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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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宇宙船がやってきただす/5

 組んだ足をふらふらと揺らしながら、疲れで目を閉じて、話の続きを待つ。イントネーションのおかしい声が聞こえてきた。


「いや〜、長年生ぎてますが、知らないことがあるとは、まだまだ世界は広いだすな」

「今聞いてよかっだです。陛下がいらっしゃる城を含めのことだったんだすね」

「首都の話……?」


 長く生きている焉貴にとっては、つい先日――たった五年前のことだ。新しい統治者が宇宙を統合して、世界が大きく変わったと、その部下の集団が突然やってきて、人々に触れ回っていた。


「山二つ向こう行っだところに、宇宙船ってやつが空から降りてきだらしいだす。それに乗っていだ人が、都会人っていうらしいだす」


 さっき見た銀色の光を放つ楕円形のものは、どうやら宇宙船という乗り物らしい。焉貴は指先で前髪をつまみ、宝石のように異様に輝く黄緑色の瞳で焦点が合わないながらも眺める。


「ビルでしたがな? 高い建物がたくさんあると」

「ビル? だっただすよ。確かそんな名前でしだ」

「人もたくさんいで、車もたくさんあるどかで?」

「えぇえぇ、とにかく、いろいろな宇宙から人が集まってきでで、にぎやかなところらしいだす」


 作れない色を表す絵具があるかもしれない。人がたくさん集まる都会なら、物もたくさんある。焉貴はそう思った。


「そうね……?」


 とにかく静かな民家で、人の話し声は普通よりも大きく聞こえる。父とコンドルが話している内容は耳を傾けなくても入ってきた。


「その宇宙船っていうのは、今回きりだすか?」

「十キロ先のミヌさんの話だと、飛行場とがいうものを作って、定期的にくるようになるらしいだすよ」


 見渡す限り田園と山しかないこの宇宙では、革命と言ってもいいほどの出来事だった。


「そりゃ〜、陛下にお会いできる、ありがたい話だ」

「ここははずれの宇宙ですがらね。瞬間移動ではいけないから、宇宙船という便利なものができるのはいい話だす」


 宇宙の果てで一区切りという造りの世界。そこまでは行けても、その先へ行くには壁を乗り越えて、さらに果てへと瞬間移動をしてということを何度も続けなくてはいけない。


 陛下がいらっしゃる首都は中央の宇宙にあり、この世界には九十九個も宇宙はあるのだから、人の力ではどうにも骨が折れる話だった。


 湯呑み茶碗がかちゃかちゃと鳴る音がして、大人たちは最高潮に盛り上がった。


「できた時には、ひとまず都会を見物して、土産手も買ってぎますか!」

「あははははっ! そりゃいい」


 終わりのこない世界。野良仕事は毎日あれど、何千年先になるかわからないが、いつかは綺麗な服を着て、ハイカラな都会へ行く。という新しい夢ができて、一番はじにある宇宙の人々は大いに活気づいていた。


 焉貴は足を組み替えて、ぽつりつぶやく。


「宇宙船ね……」


 大きな兄弟たちは結婚して、家には今一緒に住んでいない。甥や姪を連れて、時々遊びにはくる。


 自分はずいぶん長いこと生きているし、他の土地を知らないわけでもない。首都がどれほど栄えているかは知らないが、ビルがある場所にも行ったことはある。


 それでも、結婚しようとは思わなかった。種の繁栄が目的で子供を産む人は誰もいない。死ぬことはないのだから。老後の心配をする必要もない。自分は永遠に二十代なのだから。


 欲求不満だから、大人の絵を描いていたわけでもない。焉貴はどこまでもニュートラルに生きていた。


 恋愛をしない主義でもない。結婚をしない主義でもない。ただ毎日の生活の中にそれが必要なかったのと、興味がなかっただけの話。 


 誰かに自分を理解してほしいなどという傲慢さも彼にはない。まわりが結婚しろと指図してくる家族でもご近所さんでもない。だから独り身なだけ。


 宇宙船に乗って首都へゆく。これが焉貴の転機になることは確かだったが、彼の人生――いや価値観を大きく変え、村で一番の有名人になるとは、本人がまだ知る由もなかった。

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