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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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彗星の如く現れて/2

 すらっとした体躯で、洗練されたファッションに身を包む。貴族的な雰囲気の若い男。気づかないまま、倫礼はもう何度ついたのかわからないため息を再びつく。


「結婚したのが間違いだったのかな?」


 銀の短髪は襟足が一本の乱れがないほど整えられ、前髪は長く片目が隠れていた。唯一出ている左目が光秀をまっすぐ見た。


 その瞳は重厚感が漂い、感情が見て取れない鋭利なスミレ色の切れ長なもの。顔立ちは可愛らしいが、愛想など不要と言わんばかりに、超不機嫌で台なしになっていた。


 男が両足をきちんとそろえると、距離をたもったまま、光秀と男はお互いに軽く会釈をした。男はテーブルの脇を抜けるのではなく、一瞬にして倫礼の向かいの席へ瞬間移動で腰を下ろした。


 足を華麗に組み、腰のあたりで腕組みをして、見ることもできない人間の女を真正面から、堂々たる態度で見据えた。


 倫礼はお一人様デビューで緊張をしているわ、ショックで激落ち込みをしていわで気づきもせず、さっきから同じことを永遠と繰り返していた。


「どうやったら別れなかったんだろう? っていうか、急に引っ越せなんて自分勝手すぎない? 失踪してきたこと知ってて、どうすればいいわけ?」


 男の指先はイライラしているように、トントンと組んだ腕に叩きつけられていたが、不意に止まり、奥行きがある少し低めの声で言い放った。


「彼だって傷ついたんだ――」

「え……?」


 光秀が話しかけてもまったく聞き取れなかったが、男の声はすんなり一回で倫礼に届いた。彼女は食べていた手を止めて、目の前に座っている男を見つけた。


 生まれて初めて見る大人の神さまに出会い、倫礼は膝にかけていたナプキンの端を落ち着きなく触る。


「誰? どの神さま?」


 彼女は懸命に、コウに教わった神さまを一人一人思い出せる範囲でたどってゆく。見えなかったなりに、彼女の感じる力は人よりもかなり精密だった。


 一度話を聞いたことがある神さまなら、どこかで霊的に引っ掛かりを覚えるはずだ。霊感の直感とは、森羅万象のどこにも歪みがないものが、答えだ。


 宇宙の果てを目指して三百六十度3Dで空中遊泳をして探してゆくが、ピタリと当てはまる人も物事も何もなかった。


 映画のポスターでも見ているような、セピア色の店内で暖色系のスポットライトを浴びながら、神がかりな美しさで目の前にある席へ座る神聖なる存在。


 人間と出会ったとしても、こんなに衝撃的で秀麗な出来事ではないだろう。倫礼はこの瞬間を一生忘れることはなかった。いや、翌日に起きる大事件で忘れられなく、神々にさせられたのだ。


「……新しい神さまってこと?」


 おしゃれな都会のレストランがあせてしまうほどの、人々が跪いてしまうような優美で高貴さ。この世のものとは思えないほど綺麗な男。


「…………」


 聞いても答えなかった。それでも彼女は怒るとか傷つくとか、そんな気持ちをなぜか抱かなかった。それよりも、心が満たされてゆく不思議な感覚に、倫礼は囚われた。


 とっくに冷めてしまったパスタとピザの皿にまわりに、フォークとナイフを置いて、彼女の特徴らしく、神がさっき言った言葉をすんなりと受け入れた。


「確かにそうだ。神さまの言う通りだ。相手も傷ついたよね。自分のことばかり考えてた」


 あっという間に、負のスパイラルから抜け出し、倫礼は他の人にはわからないように、正面を見つめて心の中で丁寧に頭を下げた。


「ありがとうございます。教えていただいて、感謝します。気持ちが少し楽になりました」


 男としてはイライラして言っただけなのに、お礼を言われたものだから、首をぎこちなく傾げると、銀の長い前髪がサラサラと落ちて、鋭利なスミレ色の両目があらわになった。


「…………」


 不思議な生物でも見つけたように、男は倫礼をじっと眺めていたが、小さな口元は全く動かなかった。


 見え始めた彼女の霊感は不安定なもので、油断すると消え去ってしまうほどだった。いたりいなかったりする男の前で、倫礼は大きく息を吸って、みるみる笑顔に変わってゆく。


「とにかく、東京のどこかに引っ越ししよう。そして、一人暮らしをして、学べることはどんどん学ぼう! よし、やるぞ!」


 さっきまで暗い気持ちで、疲れ切った顔をしていたのに、残りの料理をバクバクと食べ始めた。


「ふふ〜ん♪ 一人でレストランもいいね〜。料理もおいしいし、ワインも最高!」


 自分の話を聞いて、一を十にして、いやそれ以上に効果をもたらして、勝手に前向きに解釈する女だったが、男の気分は決して悪くなかった。


 食べ物を食べるという概念がない男は、足を華麗に組み替えて、さっきのことを思い返す。いやさっき『生まれたばかり』の男は、この女に会うまでの十数分間を思い出した。

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