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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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本気のサヨナラの向こうに/2

 一人きりの薄暗い部屋で、神としてコウの話は続いてゆく。


「相性は最大値が決まってる。努力して最大値には近づけても、上限は上がらない。それは神さまでも変えられないんだ。いろんなやつがいるから世の中うまく回っていくんだ」


 相手のためにと思ってやっても、全て裏目に出る日々。相手を傷つけないようにすることで手一杯で、心身とも疲れ、自身のやりたいことがまったくできない生活。


 誰かが悪いわけでもないからこそ、決断があと回しになってしまったのだ。


 うつむいている澄藍のそばに寄って、コウは優しく語ってゆく。


「邪神界があっただろう? だから、一番合わない人間とめぐり合わされたんだ」

「うん……」


 通算十一年もパートナーとして生きてきた男とは、相性の数値はゼロではなく、マイナスだと言うのだ。


 なぜ今まで、澄藍にはたくさんの魂が宿っては出てを繰り返したのかの理由がひとつ明かされる。


「相性の低さを何とかカバーしようとして、魂を何度も入れ替えてた。だけどな、どうやっても合わないものは合わない。だから、お前の運命はここで大きく変わる」

「うん……」


 澄藍の瞳から涙がポロポロと落ちてゆく。一寸先は闇で、人は一歩踏み出すことを怖がるのだ。今手にしているものにしがみつこうとする。


 魂がたとえ結ばれていようとも、物質界では肉体が優先されるのだ。それは神が努力しても変えられものではなかった。いや変えてはいけないものなのだ。


「それなら、相性のいいやつと出会って、生きていったほうが、お前と相手のためにもなる。ふたりがそれぞれ笑顔で、自分の本来の力を発揮できるなら、まわりの人も幸せになるだろう?」

「そうだね……」


 澄藍は涙を拭って、何度もうなずいた。今のままでは苦しいだけで、明るい未来はどこにもない。


 本来ならめぐり合わない運勢なのだ。どんな占いでも、めぐり合うのが不思議だという結果ばかりだった。


 コウが床に降りて、赤と青のくりっとした瞳でまっすぐ見上げた。


「だから、別れろ――」


 自分を理解してくれる唯一の人だった。家族から失踪して一年、二度とあの地は踏まないと決めて、帰るわけにはいかないのだ。


 戻る場所のない彼女は、他人に無関心な都会で、たった一人で生きてゆくことしか選択肢が残されていなかった。


 家族もなく親戚もなく、親友も知人もいない。何が起きても全て自分で対処する。誰にも助けを求められない日々を送ることなのだ。


 それでも、澄藍はよろよろと立ち上がり、まぶたを強くつむると、涙が床にポタポタと波紋を描いた。


「うん、わかった……」

「新しい道が待ってるからな」

「うん……」


 未来の見えない澄藍には、お先真っ暗だった。コウは励ましてくれるが、厄落としが先にくる以上、辛く苦しいことがまずやってくるのだ。それがどんな物事なのかと想像するだけで足がすくむ。


 部屋を片付ける余裕もないほど、くたびれた生活で、いつ落としたのかわからないメモ帳の切れ端が、机の下にいっぱい落ちていた。


「それから、もうひとつお前には伝えることがある」

「何?」


 聞き返しながら、勘の鋭い彼女は嫌な予感がして、心臓が大きく脈を打った。


「この世界の法則が変わった――」

「うん……」


 聞きたくないと思うが、過去は変えられないのだ。受け入れるしかない。コウの声はどこまでも冷たく平常だった。


「ある一定以上の霊層でなければ、地球に存在する必要はないと陛下が判断して、その魂を肉体から抜いた」

「そうか」


 手足が震え、心臓がまた大きく波打つ。


「自覚症状は出ない。だから、誰も気づいてない」


 窓の外に見える他のマンションの明かりを眺めた。人の気配はそこにあるのに、普通に時間は流れているのに心がない。


 肉体という肉塊にくかいだけが、神の力で自分で考えているように、自分で決断したように思わされて生きている。


 見せかけの人生があちこちで起きている。コウの今までの話からすると、魂が今も入っている人間は、地球には一握りしかいないだろう。

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