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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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おまけはまだ愛している/3

 おまけであろうとも、妻の過去を、神の力で追ってゆく。また一枚紙をめくる。


「火炎不動明王、国の情報メディア監督期間、民間との折衝せっしょう役。花梨輪かりわん、妻」


 ゲームソフトをしまい、また別のものを取り出す。これをプレイしている倫礼の心の声が聞こえてくる。


「――もっとゴツいイメージかと思ったら、優しい人なんだね。でも、ちょっと個性的な価値観かな? っていうか、天然ボケ? だね」


 神様の名前やデータを吸収してゆくのが楽しくて仕方がない日々。倫礼の笑顔は今よりもずっと自然だったが、それは無知であるがゆえのものだった。


 そして、また一枚めくる。


「独健、聖輝隊の聖獣隊、特殊任務。陽和師ひおし、妻」


 一度しまったゲームソフトをもう一度取り出した。鮮やかな緑色の短髪を持つキャラクターを見つめる。


「俺がモデルになったものと同じものに出ている……」


 神の悪戯か何かなのか、奇妙なキャスティングで、よくよく見れば、夕霧命という男もモデルで出ていた。ゲーム画面を見つめながら、お菓子をつまんでいる倫礼が浮かぶ。


「――ふ〜ん、女性を守ろうとする、優しいタイプ。ん〜、ちょっと好みじゃないかな?」


 そして、蓮は同じページで身近な人の名前を見つけた。


「明智 光秀、聖獣隊、特殊任務……」


 そこでもう一度、独健がモデルになっているキャラクターを凝視しながら、


「ん? 父上は今現在、聖輝隊だ。だいぶ昔のものか?」


 また同じページを見ると、今度は違う名前が目に入った。


「張飛、聖獣隊……」


 彼のモデルになっているゲームソフトはどこにもなかった。人をバッサバサ斬るゲームが得意ではないと言って、見逃したのだ。


「――もめた? 自分の国と比べて? 熱い人だなぁ〜」


 孔明がパーティー会場で見た場面を人から聞いて、倫礼が困惑している姿が浮かび上がった。ゲームソフトを置いて、蓮は綺麗な唇を指先でなぞる。


「聖獣隊は……なくなったと学校で習ったが……? まだ存在しているのか?」


 邪神界を知らない世代の、蓮は平和な世界の中で生まれ生きている。鋭利なスミレ色の瞳をあちこちにやっていたが、倫礼の記憶と足して結論にたどり着いた。


「これは、十年以上も前に書いたものだ」


 もう一度よく見ようとすると、夫は妻の本棚から、この名前をとうとう見つけてしまった。


「光命……」


 おまけの倫礼から大量の記憶がなだれ込んできて、守護神は人間の女の過去に簡単にたどり着いた。


「俺が生まれる前に、おまけが好きになった男。人間ではなくて、神だ」


 嫉妬心を『持たない』神の世界で暮らす蓮は、激しい怒りに駆られた。


「なぜ、俺と結婚した?」


 おまけの倫礼が己の気持ちに嘘をついていることが許せなかった。己に誠実でないことが許せなかった。断りたいのなら、断ればよかったのだと問い詰めたくなった。


 静かに眠っている倫礼の寝顔を両手で触れられないながらもつかんで、心の中に呼びかけて無理やり起こしてやろうと思った。


 しかし、蓮の手は彼女の頬に届く前にふと止まった。おまけは自身の気持ちに嘘をまったくついていないと感じ取って。


 代替えとか、妥協とか、そんなのではなく、蓮のことを素直に好きになったのだ。もう、彼女は光命を忘れているのだ、健在意識では。心の奥底には残っていても、もう意識して覚えていないのだ。


 眠っている肉体がまだ奇跡来だったころの、コウと話した内容が蓮にも聞こえてくる。全体の流れがつながらない、途切れ途切れのまま。


「綺麗な名前だね。現代的だ。光なんて」

「神さまの名前だぞ。呼び捨てにするな」

「そうだね。じゃあ、光命さん」


 まるで映画を見ているように、倫礼の記憶は進んでいき、決定的な話がコウからもたらされた。


「彼女ができた!」

「あぁ、そうか……」

「いや〜! なかなか彼女ができなかったが、やっぱり運命の出会いというものはあるんだな。人それぞれ出会う時期などは違うから、光命は少し遅かっただけなのかもしれないな」

「そうだよね。光命さんだって大人だもんね、彼女ができるよね」

「そうだ。どうした?」

「いや……。よかったなって。光命さんが幸せになることができて」

「だろう? 母親に似てる人を彼女に選んだらしいぞ。かなりの天然ボケで、罠を張って悪戯しては喜んでるそうだ。結婚するのも時間の問題だろうな」

「そうか。光命さんはそういう女の人が好きだったんだね。みんな結婚してたもんね。だから、光命さんもすぐにするね」


 どんな存在にも聞こえないように、おまけの倫礼は感情を自分の中へ閉じ込めて、泣くこともせず、ただひたすら耐えた。


 たとえ神であろうとも、人間本人が手を伸ばさないのなら、叶える必要などない。一生懸命手を伸ばして、願っているからこそ、どんな存在でも応えてあげたくなるものだ。


 倫礼が望んでいないのならと蓮は思い、鼻でバカにしたようにわざと笑った。


「ふんっ! 所詮運命じゃなかったんだな。あきらめたから、今まで想いもしなかったし、口にもしなかったんだな」


 うんうんと何度もうなずきながら、忘れ去られた古い資料を瞬間移動で本棚へ戻した。そして、もう一度寝顔を見ようとすると、守護神――結婚をした夫には伝わってしまった。

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