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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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彗星の如く現れて/5

 知らない青年の声がした。娘は縁側に座って戸を静かに開けた。


 そこには、一輪の高貴な花という名がふさわしい男がいた。針のような輝きを持つ銀髪で、スミレ色の切れ長な瞳、最低限の筋肉しかついていないすらっとした長身で洋服を着ているのに、正座をしている。


 どこかで会ったことがあると娘は思った。反対側に座る父を自然と見た。黒の長い髪に切れ長な瞳。やはりすらっとした長身。どことなく父と似ている、落ち着いた雰囲気の綺麗な顔をした男だった。


 この家の主人――明智 光秀は礼を重んずる人物。すぐさま娘に注意がいった。


「挨拶をしなさい」

「あぁ、そうね」


 居住まいを正して畳に三つ指をつき、娘は丁寧に頭を下げた。


「初めまして、娘の倫礼と申します」


 倫礼の本体に男は綺麗に四十五度向き直って、同じようにお辞儀をした。


「月水 蓮と申します」


 お茶の用意を持って、妻が座敷へやってくると、光秀は陛下からの言伝ことづてを全員にもたらした。


「蓮さんは陛下から分身をされて、ご命令で地球の娘のところへきてくださったので、家へ招待した」


 急須を傾けて湯飲みに注ぐと、緑茶の甘い香りが座敷に広がった。お茶を差し出して、母は優しく微笑み、丁寧に頭を下げた。


「娘のことを気遣ってくださって、ありがとうございます」


 ここにいない女へ影響を与えている倫礼は、お茶を受け取りながら砕けた口調になった。


「そう。陛下から生まれたの。父と一緒ね?」

「一緒とはどういうことですか?」


 蓮は驚くでもなく、奥行きがあり少し低めの声で聞き返した。陛下はそんなことは一言もおっしゃっていなかった。


 客人の態度から、明智家の人々は悟った。地位も名誉も望んでいない私たちの気持ちを、陛下は汲んでくださったのかもしれない。


 明智の家長は慎み深く言葉を紡いだ。


「私は陛下の前世のひとつで、蓮さんと同じように分身をして、別の個体として存在させていただいています」


 湯呑みを傾けていた倫礼はまじまじと見つめる、部屋の明かりに銀の髪が鋭く輝いている蓮の顔を。


「どおりで綺麗な顔立ちをしてると思ったわ。心がとても澄んでるのね」


 無邪気な天使みたいな可愛らしい顔をしているのに、超不機嫌で台なしだと思いながらも、彼女なりに褒めてみた。


 春らしい桃色の着物に身を包んだ母は、お茶を一口飲み少しだけくすくす笑った。


「倫ちゃんはどこを見てるのかしら?」


 しかし、娘はごく真面目で、会ったばかりの男のことをスラスラと解説した。


「心を見てるわよ? 父と同じで、口数が少なくて思慮深い性格。動き回るよりはじっとしてるタイプ。好きな食べ物の傾向は肉より魚。野菜も好きかもね。足はかかとをそろえて立つんじゃないかしら?」


 さっきの人間の女といい。本体のこの女といい。蓮にとっては不思議な人物この上なかった。ぎこちなく首を傾げると、銀の長い前髪がサラッと落ちて、鋭利なスミレ色の瞳があらわになった。


「…………」


 ガン見されている倫礼は気にした様子もなく、お茶菓子に手を伸ばした。


 夫がなぜ、この青年を家へ連れてきたのか、妻はよくわかっていた。障子戸は閉まっていたが、暖かな春風が座敷へ入り込んで、娘と青年をひとくくりにするように結んだようだった。


 固まってしまったみたいな蓮を心配して、母が助け舟を出す。


「いきなりそんなことを言ったら、生まれたばかりの蓮さんは驚かれるわよ。自身のことをまだ知らないのだから」


 さっき生まれたばかりの蓮はお茶を飲んで、あまりの苦味に表情を歪ませたが、


「っ!」


 気づかれないように平気なふりをして、すぐさま湯呑みを元へ戻した。


「……なぜそう言う?」


 パリパリとせんべいを噛み砕いて、倫礼はゴクリと飲み込むと、


「あの子が学んだことよ」


 魂で波動を与えている以上、記憶はすでに引き継がれ、あの肉体が過ごしてきた過去は何もかもが、この神のものとなっていた。


 本体よりも、先に会いに行けと命令が下されたのなら、そこに何か理由があると蓮は思った。


「どれをだ?」

「気の流れ。あら、知らない?」


 地上にいる倫礼が、人を見る目を養うために手に入れたひとつの方法だった。それにプラスして霊感があるものだから、初めて会った蓮を他の神々と照らし合わせても、誰とも気の流れ――雰囲気が一致せずに、新しい神さまだと判断したのだった。

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