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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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男はナンパでミラクル/4

「お前が『綺麗』だからさ、話したいんだけど……」


 男の香りが思いっきりする顔で男に言われて、孔明は肩の力が抜けきった。


「やっぱりナンパ……」

「そうね。ナンパ」


 世界の法則さえも、戦車か何かで強引に押し倒していきそうな男は、はっきりと男に興味があると言ってのけた。


 ここは国の首都で、城のすぐ近くにある高級ホテル。洗練された人はたくさんいて、ワインレッドのスーツを着た、スラッと背の高い男だってなかなかのルックスだ。


 孔明は落ちてきてしまった漆黒の髪を、赤く細い縄のような髪飾りと一緒に背中へ払いのけた。


「どうして、女性じゃなくて、ボクなの?」

「どうして、綺麗なやつに性別関係すんの――?」


 男の顔からナルシストの笑みはすっと消え去った。ふざけているわけでもなく、道理のわからない子供でもなく、当たり前のように質問が返ってきてしまった。


 孔明はこんな価値観の人間に初めて出会った。神界ではわからないが、そもそも地上では隠したがる話だ。男色家だなんて。


「キミ、どこからきたの?」

「東に十個行った宇宙からきたけど?」


 男はすぐそこを差すように、親指を頬の横で後ろへ引く仕草をした。言っていることはあっている。東西南北で場所を表すのが総合宇宙の決まりだ。


「そう……」


 孔明はうなずき返しながら、あまり資料のない、その宇宙についての人から聞いた話や文献などを全て思い出してみたが、決め手となる情報はなかった。それならばと、彼は思う。


(だから、ボクと価値観が違う? それなら、情報を手に入れるにはいい機会かも。じゃあ……)


 荷物を持ったまま立っていた人たちに視線で合図をすると、運転手が外へ出てきて、花束などをトランクに詰め始めた。


 孔明はさっきとは打って変わって、春風でも吹いたように穏やかに微笑む。


「お茶いいよ」

「そう。じゃあ……」


 男は言うが早いか、シルバーの細いブレスレットをした孔明の手首をさっとつかんで、半歩進もうとすると、大先生が突然驚き声を上げ、


「うわっ!」


 次の瞬間にはふたりともいなくなっていた――。荷物を詰め終えたところに、綺麗な水色のロングドレスを着た女がやってきて、


「先生、どこ行っちゃったの?」


 助手の紅朱凛が仕事を終えて、ホテルの出口へ現れたが、約束を破ったこともない大先生がいない。しかし、彼女は慌てるわけでもなく、携帯電話を取り出して、意識下でダイヤルし始めた。


    *


「――瞬間移動かけるなんて、エチケット違反……」

「言うより早いじゃん?」


 人を移動させることはもちろんできるが、相手にして見れば、人権が侵害されたのも同然で、基本的には仲がかなりよくならないと、してはいけない行為だった。


 男は気にした様子もなく、椅子に座った状態から、時間が再び動き出したまわりを、宝石のようにキラキラと輝く瞳で見渡す。


 聡明な瑠璃紺色の瞳も同じようにするが、窓の外は街明かりと人混みが昼間よりも少なく流れていた。


 店内はパステルカラーの緑やピンク、黄色が基調となって、果物の絵があちこちに、細い筆で描いたようにデザインされていた。


「ここ場所どこ?」


 強制的に座らされた椅子の上で、着物の裾が幾重にも重なってしまい、居心地がよくなくて、孔明は腰を少し浮かせて直し始めた。


「センター駅近くのフルーツパーラー」


 大通り三本も違う場所。孔明は珍しくため息をついて、携帯電話をポケットから取り出そうとする。


「はぁ〜。連絡しないと。ボクのこと探してる」


 客が瞬間移動で店に勝手に入ってくるなどよくある話で、ゾウの女性がテーブルまでやってきて、丁寧に頭を下げた。


「ご注文はいかがにしますか?」

「マスカット大盛りで」


 主導権を握っている男は簡単に答えたが、孔明も負けずに平然とオーダーした。


「ボクはチョコレートパフェ」

「かしこまりました」


 店員が頭を下げて去ってゆくと、鳴り続けていた携帯電話を、孔明は意識化で通話にして、


「あぁ、もしもし? ボク、急に人と話すことになったから、先に家に戻っててくれるかな? そう。よろしく〜」


 携帯電話がポケットへしまわれると、男は椅子の上で寂しがりやの子供がするように両膝を抱えた。


「何? 彼女?」

「そう」

「つれてくればいいじゃん」


 孔明は頭の中で想像する。夜もだいぶ更けた都会。まわりにいる客はカップルがほとんどで、いたとしても上品な大人のふたりづれ。静かな空間。そこへ、あの水色のドレスを着た紅朱凛がやってきて、この男について説明をして……。どうにもそぐわない。


「三人で話すの?」


 男ふたりに女ひとり。しかも、目の前にいる男は自分を綺麗だと言う。そんな男はさらにもっとエキセントリックを披露した。


「俺も奥さんと子供三人呼んじゃうからさ」


 妻帯者だった。孔明はギョッとするまではしないが、男の黄緑色の瞳をまじまじと見つめた。


「キミ、結婚してるのに、ボクに声をかけたの?」

「そう」

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