第62話「燃え上がるお姉ちゃんの愛は無限大!?」
明日から7月なので朝の7時と19時の一日二回更新になります。
よろしくお願いします。
快利が目の前のドラゴンの攻撃を余裕で抑えながら周りの心配をしている。田中さんの家はもう二階は全部溶けていた。一階も時間の問題だろう。だが、そんな事より私は自分の身に起きた変化に驚いていた。
「か、快利……お姉ちゃん、なぜか光ってるぞ!?」
「うん。なんかね……調べてもらったけど……俺のせいみたい。ゴメン」
私は目の前のドラゴンを快利なら簡単に倒せると思っていたら、意外と面倒な相手でゴリ押しなら勝てるけど、その際に私の意見を聞いて難易度が上がった事に罪悪感が湧いていた。だけど譲れなかった。
「気にするな。私が余計な事を言ったのだから……」
一度だけ因果律操作魔法について詳しく聞いた事が有る。そこで聞いたのは過去のどんな出来事も書き換えた上で未来を確定すると言うあまりに凶悪な魔法。人の運命を勝手に操る神のような魔法だった。
「いやいや、エリ姉さんが止めてくれなきゃ、確かに安易に使い過ぎてたよ……」
でも、その代償は自身と世界の消滅と言うリスクが凄まじいものだった。しかも快利は過去に一度も自分のために使ってはいない。私がそれを知ったのは奇しくも快利が週刊誌の本社ビルを爆破した後だった。
◇
一週間前、快利と他の女子三名は会議室での十分弱の打ち合わせの後、すぐに動き出して目の前から消えてしまった。私も転移魔術はすっかり見慣れてしまった。そんな中で瑠理香が不安な顔をしていた。
「どうした瑠理香? 快利なら問題無くやり遂げ悪を叩き潰すだろう」
「はい。それは心配してないんですけど……またカイに頼っちゃったと思って助けられてばかりですよ。ほんと」
そして話を聞く内に話は魔王と戦う前の快利が、こちらの世界で初めて因果律操作魔法を使って過去改変を行い、初めて勇者の全装備を解禁した時まで戻っていた。
「そうなんです。私が諦めた時に来てくれて。やっぱりカイは私のヒーローで……」
「ふっ、羨ましい限りだ。そう言えばあの前後にお前とは言い合いをしたな?」
「はい。あの時はすいませんでした。自分の事を棚に上げて、最低……でした。快利が過去を変えてまで助けてくれたって聞いてから私、勝手に親友に戻れたって思ってて、だから絵梨花さんの事を勝手に許せなくなってて……」
「過去を変えた? そう言えば簡単には聞いたが時空魔術で過去に戻れたのは凄いな過去改変か……それならやりたい放題だろうにな」
そう言った瞬間に瑠理香は曖昧に笑って声を小さくして話し出す。周りに聞こえない配慮のようだったから私も近づいていた。
「カイは……私の部屋で話した時に言ってくれました。因果律操作魔法を使うのは二度目で一回目はイレギュラー、二回目の今回が本番で、制限回数内で帰って来れて良かったって……」
そこで私は知った。因果律操作魔法は万が一、過去の正確にはその時間の自分と出会うと自分が消える可能性が有る。そして日に三回までしか使えなくて四回目の使用は世界の崩壊まで有り得るもので時空魔術とは別物だと、それを聞いた時に私が思ったのは驚愕と嫉妬だった。
「そんな危険な魔法を……快利は使ったのか?」(瑠理香のために……)
「はい。カイは自分にも責任が有るからなんて言ってくれて、私……最低ですよ、悪いと思いながら嬉しくて……喜んじゃったんですよ?」
それは私も理解できた。誰かを救うなんて字面だけでも凄いカッコいいし英雄的行為だと、いくらでも褒められる。
それを実際に命を懸けて助けに来たなんて普通に出来る行為ではないし、された方は一生の出来事だろう。それが恋する相手なら尚更だ。
「そうか……気持ちは分かるさ」
そして最近の快利を見て分かったのは快利は助ける相手を選ぶと言う事実だ。つまり目の前の風美瑠理香という少女は義弟が執着するだけ大事な少女なのだと理解して同時に嫉妬した。
さらに今のドラゴンとの戦いでのやり取りだ。魔王との戦いの時に危機に陥った快利を想う気持ちが目覚めさせたスキル。どう見ても二人の絆で有り想いの結晶だ。そんな物を見せつけられて私は嫉妬と同じくらいに思った。
――――私も快利の役に立ちたい。助けになりたいと……そう思った時に私の体は光り出していた。
◇
エリ姉さんが光ってる、どうして? 教えてガイド音声!!
