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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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彗星の如く現れて/1

 東京の主要駅付近のおしゃれなレストラン。週末の混雑でテーブルは満席。楽しそうな笑い声や食器のぶつかる音がするにぎやかな場所。


 それなのに、男のいる世界では誰もおらず、話し声も聞こえない。テーブル席に座る人間はどこにもいないが、料理だけがパーティーの途中で客に何かがあり、全員逃げ出してしまったように置いてある。


 男の見ている世界のレベルを下げると、友人同士やカップルで食事をする人々に囲まれて、ふたりがけのテーブル席に一人でポツリと座り、ピザやパスタをノロノロと食べている女がいた。


 独り言は言っていないのに、彼女の声が男に聞こえてくる。


「隣の席にいる人、旦那さんの相談してる」


 彼女をさっきから見守るように、少し離れた場所に立っている男は、肉体を持って物質界には存在していない。神世にいながら地上に降りていた。


 男の名は明智 光秀。十日ほど前、守護の仕事を陛下から言い渡された神だ。あれから、守護する人間の女を諭そうとするが、霊感があるはずの彼女は聞き取ることができなくなってしまっていた。


 光秀は思う。神界は心の世界。見えていても聞こえていても、本人が否定していては存在していないのと同じになる。心を閉ざしてしまえば、神の声ももう届かない。


 死後も存在するためには、霊層を上げることが必須。それならば、正しい世界のあり方を学ばなければ遠ざかりやすい。つまり、神さまと話ができるのなら、それが近道のひとつとなる。


 存在を許されなかっただけあり、何が自身に必要で、何をどうすればそれが叶うのか考えるどころか、別のところに心を奪われ、遠回りをしている人間の女。


 レストランはこれだけの混雑だというのに、魂はひとつも入っていない。守護する神もそばにいない。


 ここはサブの世界。神世の技術はとても優れていて、魂が回収された肉体のそばにいなくとも、コンピュータ制御で守護できる。


 分身という手段もあるが、神の姿を見て話ができないのならば、本業や家族を犠牲にしてまで、誰もいない肉体を見守る必要性はないのだ。だから、守護神は誰もまわりにいない。


 パスタをフォークで巻いていた手を止めて、倫礼はテーブルに頬杖をつき、まだぶつぶつと心の中で話していた。


「私も誰かに相談してたら、別れたりしなかったのかな?」


 後悔ばかり。霊層の通りだった。生産的なことは何も考えられない。今のままでは時間だけが悪戯に過ぎてゆき、肉体は滅んでしまう。


 守護神である光秀は、人間の女の未来がはっきりと見えていた。それでも、今はただ黙って見守るだけ。自身で気づき、乗り越えてゆかなければ、霊層は上がるどころか、下がる可能性も出てくる。


「はぁ〜、何食べてもおいしく感じない。本当は一緒にきたかったけど、一人……。みじめだなぁ」


 横顔は自身の娘――三女にやはりよく似ている。波動を受けているだけだが、神の目から見れば、何の損傷もなく魂がそこにあるのと一緒だ。


 広い宇宙の中でこの肉体と一番合っているのが娘だった。そういう話だ。性格や性質。ものの考え方。どれもよく似ている。守護神ともなれば、担当する人間のそれまでの過去は全て簡単に追える。


 特に似ているのは日本という国に住みながら、クリスチャンのように神に感謝を捧げ、聖書などを読むあたりは、娘が生前していた姿にそっくりだった。不思議なめぐり合わせもあるものだと、光秀は思った。


 しかし、慈愛の精神を持つ彼は、自身の娘だからといって決して甘やかすような性格でもなかった。


 守護神になってから今日で十日になる。あれから、娘には問いかけてはいるが、言葉は聞こえず、姿も見えないようだった。ただ心の成長にならない方向へ行きそうな時は、神の力を使い修正するだけ。


 憔悴しきっている倫礼はぼんやり目に見えるものだけを眺めて、ため息を料理の上に積もらせる。


「引っ越すから、早くマンションから出て行ってだって。帰る場所がないのに……」


 負のスパイラルに入ってしまって抜け出せない娘だったが、そこから逃れる方法をある程度今学ばないと、この先の人生が非常に苦しくなるのが、守護神の光秀にはよくわかっていた。


「誰かに相談すればよかったのかな? それとも……」


 倫礼の心の声はさっきから堂々めぐりをしていた、その時だった、彼女の背後にすうっと人が立ったのは。

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