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最後の恋は神さまとでしたR  作者: 明智 颯茄
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宇宙船がやってきただす/4

 一緒に空に連れていってもらおうと、遠慮なしに手をつないでゆく子供たちに、兄は待ったをかけた。


「それ以上は無理。重くて落ちるでしょ?」

「じゃあ、次にする〜!」


 聞き分けよく、片手をまっすぐ上へ上げて、定員オーバーを言い渡された子供たちは大人しく地上に待機する。


 焉貴のすらっとした長身を真ん中に挟んで、横一列に並んだ兄弟たち。


「行くよ?」

「は〜い!」


 嬉しそうな声が春なのに柿が木になる庭で乱れ飛ぶと、白のはだけたシャツと細身のピンクのズボンは、大人の浮遊の力で登り出した。


「うわ〜!」


 地面から離れてゆくたび、小さな兄弟たちが歓喜の声を上げる。


「きゃあ〜!」


 地面にいる子供たちが上を見ながら手を振り、真下へ集まってくる。遠くに山が見える青空に、人でできた矢印みたいなタコが真っ直ぐ上がってゆくように見えた。


「高〜い!」

「すご〜い!」


 ぐんぐん登り、山脈の向こうの景色が見え始めたころ、銀色に光る大きな楕円形のものが姿を現した。


「何? あれ」


 いつもないものがある。お隣さんがいつもより早くきた。焉貴は答えにたどり着きそうになったが、弟たちの声が割って入った。


「お兄ちゃん! 回って」

「ぐるぐるして!」


 はちゃめちゃパーティの始まりだった。遠心力と正解させた以上、出題者の兄としては要望に応えるしかなかった。


「泣かないって約束よ?」

「うん、する〜!」


 子供たちが足を嬉しそうにバタバタさせると、焉貴の両腕がゆらゆらと揺れた。


「じゃあ、行くよ?」


 兄はそう言うと、その場でアイススケートのスピンでもするように猛スピードで回り出した。


「きゃあ〜!」

「あはははっ!」


 そして、遠心力がかかり出して、子供の力では握っていられなくなり、兄から離れ出した。コマが火花を散らして回るように、子供たちが遠くへ飛び、最初は納屋の中に、


 ドガン!


 と、轟音を立てて落ちた。土煙が上がり、地面で見ていた子供たちは高らかに笑い出す。


「あははははっ!」

「落ちた!」


 煙が消え去ると、顔を真っ黒にした兄弟がふたり顔を表して、さらに笑い声は大きくなった。


「あははははっ!」

「真っ黒だ。おかしい!」


 今度は家の窓に向かって、小さな兄弟がふたり一緒に飛ばされた。猛スピードでガラスが迫ってきて、


 ガシャーン!


 派手な音を出して、家の廊下に兄弟は投げ出された。先に地面に落ちた子供たちは何のダメージもなくピンピンで、家の窓に駆け寄り、ガラスだらけになっている兄弟を見て、ゲラゲラ笑い出した。


「あははははっ!」

「ガラス割れた!」


 そう言う子たちの前で、逆再生する映像のように、ガラスは元どおりにあっという間に戻ってゆく。壊れるという法則がない神界。怪我もしないし、重力が低い分、落ちても痛みがほとんどない。


 そうやって、次々に遠心力に負けて、弟たちは田んぼに中に落ちて泥だらけになったり、木の枝に引っ掛かったりと、大忙しになった。


 はちゃめちゃパーティを眺めていた、遊びにきていたコンドルはにこやかな笑みを、子供たちに向ける。


「楽しいがい?」


 葉っぱや埃だらけの子供たちは誰一人として泣くどころか、満面の笑みで走り寄ってきた。


「うん!」

「おじちゃんの気持ちがちょっとわかる!」

「そうそう!」

「鳥さんの気持ちわかる!」


 空を飛びたかったのだ。高い空を飛びたかった。人間の子供は。


 兄弟全員を空へ引っ張り上げて、ぐるぐると旋回してを五回も繰り返した兄は、どさっと玄関の床に倒れ込んだ。


「マジで疲れたんだけど……」


 ガッチリとした体型ではなく、最低限の筋肉しかついていない、運動には決して向かない体躯。焉貴は天井を見つめて、入り込んでくる春風に白いシャツをなびかせた。


 穏やかな日常に、さっき山の向こうで見た銀色をした楕円形の正体について――非日常が混じり出した。


 突然、大人たちの笑い声が上がり、一気ににぎやかになる。


「あははははっ! 『都会』という言葉があるんだすね?」


 焉貴は腕枕を両手でしながら、土間に落としていた片足を上げ、膝の上で直角に組んだ。


「トカイ? 何それ」

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