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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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名を呼ぶことを許してやる/1

 木曜から週末が明けて、月曜日――。

 アルバイトで働くIT関係のオフィスで、倫礼はデスクにいた。


(あの神さまに会った翌日、大地震が起きて、地下鉄じゃなくて歩いて帰った)


 都心に住んでいたから、一時間もかからないで帰れたが、遠くに住んでいる人は大変だっただろうと思う。


 広いワンフロアのオフィスは十人もいないほどで、いつもよりも見通が良かった。


(地下で移動する人が多いから、あんなに歩道が人でいっぱいなの見て驚いたよ)


 まだ引っ越していないが、元配偶者は家には帰ってこず、ガスの普及をしようとしても電話は通じず、ネットで調べ何とか寒さからしのげた日だった。


(しかも、他の人たちは電車がまだ止まってて、うちのグループじゃ私一人……)


 たまたま、復旧が早かった路線だったから出勤できたが、上司が誰もいない状態で、ワンフロアのオフィスは十人もいないほど、他のグループの人々も欠勤。


(あの神さま、レストランを出てから見てない……)


 現実のことに気を取られすぎると、霊感というものはどうしても弱くなるもので、暇を持て余している倫礼はふと手を止めて、神経を研ぎ澄ました。


(そういえば、コウ最近きてないね。忙しくなったの――!)


 雷に打たれたかのように、彼女は天啓を受けて、鮮やかに六年前の、コウと初めて会った時の言葉を思い出した。


「――お前が大人の神さまが見えるようになるまで、俺がコーチしてやる」


 倫礼は表情を曇らせて、寂しげにため息をつく。


「そうか……。見えるようになったから、もうこないんだ」


 落ち込んでいたばかりに、彼が言った言葉の意味を逃してしまっていた。


 一期一会いちごいちえ。身に染みて理解した初めての日だった。


「別れの挨拶もきちんとできなかった。差し出した手は、最後だからだったんだ」


 倫礼に神界という新しく素晴らしい世界を、事細かに教えてくれた、銀の長い髪を持ち、赤と青のくりっとした瞳の少年。大人のはずなのに、本来の姿を見せないまま去っていったのだ。


「ここからはひとりでやるってことだよね?」


 守護神である光秀がすぐ後ろに立っているが、見えない倫礼は心細そうに当たりを見回す。


 初めて見た銀の短髪で前髪は長く、鋭利なスミレ色の瞳が印象的で、口数の少ない男性神を探そうとするが、どこにもいなかった。


「あの神さまも守護神ってことだよね? それとも、父親の神さまだけが――」


 光秀に意識が向く前に、現実で男の声が背後からかかった。


「みんな休みなの?」


 それは別のグループにいる同じ年代の男だった。仕事の関係上、時々このエリアにきては、今日休んでいる女の子たちに混じって、倫礼にも声をかけていた人物。


「あぁ、はい」


 霊感モードは休止して、椅子に座ったまま男を見上げる。


「お昼ご飯って食べるタイプかな?」

「いえ、食べないです」


 倫礼はダイエット中だった。


「そう。そんな気がしてたんだよね。じゃあ」

「はい……」


 言いながら後悔した。自分のところも人がいないのだから、一人で昼食を食べるよりは誰かをと思ってきたのだと。


 男に待ったをかけようとしたが、倫礼は別のことを直感してしまった。


(私、この人と付き合うことになる。どうしてだかわからないけど……)


 すらっとした長身で物腰は貴族的。タイプとかそう言うのではなく、バイト先の社員だった。ただそれだけ。


 遠ざかってゆく男の背後を見ると、レストランで見かけた、銀の髪をした男性神が一緒に歩いてゆくところだった。


「あぁっ!? あの神さまだ! あの人の守護神だった?」


 今までは気にかけていなかったから見えなかっただけで、守護をしている神さまは他にもたくさんいるのだ。


 大人の神さまを見るにはまだ不安定な霊感。倫礼はすぐ背後にいる光秀さえも霊視できないでいた。

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