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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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パパ友なら本名で呼んで/2

「さすが手が早いです」


 時々、罠を仕掛けて笑いに持っていこうとする貴増参に、明引呼はきっちり突っ込んでやった。


「手は出してねえんだよ。声かけただけだって」


 真面目にママを探している貴増参は、興味津々で身を乗り出す。


「どこで出会っちゃったんですか?」


 椅子を動かした音が教室に響き、男ふたりは場をわきまえて、声のトーンを落とした。


「陛下のとこに行ってんだろ?」

「えぇ、えぇ、僕たちは時々呼び出されますからね」


 陛下は城を構えていて、そこへ神々が呼び出されたり、報告などをする毎日が続いている。当然、会ったこともない人間はいるもので、明引呼は、


「そこにきてた女だよ。オレはよ、こび売ったりようえ振りする女に興味ねえんだ。その女は違ってよ。ガンと引かねえとこなんか、モロ好みだ。話しかけたら、ふたつ返事でオッケーだったぜ」


 パパ友が幸せと聞いて、貴増参はまたにっこり微笑んだ。


「陛下がご結婚されたことが人々の模範となり、今や出会いと結婚ブームです。君もそれに乗っちゃったんですね?」


 言っても人とはついてこないもので、黙って背中を見せるのがいいと言うのが世の中の常。それに陛下ももれず、結婚しろと言う命令は出さなかったが、態度で示した結果だった。


 明引呼は彼なりの解釈をする。


「そういう運命の流れだったんだろ」


 永遠に続く時の流れの中で、たまたま今だったのだろう。邪神界があったとかそういうのではなく、女と明引呼の出会いは今この時がベストだったのだろう。


 兄貴と慕われる男の中の男を隣にして、貴増参は優男ぶりを発揮した。


「僕もそのセリフを言ってみたいです。こう、君のように鋭い眼光で、渋い声で――」


 できるだけ明引呼の真似をしようとしてみた。しかし全然似ていない、というか、貴増参に明引呼の真似は絶対に無理だった。明引呼は手の甲で、ピンクのシャツをトントンと軽く叩く。


「茶化してんじゃねぇよ」


 貴増参は乱れたくせ毛を、綺麗な手で少しだけすく。


「茶化してなどいません。僕は君の幸運にあやかりたいだけです。僕の出会いはどちらにあるのでしょう?」


 長い間見るだけしかできなかった人間界の、ある出来事を、明引呼のしゃがれた声は口にした。


「《《見合い》》でもしろや」


 手のひらに握った拳でポンと叩いて、貴増参はうんうんと首を縦に何度も振る。


「その手がありましたか。それでは、知り合いの方にあちこち頼んで、お見合いしちゃいましょう」


 ママ探しが続くふたりの前で、教壇に一人の教師が乗り、教室全体を見渡した。


「それでは、担任教師の紹介に入ります」


 青空の下で菜の花の黄色、桜のピンクのが風に吹かれ、ふわふわと横へ波打つ。そんな穏やかな一日だった。


    *


 奇跡来は買い物カゴを下げて、スーパーの棚の間をさっきから行ったり来たりしていた。


「ん〜〜? カイエンヌペッパーがない。どこだろう?」


 あの辛いやつがないと、カレーがいまいち冴えない。そんなことを考えながら探していると、奇跡来はふと背を伸ばした。


「何だか後ろが気になるな」


 振り返ると、赤い頭をした小さな瓶が棚に並んでいた。


「あ、あった! やった!」


 パッと素早く寄って、買い物カゴへ軽く投げ入れる。


「よし、ゲット! あとは小麦粉。どこだろう?」


 そして、またウロウロする。売り場の案内が頭上に出ていることも気づかず、自分の背の高さだけを見渡す。すると、脳裏で電球がパッとついたようにひらめいた。


「あ、反対側の棚な気がする!」


 さささっと走っていって、どこかずれているクルミ色の瞳は喜びで見開かれた。


「やった! あった!」


 カゴに小麦粉を入れて、奇跡来は首を傾げる。


「あれ? 最近、こんなことが多い。偶然? こんなにすぐに見つかるなんて」


 スーパーに流れている音楽に、子供の声がふとにじんだ。


「偶然じゃないぞ」

「あ、コウ」


 買い物カゴの中にコンパクトに入っている赤と青の瞳を持つ子供を、奇跡来は見つけた。他の人からは不自然にならないように、会話は続いてゆく。


「お前に入ってる魂は、勘の鋭いやつだからだ」

「そういうことか! だから、気になったところが、自分の求めてる答えなんだね」


 奇跡来はレジの列へ並んで、コウはカゴからふわふわと飛び上がった。


「そうだ。食べ物の好みは変わってないか?」

「そうそう。ご飯は食べなくなって、フライドポテトとステーキとか、ハンバーガーとかをよく食べるね」


 元々それほど和食が好きだったわけではないが、最近の食事はどうも、今までと違っていた。銀の長い髪が、風もないのにサラサラと揺れる。


「そうだろう。それが、その魂の好きな食べ物だからな。前はアメリカ人だったからな」

「そういうことか。魂が変わると、こんなに違うんだね」


 精算が次となって、奇跡来はカゴを台の上に乗せた。


「今日もいい話持ってきたやったぞ」

「うん、ありがとう。どんな話?」

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