の天気のいい日なのに、寝静まった夜みたい――世界に誰もいないみたいに静かだった。


 焉貴の宝石のように異様に輝く黄緑色の瞳は、無機質にあたりを見渡す。


「それにしても、まわり誰もいないね」

「当たり前だ。魂の入っているやつはこの辺には誰もいない」


 不思議な光景だった。動いているのは肉の塊ばかりで、自分たちと同じ心を持っている者がいない。


「守護神もいないじゃん?」

「コンピュータ制御だ。よほどのことがない限りここへこない」

「そう」


 地球の存在さえ知らない人は大勢いるのだ。魂が入る必要がないと判断された肉体に、神さまたちの生活を割いてまで、見ている必要はなかった。そうして開発されたのが、コンピュータ制御という自動操縦だ。


 またひとり焉貴の体を、空っぽの肉体が通り過ぎてゆく。


「で、お前の女は俺たちが見える霊感を持ってるから、お前はここにいるってことね?」

「そうだ」

「話相手ってわけね」


 公園の入り口から木々が生い茂った道へと入ってゆく、倫礼の後ろ姿を眺めた。守護神が情けや同情で動くことはない。それはわかり切っていることで、蓮がそばにいて、あの人間の女に話しかけていることは、別の意味――導きなのだろう。


 焉貴は当初の目的を口にした。


「俺が話しても聞こえんの?」

「知らない」

「そう、じゃあ、話しかけちゃう!」


 聞こえれば聞こえた。聞こえなければ、それまでで、孔明という男を理解するための情報は、こうやってまわりに広がっている景色から拾い上げればいいのだ。


 地面を懸命に歩いている、おまけの倫礼に、焉貴は浮遊で近づいた。左斜め後ろに立って、声をかけようとする。


 その姿を見て、蓮は表情を歪めて、わかっていないと言うように首を横にふった。


(おまけの霊感は右側が発達しているから、反対側では聞こえな――)


 さっきまで蓮と話していたような、ケーキのはちみつをかけた甘さダラダラの砕けた口調ではなく、好青年の冷静さを持っている雰囲気で、焉貴は声をかけた。


「初めまして」


 聞こえないはずだったが、倫礼は驚いた顔をした。


「え……?」


 しかし、まわりを歩いている人には、話しかけてきた神の姿は見えないし、声も聞こえない。


 ジョギングなどをしている人がいる公園の道で、急停止するのは危険だ。おまけの倫礼は歩く速度を変えずに、聞き覚えのない声と雰囲気で話しかけてきた男性神に、心の中で頭を丁寧に下げた。


「あ、あぁ、初めまして。だ――!」


 そこまで言って、ピンときてしまった。口数が少ないからあまり話さないが、あの銀髪でスミレ色の瞳を持つ夫がすぐさま浮かんだ。


「わかった! 蓮の友達ですよね?」

「えぇ」


 焉貴が短くうなずき返すと、倫礼はコウに昔言われたことを思い出した。神さまは心を大切にするから、言葉遣いだけ整えても無駄なのだと。反対を言えば、砕けた口調のほうが距離感を縮められるのだと。


「ですよね〜?」


 家族以外の神さまになど会ったこともなかったし、相手が丁寧に話しているから、倫礼はかろうじて丁寧語を使っていただけだった。 神がふたり、地上を歩いていた。初夏のさわやかな風が吹く、首都郊外の街を。山吹色のボブ髪をかき上げると、黄緑色の瞳が現れ、マダラ模様の声が聞いた。


「そう、地球ってこんなとこなのね」

「そうだ」


 答えるのは、銀の長い前髪に、鋭利なスミレ色の瞳を片方だけ隠した蓮だった。彼の隣をさっきから歩いているのは焉貴で、初めて行ったフルーツパーラーでした約束のために、地球にわざわざ降臨してきた。


「どれがお前の女?」

「あそこだ」


 ふたりの目線の先には、ブラウンの長い髪をひとつにまとめ、ひとり気ままに歩いている、おまけの倫礼の姿があった。


「どこ行くの?」

「近くの公園に散歩だ」

「そう」


 自分たちに近づいてきては、素通りすぎてゆく人間たち。気づくものは誰もおらず、ぶつかることもせず。しかしそれ以上に、休日の天気のいい日なのに、寝静まった夜みたい――世界に誰もいないみたいに静かだった。


 焉貴の宝石のように異様に輝く黄緑色の瞳は、無機質にあたりを見渡す。


「それにしても、まわり誰もいないね」

「当たり前だ。魂の入っているやつはこの辺には誰もいない」


 不思議な光景だった。動いているのは肉の塊ばかりで、自分たちと同じ心を持っている者がいない。


「守護神もいないじゃん?」

「コンピュータ制御だ。よほどのことがない限りここへこない」

「そう」


 地球の存在さえ知らない人は大勢いるのだ。魂が入る必要がないと判断された肉体に、神さまたちの生活を割いてまで、見ている必要はなかった。そうして開発されたのが、コンピュータ制御という自動操縦だ。


 またひとり焉貴の体を、空っぽの肉体が通り過ぎてゆく。


「で、お前の女は俺たちが見える霊感を持ってるから、お前はここにいるってことね?」

「そうだ」

「話相手ってわけね」


 公園の入り口から木々が生い茂った道へと入ってゆく、倫礼の後ろ姿を眺めた。守護神が情けや同情で動くことはない。それはわかり切っていることで、蓮がそばにいて、あの人間の女に話しかけていることは、別の意味――導きなのだろう。


 焉貴は当初の目的を口にした。


「俺が話しても聞こえんの?」

「知らない」

「そう、じゃあ、話しかけちゃう!」


 聞こえれば聞こえた。聞こえなければ、それまでで、孔明という男を理解するための情報は、こうやってまわりに広がっている景色から拾い上げればいいのだ。


 地面を懸命に歩いている、おまけの倫礼に、焉貴は浮遊で近づいた。左斜め後ろに立って、声をかけようとする。


 その姿を見て、蓮は表情を歪めて、わかっていないと言うように首を横にふった。


(おまけの霊感は右側が発達しているから、反対側では聞こえな――)


 さっきまで蓮と話していたような、ケーキのはちみつをかけた甘さダラダラの砕けた口調ではなく、好青年の冷静さを持っている雰囲気で、焉貴は声をかけた。


「初めまして」


 聞こえないはずだったが、倫礼は驚いた顔をした。


「え……?」


 しかし、まわりを歩いている人には、話しかけてきた神の姿は見えないし、声も聞こえない。


 ジョギングなどをしている人がいる公園の道で、急停止するのは危険だ。おまけの倫礼は歩く速度を変えずに、聞き覚えのない声と雰囲気で話しかけてきた男性神に、心の中で頭を丁寧に下げた。


「あ、あぁ、初めまして。だ――!」


 そこまで言って、ピンときてしまった。口数が少ないからあまり話さないが、あの銀髪でスミレ色の瞳を持つ夫がすぐさま浮かんだ。


「わかった! 蓮の友達ですよね?」

「えぇ」


 焉貴が短くうなずき返すと、倫礼はコウに昔言われたことを思い出した。神さまは心を大切にするから、言葉遣いだけ整えても無駄なのだと。反対を言えば、砕けた口調のほうが距離感を縮められるのだと。


「ですよね〜?」


 家族以外の神さまになど会ったこともなかったし、相手が丁寧に話しているから、倫礼はかろうじて丁寧語を使っていただけだった。

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