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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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本気のサヨナラの向こうに/3

 人を殺すことがいけないことだと理解できない人を野放しにしておいても、誰も幸せにならない。それと同じことだ。


 自身を含めて人が本当に幸せになれることを理解できない人を、これ以上地球で修業をさせても誰も幸せにならない。


 それならば、今魂が残っている人間のため、守護をする神さまの修業のために利用してしまったほうがいいのだ。


 陛下はそう判断された。利用されるという気持ちに耐えられる人間でないのなら、魂は返してしまったほうが当人も幸せなのだ。


 肉体は滅びる。しかし、魂は永遠。だが、その永遠の魂が入っていないとなると、澄藍はそこまで考えて、コウに答えの出ている質問をした。


「死んだらどうなるの?」

「肉体が滅びる――死ぬまでに戻れなければ、中身は空っぽだ。だから、その人間はいなかったことになる――」


 遠くのマンションでカーテンが閉められたのが見えたが、あの人間はいないかもしれないのだ。


 霊界での法則は今までも何度か変わった。その中のひとつに当てはめれば、回収された魂は、合格ラインの霊層になるまで、過去世へとさかのぼり続ける。人によっては、邪神界ができる前まで戻るかもしれなかった。


 人間から神に上がった孔明と張飛に生前の家族がいないのはこういう理由だった。全員いなかったとして、抹消されたのだ。


 澄藍の中の嫌な予感はまだ、遠くの地震が近寄ってくる地鳴りのように続いていた。


「そうか。でも、それがみんなの幸せなんだよね?」

「そうだ」


 肉体に入れば、神であったとしても欲望に囚われ、その魂の透明度――霊層を落とすのだ。


 人間がやっていけるはずがなかった。この世界はサブ。一日でも早い人々の幸せを願うのなら、霊界へと戻って、霊層を少しでも上げたところから、魂を磨けばいいのだ。


 そしてとうとう、コウから澄藍に審判が下された。


「お前も満たなかった――。だから、もう魂は宿ってない」


 今はもう誰でもない人間の女――とも呼べない、肉塊は視線を落として、涙で視界をにじませる。


「うん……。そうだよね。私がそこに入ってるとは思わない」


 人に暴力を振るい、恨みや憎しみを持っている自分が、クリアするとは思っていなかった。


 その反面、自分は人間であっても、神の魂が入っているから他と違うというおごりから一気に落とされ、神さまの存在が急に遠くなった気がした。彼女の甘さが浮き彫りになった瞬間だった。


 陛下は厳しく優しい方だ。たとえ身内でも特別扱いなどしない。その性格をよく知っているはずの人間の女に、コウからこんな言葉が送られた。


「でもな、お前は神界のことを知り過ぎた。だから、ある神さまの魂の波動を受けられるように、陛下がした」


 陛下は分身をしていて、上の次元へと登り続け、次々と新しい世界を統治している。そこから、この次元へと生まれ変わる神もたくさんいる。つまり、陛下は神さまたちの上にいる神さまなのだ。


 神さまたちが知らないことも知っているのだ。世界の行末がどうなるかも、陛下は誰よりもご存知なのだ。


 自分の存在が無になるというショックに打ちのめされている女は、そんな話もすっかり忘れてしまったのだ。


「そうか。ありがたいね。感謝だ」

「仮の魂だ。お前が滅んだ時には、それまでの経験や記憶は、その神の中に吸収される」


 自分の存在はなくなり、神さまの一部として取り込まれる。それでも、女は前向きに対処しようとしたが、涙がボロボロとこぼれ落ちた。


「じゃあ、きちんと生きないといけないね。神さまに恥じないように……」


 謙虚と傲りの両極を綱渡りをするようによろよろとする。生きているだけ幸せだと女は思った。その上、こんな自分に力を与えてくれると言う。神の加護の中で身を委ねる。

 

 魂を磨く方向へ進んでいる女の前で、コウは呼吸を整えた。


「名前を伝えるぞ」

「うん……」


 暗い女とは正反対に、コウは元気よく言った。


「明智 倫礼りんれいだ」

「綺麗な名前だね」


 下の名前が美しかった。さっきまでのシリアスが少し消え失せ、いきなりクイズ番組で出題するような、鬼気迫るジャジャン! という音が鳴った。

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