『解析不能ですが、同時に起きた事象が有ります。恐らくは今、勇者に発現した新しいスキル『姉式・爆熱無限呪縛の陣』が原因かと思います』
「ん? 何だ? 今のヘンテコな名前の新スキルは?」
「どうしたんだ快利? 私は、大丈夫なのか?」
「う、ううん。何でも無いでっす!! エリ姉さんの問題は無いです!!」
俺は思わず独り言を呟いていた。そしてスキルを確認しようとガイド音声に声をかけたらワンテンポ遅れて返事が帰ってきた。
『はい、スキル内容は把握しました。まさに勇者カイリが望んだスキルとなっています。『姉式・爆熱無限呪縛の陣』は結界魔法に近いスキルです。まず炎の燃え上がる異空間を形成し、半径約2キロ圏内を取り込んだ上で敵対象ごと自らも封じ込めた上に敵の動きを拘束し動けなくします』
なんか凄い都合が良いんですけど……しかもスキルが目覚めたのってエリ姉さんが光ったのと絶対に関係有るよね?
『さすがは勇者カイリ、このスキルは発動条件が『秋山絵梨花が傍に居る』のみです。他は有りません。瑠理香さんのスキルと似ていると推察出来ます』
でもルリを守るスキル『歌姫の守護騎士』は俺が光った気がしたんだけど……違う感じなのかな?
『取り合えずリスクはゼロなので使ってしまう方が良いかと、それと瑠理香さんの時と同じでこのスキルは残り二つの効果が有ります』
「オーライ!! 久しぶりにヌルゲー展開来たからやってみますか!! エリ姉さん見ててくれ!! 新スキル――――」
待って、これ名前叫ばなきゃダメなんじゃね? ブラコンとか言わなきゃダメな系なんじゃね?
『はい、ダメです。勇者のスキルは技名を叫ぶのが伝統でルーティーンです。頭で思い描いて発動させるのは相当な習熟度のある能力のみです』
「どうしたんだ快利? 良く分からないが……私がオレンジ色に光っているのが関係あるのだろ?」
「あっ!! 私、分かったよ!! きっと絵梨花さんとの絆で生まれたスキルなんでしょ!? 私の時と同じ感じで!!」
ルリ、お前なんでこう言う時は異様に鋭いんだよ。最近は俺にくっ付いてて可愛いだけなのに……もう腹を決めるしか無い。てか呼び方変えればよくね?
『言い辛いのですが、瑠理香さんとのスキル『歌姫の守護騎士』及び今回、新たに習得した『姉式・爆熱無限呪縛の陣』は呼称変更が不可能な仕様なようです』
それ絶対に俺への嫌がらせだよね!? スキルだから神様だよね作ったの!! 神様酷くない? でもタイミングよくスキル覚えさせてくれたのは感謝してます。分かりましたよ元勇者は覚悟を決めました!!
「行くぞ『姉式・爆熱無限呪縛の陣』!!」
そして俺は見た、目の前のフレイムドラゴンと俺達が燃え上がる炎の世界に入った瞬間、俺達には炎の壁が、そしてフレイムドラゴンには炎の鎖が辺り一面から出現し俺の体から瑠璃色とオレンジの光のオーラが巻き起こる。
ドラゴン自体が炎っぽいのでパッと見は奴のフィールドのようだが実際は違う。俺とエリ姉さんが生み出した場所だ。そして奴は炎の鎖から逃げようと必死にもがいているが逃がさない。
「凄いな、本当にフレイムドラゴンを固定して動かないようにしている……」
「ねえ、カイ、今ブラコ――――「凄いスキルだ!! これで奴を倒せる!!」
「い、いえ快利兄さん、瑠理香さんが今しつも――――「なんだって!? 第二の効果も!? 行くぞ!! 第二スキル!!」
俺には何も聞こえてない!! 幻聴を振り切り俺は聖剣に炎を纏わせ動けないフレイムドラゴンに挑む。本来なら聖なる一撃でトドメを刺す予定だったが今回はこの第二効果で良いようだ……しかし神様は最後まで非情だった。
「第二、第二効果……ええい!! 燃え上がれ!! お姉ちゃんへの想い熱き呪縛を力に変えて『姉式虎王炎斬・弐式』!!」
何で、どうしてセカンドスキルもこんな名前なんだよ!! 俺は泣きながらフレイムドラゴンを真っ二つにして奴を完全消滅させた。そして経験値も大量に入ってまた何か魔法や魔術を覚えていく。現在も勇者は成長中です、泣きたい。
◇
スキルの効果が切れると俺はすぐに付近住民に洗脳魔法を使って何事も無かったような記憶を植え付け、その上で修復魔術で家屋を、回復魔法で人々を癒すと幸いにも深刻な被害は無く、そして俺達は無言で時空魔術を使って高校まで跳んだ。
「あ、あのぉ、カイリ? その……」
「言わないでくれ……セリカ。昼に、後生だから昼休みまで時間を下さい」
「えっ、ええ……」(これはマズイですわ!!)
