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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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彗星の如く現れて/6

 非常に専門的な内容で、蓮は自身に与えられた記憶をたどったが、


「知っているが、何がどうなのか細かいことはわからない」


 倫礼はお茶菓子の包紙を適当に折りたたんだ。


「そう。全部は引き継いでいないのね。可愛い子には旅をさせろってことかしら?」


 もうすでに仕事を終えて、自宅のエリアへ行ってしまっているであろう陛下の面影を、倫礼は思い浮かべた。


 話が脱線してしまい、家長は腕組みをして仕切り直した。


「前置きはそのくらいにして、本題へ入る」

「はい」


 倫礼は正座をし直して、気を引き締めた。


「蓮さんにはこの家に住んでいただこうと思っている」


 聞き捨てならない発言だったが、母は父の隣でにっこり微笑んで、可愛らしげに小首を傾げた。


「そうね。家を一人で探すよりも、これからのことを考えると、家族がいたほうが何かといいわよ」


 慈愛の精神で何を言い出すのかと倫礼は驚き、のんびりしている両親の前で、娘はびっくりして思わず立ち上がりそうになった。


「一緒に暮らすっっ!?!?」


 嫁入り前の娘がいる家に、青年が同棲するなどとは、まわりだけが勝手に動いて、置いてけぼりを喰らって――


「何をそんなに驚いている?」


 生まれたばかり。しかも地上で生きたこともなく、肉体の欲望など知らない男に聞き返されて、倫礼は自分だけ騒いでいるのがバカバカしくなって、できるだけ平気なふりをしようとしたが、言葉がもつれにもつれていた。


「い、いえ、別に。そうね……。他に兄弟は誰もいないし……部屋もいっぱい余ってるんだから……いいんじゃないかしら?」


 こんな運命の出会いがあってなるものかと、倫礼は思った。そもそも自分は今仕事を探したいのだ。


 娘が波動を与えている人間の女は、さっき蓮の忠告を前向きに捉えて、お礼を言っていた。父は娘のことはよくわかっている。時々素直でないと。光秀は客人に確認を取る。


「蓮さんはいかがですか?」

「よろしくお願いいたします」


 遠慮する間もなく、即答だった。


 光秀は思う。自身が何度話しかけても、もう一人の娘は気づかなかった。それなのに、この青年が言葉を発したら反応し、娘は自身の力で、神を見る術を手に入れた。いや、この青年自身が知らぬ間に、手を貸したのだ。


 霊感を手に入れて、六年もの月日は流れたのに、もう一人の娘を直接導いたのは、コウでもどんな神の名でもなく、さっき生まれたばかりの青年だったのだ。


 このふたりならばよいと思い、光秀は陛下からもうひとつ告げられていたことを打ち明けた。


「明日以降、できるだけ早い時期に、十八歳までの記憶を育てるために、通常の五百倍の時の流れの中で、経験を積んで欲しいとの旨を陛下よりうかがっています。私と妻が親の代わりとして過ごすことになりますが、よろしいですか?」


 幼い頃の記憶を作り、心の糧にする、やり直しだ。波動を受けているとはいえ、地球にいるあの女の元へ行くようにと言われたのだ。蓮は隣に座っている本体を見つめた。


「倫礼は……?」

「この子も一緒に成長するようになっています」


 神々の神として君臨する陛下が見た未来は、何もかもが寸分の狂いなく進んでゆく。蓮の鋭利なスミレ色の瞳はあちこちに向けられ、しばらく考えていたが、やがて、


「……構いません」


 四人の緊張感がやっと取れた気がした。光秀は珍しく少しだけ微笑み、口調を急に砕けさせた。


「それでは、改めてよろしくお願いする」

「蓮ちゃん、気遣いはしなくていいのよ」


 模範の夫婦みたいに、父と母は寄り添って優しげな笑顔を見せた。


「よろしくね」


 娘がサバサバとした様子で言うと、母が手を前に出して、あら奥さんみたいな感じで縦に振った。


「もう、倫ちゃんったら、丁寧語使わないんだから」


 せんべいをかじろうとした手を止めて、無表情の蓮の顔を、倫礼はのぞき込んだ。


「いいわよね? もう家族みたいなものなんだから」

「いい」


 蓮は超不機嫌顔のまま、こっちもこっちでタメ口だった。倫礼は得意げに両親へ振り返る。


「ほらね?」


 滅多に笑わない父の隣で、母は手を口に添えてくすくすと笑い、お茶を片付け始めた。


「それじゃ、お夕食の用意は四人分ね」

「母上、なんだか嬉しそうじゃない?」


 倫礼は畳から立ち上がって、茶器を乗せたお盆を手に取った。母は蓮を本当の子供のように頼もしげに見つめる。


「新しい息子ができたのよ。こんなことが待ってるなんて、お母さん思ってもみなかったわ。だから嬉しさもひとしおじゃない?」

「もう、すぐ受け入れちゃうんだから」


 娘はあきれた顔をする。母は突然の出来事でも、しっかりと父へついていことする。奇跡という宝物でももらったかのように、幸せな気持ちで満たされながら。


「お父さんが厳格だから、私は柔軟でいいのよ」


 いつだって両親は噛み合っていて、人のこと優先で、倫礼は誰よりも尊敬していた。娘と母が立ち上がると、


「倫ちゃん、お夕飯の支度手伝ってちょうだい」

「は〜い」


 倫礼も家族が増えたことが単純に嬉しかった。こんな返事をしたら、厳格な父にすぐに注意されるのだが、今日はそんなおとがめもなし。縁側から入り込む月の光は、明智家の新しい日々を喜んでいるようだった。

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