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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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男はナンパでミラクル/3

 立食式のパーティ会場は縁も竹縄で、聡明な瑠璃紺色の瞳を持つ大先生に、最後のご挨拶をと次から次へとひっきりなしに、立派な服を着た大人たちがやってきては、社交辞令が少し入った言葉を置いてゆく。


 頭を下げるたびに、漆黒の長い髪は白い着物の肩からサラサラと落ちて、エキゾチックな香をまき散らす。


 孔明は人々の名前を、話している言葉を全て記憶しながら、まったく違うことを考えていた。


(陛下が統治する世界はますます広がってる……)


 同じ次元はもうどこも帝国となっていた。上の次元から、この世界へ降りてくる人もいれば、生まれ変わっているという噂も聞く。


 新しい土地が開拓されれば、私塾を開いている孔明にとってはビジネスチャンスの到来だった。


 なぜなら、悪というものはこの世界にしかないのだから。悪を知っている自分を、個性として存分に利用し、負けない戦術を人々に広める。


 それは勝算がきちんと見込まれていたが、大先生――恋する天才軍師は他のところでチャンスを見出せずにいた。


(それでも、同性愛は見当たらない。やっぱり神さまは男性と女性で好きになるのかな? 運命はそういうふうに決まってるのかな?)


 長い挨拶の列も終わり、城の隣にある高級ホテルから、孔明は荷物や花束を主催者側の人に持たせて、いつもと同じように手配されたリムジンへ乗り込もうとする。


「先生、お車こちらに用意してありますので……」

「ありがとうございます」


 頭を下げて乗り込もうとすると、横から男の声がふとかけられた。


「ねぇ? そこの彼?」


 その声色は、皇帝で天使で大人で子供で純真で猥褻で、あらゆる矛盾を含んだマダラ模様のものだった。


 知り合いにこんな男はいない。名が知れ渡っているからこそ、ズケズケとプライベートへ入り込もうとする人間がこの世界にもいるのだ。


「…………」


 孔明は聞こえない振りをして、リムジンに乗りこもうとしたが、白い着物の腕をつかまれた。


「ちょっ、ちょちょっ! 待って」

「私に何かご用ですか?」


 振り向くと、光沢のあるワインレッドのスーツに、白いフリフリのシャツ。まるでホストだったが、顔半分を覆うような黄色いサングラスが夜なのに、やけに個性を出していた。


 そして、男はナルシスト的に微笑み、


「お茶しない?」


 高級ホテルのロータリーで、二百三十センチもある背丈の男に、二百一センチの男が誘うという、ミラクルな展開に、さすがの孔明も顔色は変えなかったが、心の中でため息をついた。


(男からナンパされた……)


 助手の紅朱凛は後片付けなどをしていて、まだやってこない。こんな男に構っている暇はなく、孔明は丁寧な口調でどこからどう見ても好青年だった。


「お断りしますよ」

「どうして?」


 大先生は身構えた。それは疑問形――情報収集の基本を相手がしてきたからだ。だから、孔明はこう返す。


「なぜ、そのように聞くのですか?」


 だが相手も負けていなかった。山吹色のボブ髪を片手で気だるくかき上げる。


「それ聞いちゃいたい?」

「どのような内容ですか?」


 宝石のように異様にキラキラと輝く黄緑色の瞳は、黄色いサングラスがかけられているが、一度見たら一生忘れられないほど強烈な印象だった。


「お前、頭いいね。さっきから質問ばっかしてさ。情報漏洩しない。でしょ?」

「そうかもしませんね」


 ナルシスト的な笑みは消え去って、あたりの空気が激変した。


「でもさ、俺、真面目に話してる、今」


 ビリビリと刺すような、教会で感じるような畏敬としか言いようがなかった。しかしこんなことで引き下がる孔明でもない。何百メーターもある龍族と交渉することなどよくあることなのだから。


「私も真面目に話しています」


 聡明な瑠璃紺色の瞳は猛吹雪を感じさせるほど冷たかったが、男の黄緑色の瞳は感情がどこにもない無機質なものだった。それなのに口調は、ケーキにハチミツをかけたような甘さダラダラ。


「そう。だからさ、お茶しようよ〜? 立ち話も何だからさ」


 下手したてに出ていれば何とやらで、孔明はまわりの人たちに聞こえないようにかがみ込んだが、デジタルに口調が切り替わっていた。


「『お前』さ、『俺』に何の用? 仕事のことならお断りなんだけど……」


 孔明は直感した。この男の前では、どんな人物も無力になる。どんな武器を持ってしても、この男の前では震え上がると。


 その通り男は気にした様子もなく、またナルシスト的に微笑んだ。


「そう。お前も言葉変えてしゃべるんだ。俺もそう。仕事とプレイベート分けてる。気が合うじゃん?」


 それならば、無駄な足掻きをしても仕方がない。孔明は普段使いになった。


「『ボク』と『キミ』の会話は合ってないかも?」


 男はサングラスをはずして、大いに感心した。


「お前、マジで頭いいね。不確定でしかも疑問形。情報漏洩しないじゃん? それって」

「ボクのこと知らない……?」


 帝国一の頭脳を持つ有名な大先生を頭がいいと言う。孔明にとって、男は稀有な存在でありながら拍子抜けした。

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