時空魔術で一瞬で生徒会室まで跳んで来た俺達を黒幕会長たちは一瞬驚いた後に何事も無かったかのように迎えてくれた。しかし次のルリの一言で空気が凍る事になった。
「カイ、そんなに気に病まないで!! ブラコンだとかお姉ちゃんとか、ご近所中で騒いでたのがカイだってバレて無いし近くの人は洗脳したならカイがシスコンなのは絶対にバレないよ!!」
「止めてあげて下さい瑠理香さん!! 快利兄さんにトドメを刺してますよ!!」
本人的には励ましてくれてるんだろうなぁ……中学の時に意外と天然さんだったもんなぁルリは……そしてフォロー感謝だモニカ。今日、帰りにお前の好きなバニラアイス買って来てやるからな。
「ま、まあ、快利が、お姉ちゃんの事を大好きなのは、よ~く伝わった、詳しくは後で話そうな? じゃあお姉ちゃんは先に教室に行くからな~♪」
あ、エリ姉さんがスキップして教室に向かって行った。それを追って黒幕会長と百合賀が出て行くがすれ違い様に「昼に先程の魔力の波動について詳しく話してくれ」と真剣な顔で言われた。
そして俺は三人に連れられて教室に入る。俺がルリとモニカに引きずられる形で入室したのが奇異の目で見られるが構わない。今はブラコンだの、お姉ちゃんだの連呼した挙句、周りの女の子に励まされると言うそんな環境が恥ずかしくて同時に悲しくて仕方ない。
◇
そして俺は昼になると全速力で逃げだした。一応は百合賀には学食で話す趣旨をスマホのアプリで連絡はしていたので問題無いはずだ。
「はぁ……何で新スキルがあんな恥ずかしい技名なんだよぉ……」
「お客さま、何かお悩みですか?」
何か横にスッと座られたけど不思議と嫌な雰囲気じゃない。スキルにも反応しないし大丈夫だろう。
「今朝、発動したスキルの名前が酷かったんだよ……」
「まぁ、それは、でもスキルは神からの贈り物、こればかりは天命ですわ」
「それで? どんな名前だったのよ?」
今度は反対サイドに少しぶっきらぼうな毎日聞いてる感じの声が聞こえた気がしたから素直に答えていた。
「うん、『姉式・爆熱無限呪縛の陣』って言うのと『姉式虎王炎斬・弐式』って名前だった」
「うっわ……どう言うネーミングセンスしてんのよ神様、何か色々と災難だったわね快利」
「うん、ユリ姉さん……ってユリ姉さん!? それに慧花まで何でここに!?」
いつの間にか両サイドにピッタリ座っているのは大学生組の二人で気付けば水でお酌されていた。
「さ、まずはサービスドリンクで景気良くどうぞ」
「お前さぁ……水じゃん」
「ふふっ、飲めるような年になったらカイリ専属で付いてあげますわ」
「てか、お前の体って一応は19歳だろ? ホステスとかしてて大丈夫なの?」
実はこれは気になっていた。ユリ姉さんと同い年の肉体ならアウトだろうと疑問には思っていたのだ。誰も言わないから流していたけど法律的にやばいでしょ。
「私も気になってたのよね、ケイのとこって高級クラブってやつでしょ? マズいんじゃないの?」
「そこはママが上手くやってくれてね。美村瑠美香から角倉慧花に改名した際に年齢と生年月日も弄ってもらったのさ」
どこでも権力との癒着が有るんだなぁ……そんな事を考えながら慧花も共犯だし、色々と無茶をやるから気になった。
「いやいや、そんなの普通に無理だろ、まさか魔法で?」
「ママが銀座でナンバーワンの時からの馴染みが今は市役所の部長さんらしいのよ。そこにいつものように頼んでくれたそうだよ」
「いつものようにって……何も聞かない方が良さそうね」
そんな話をしていたら二人の大学の話になって、帰れって言ったら他の四人と生徒会組までやって来たのが今の状況だった。
◇
「あの瑠理香さん……か、金田は?」
「ふ~ん、こんな時だけ金田に頼るんだ~? 残念、あいつは来ないわ!! 厄介事を押し付けられたからね!!」
こんな時に限って来ねえのかよ。あいつが居れば異世界の話は出来ないから昼休みも無難に過ごせたのに。やはり直接連れてくれば良かったと思うと同時に俺はどうやって奴を昼に誘うか分からなかった。
「だって、こっちの世界でどうやって男とか誘えば良いからしらねえし」
「ふっ、何だか昔のカイリを思い出すな。最初は私や父上にすら話しかけられずドモってたからね? だから王や私達にため口なんて許したんだから」
え? そうだったの?
「快利のコミュ障は私達も責任が有るからね……何とも言えないわ」
「そうだな……でも、そんな快利もお姉ちゃんの事をあんなに想っていてくれたなんて!! 私は嬉しいぞ快利!!」
そう言うと後ろからギュッと抱き着かれる俗に言う『あすなろ抱き』と言うのをされています。これって男がしなきゃダメなんじゃないの? ま、エリ姉さんはイケメン女子だったから間違いでは無い? でも今日も凄い弾力です。
「快利兄さん……あれは喜んでますね、おまけに絵梨花姉さんもわざとブレザー脱いでここまで来てるから確信犯です!!」
「仕方ありませんわモニカ、殿下、ではなく慧花さんがカイリの性癖を白日の下に晒しましたからね……」
人の事を巨乳大好き人間みたいに言うのは止めて欲しいのだが……ま、大好きですけどね!! 俺は後頭部にエリ姉さん、両サイドに女子大生のお姉さまを二人も侍らせて、ここは天国かな?
「取り合えず、他の生徒の前も有るから秋山、そのキャバクラごっこはそろそろ止めてくれないか? それと女子大生の二人も聞きたい事が有ったから来たのだろう? 私と同じように」
「ああ、やはり腐っても元四天王かな、さてカイリ? 今朝のあの波動、あれは何かな?」
百合賀の提案に俺が頷くと俺は両サイドから二人が離れるのを確認して……離れないのが一人が居る。俺の背中から離れないエリ姉さんが残ってる。
「あの、エリ姉さん? 嬉しいんだけどそろそろ離れてくれると……」
「お姉ちゃんは嬉しいんだ!! ユリ姉ぇ!! 快利が私を思ってスキルを覚えてくれたんだ!! そうだよな快利?」
「えっと、ま、そうです……」
「あぁ……それで「ブラコン」とか「お姉ちゃん」なのね? 納得したわ、何だかんだで二人は小さい頃から仲良くて一緒だったものね、私と違って……」
ユリ姉さんが自己嫌悪モードになって来たから俺はエリ姉さんを振り払うのを諦めて話を進めて誤魔化す事にした。今朝のドラゴンについて一通り話すと二人は考え込む。当然だ、今回のこれは始まりなのだから。
「あのさ、異世界組だけで納得してるとこ悪いんだけど快利、まだ私たちに話して無い事有るんじゃない?」
「話して無いって言うか前提情報の方かな……あの竜あと七体居るんだよ」
「なにっ!? あと六体では無いのか!? かつて魔王はそう言っていた!?」
百合賀ことビルトリィーが驚きの声を上げた。どうやら魔王陣営は隠しの八体目の存在を知らなかったようだ。何を隠そう魔王の遺産を使って龍皇を名乗る謎の人物が七体のドラゴンを召喚したのがこの事件の始まりだった。
「いんや、この間まで、つい三ヵ月前までは俺もそう思ってたんだけどさ……七体倒した後に黒龍って黒いのが出て来たんだよ」
「そう言えばカイリは七体目のブラッドドラゴンを倒した後に出て来たと報告してたな。二連戦だったとか?」
「ああ、ドラゴン八体討伐の報告して十分後に魔王討伐命令がまた出たから俺は逃げ出したからな、マジ勇者とかブラック過ぎだろ……」
そう、魔王四天王だとか真魔王とか超魔王とかゾロゾロ出やがって今思い出しても洗脳が解けたみたいに俺はあの世界から脱出したんだ。
「そう言えば思い出しますわ。皆でこちらの世界に逃げようとするカイリを止めようとしたのを……」
「あの時は必死でしたね……セリカ様」
「私も結婚を迫ったね。ハハハハハハ!!」
それで俺は皆の前で因果律操作魔法で逃げ出したんだ。懐かしいな体感では三ヵ月前か少しだけ懐かしく感じる。
「そうか、快利。大変だったんだな……だが、お姉ちゃんと新スキルさえあれば安泰だ!! そのドラゴンとやらを全部倒そう!!」
「いやいや。いきなり決めないでくれよ!? 今回だって割と大変だったんだから」
「そうか? だが私には圧勝に見えたが?」
いや、実際その通りなんですけどね……でも、どう説明したものかと考えていたら口を開いたのは慧花だった。
「事はそう簡単な話では無いんだよエリカ? カイリ説明を頼む世界の危機だろ?」
誤字報告などあれば是非とも報告をお願い致します。(感想ではなく誤字脱字報告でお願いします)
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