第55話「不審者を目撃したら元勇者にご連絡下さい」
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「やはりダメか……それと今の私は百合賀尊だ……ナノにも言われたから、その名は今回の事件が終わったら捨てたいと思っている。では時間を取らせた」
そう言って席を立とうとする奴を制して俺はエリ姉さんを見て頷くと改めて二人を見た。元魔族とは言え今は力を使わなければ見た目は人間の女子と、以前とは違って少しオドオドしているが、それを必死に支えようとしている黒幕会長を見て決断してしまった。
「早とちりをするな。まずは魔力解放だがしても構わない。今の俺ならお前に気配すら探知される前に瞬殺出来るしエリ姉さんの防御のためのスキルも盤石だから」
「それは、つまり……」
「一応は腕輪は普段はして位置は分かるようにしてくれ、万が一にもお前が勝てない場合は俺たちが戦う必要があるからな? ただこの事件後は好きにしろ」
「快利、その……良いのか?」
それをあなたが言いますか? エリ姉さん、だって姉さんが不安そうな顔してるから俺はコイツらを許そうって決めたんだよ?
「まあね? それにビルトリィーじゃなくて、お前は百合賀尊なんだろ? 夏休み中は約束を守ってたみたいだし、この一週間エリ姉さんを襲わなかった……だからだ」
なんと言われても結局は俺は身内には甘い、一度こちら側と認めた側やその知人、今回ならエリ姉さんの親友を助けると言う名目で助ける。それがかつての敵で、後ろの少女たちの仇であるとしてもだ。後で何を言われて受け入れる覚悟だけはしておこうと思ったら既に文句が出て来ていた。
「はぁ、甘い、勇者カイリは甘過ぎますわ……」
「本当に、マイマスターは……私としては、コイツさえ居なければ本当の兄さん達と今も一緒に居られたんですけどね?」
モニカがなぜか尊じゃなくて俺の方を見て言う。正直な事を言うと戦力比で見るとモニカの方が強いのだ。腐っても六騎士の一人だったので俺や旅の仲間を除くとモニカにタイマンで勝てるのは、あの第三王子くらいだろう。
「お前達が望むなら甘んじて罰を受けよう……だが、この件が片付くまでは……」
「はぁ、私は嫌味は言いますがそれ以上はしません……復讐よりも私が元気に生きる方が兄さん達も喜んでくれると信じてますから、ですよね? 快利兄さん?」
「ま、私は恨み半分、感謝半分ですので、あなたが滅ぼした国には親族も居ましたが嫌な人間の方が多かったので、幸いにも親族は全員保護出来ましたから」
そう言いながらも二人の顔色を見るに納得したとはとても言えないので後でサービスするしかないだろう。元勇者は相変わらず激務で義妹二人のご機嫌を取る方法も考えながら不審者への対策も考えなくてはいけないのだから。ヌルゲーとはいったい何だったのか?
「では、その魔力の気配の有った奴は俺が対応しよう。ビルトリィーは追いつけなかったとか言う背の高い奴らを、セリカとモニカには盗撮魔を、エリ姉さんも暇なら二人に付き合ってもらえる?」
素早く全員に指示を出すと全員の了承を得られたので俺は腕輪を預かる。もう必要無いからだ。
「良かったね尊!! これで釈放だよ!!」
「あ、ああ……だが腕輪が外れて分かったが勇者、いや元勇者、お前……どれほどの力を……」
「そう言えば四天王は七年後のカイリに会うのは初でしょうからね? これがあなた方を討滅し英雄化した状態の勇者ですわ!!」
ま、厳密には七年後よりも強くなってるんだけどね。出来ないのが死者の蘇生くらいで、それだけは最後までスキル化してくれないんだよな神様。ただ瀕死なら完全回復出来るから必要はないし、運命変えたり、世界の法則変えたり出来るからそもそも死の運命を変えるって力技も出来るから良いと言う判断なのは変わらないらしい。その日はそれで解散となって翌日の放課後から行動開始となった。
◇
そして翌日の放課後にルリを事務所に送り届けると早速不審者の捜索を開始する。俺が神々の視点で校内及び周辺をスキャンすれば良いのだが、不審者を見つけろって言ってスキルで調べても潜在的な不審者からガチの不審者まで全て見つけて来るのが、このスキルの悪い所で犯人だけを見つけるのは不可能なのだ。
「役に立ちそうで肝心なところがダメなのが勇者系スキルの特徴と快利兄さんいつも言ってましたもんね?」
「まあな、だからモニカも時空魔術の精度上げとけよ? 浮遊魔法とかも含めて移動系は俺とお前しか使えないんだからな?」
なのでセリカとモニカのコンビにエリ姉さんは完璧だ。エリ姉さんは最近は色々と残念だけど基本は頭が回るし俺より地頭は良い。それに移動はモニカで毒物などを使って拘束するセリカ、これで盤石だ。一方で百合賀尊ことビルトリィーは魔法は幻惑系も含め得意分野で、モニカ達を誘拐する手腕から犯人を拘束するのは得意なのだろう。そしてご存知、俺はチートで一人で余裕だ。
「それは分かったがビルト……じゃなくて百合賀先輩、それに黒幕会長? これは、いったい?」
「絵梨花の提案で、君たち四人を臨時生徒会のお手伝い要員として扱おうって、部活にも委員会にも所属してない生徒が放課後ウロウロしてたら先生に捕まって、その度に説明するのも面倒でしょ?」
すっかり忘れていたけど俺はこっちの世界では帰宅部の陰キャだ。最近はチートのお陰で好き放題やれていたんで忘れてた。この世界では一学生なんだし放課後にいたら不審なのは俺達も同じなんだと思い直して腕章を受け取った。
「それにしても漫画やアニメの世界でしか無いのかと思ってたよ『生徒会』なんて書いた腕章なんて」
「生徒会活動する時以外はその腕章付けなくても大丈夫だよ?」
「じゃあ付けっぱでも良いんですか? 会長?」
「ええ、ただ付けっぱなしにしてると先生に色々頼まれ事増えるよ?」
なるほどと言いながら生徒会も教師の小間使いとして利用されているようだ。そんな事を思いながら俺達はそれぞれ三チームに別れて行動を開始した。
◇
しかし不思議だ、朝から魔族大辞典のチェックをガイドにお願いしていたのだが、尊、つまりはビルトリィーしか反応していない。これは誰にも言ってないのでガイドにだけ呼びかけた。
(この表示ってそう言う事なんだよな?)
『はい、勇者カイリ、現在この世界で観測できる魔族は『愛欲のビルトリィー』以外は存在しておりません。加えて魔力の残滓の反応は一つです』
(じゃあ残り二人は普通の人間なのか?)
『恐らくはそう考えるのが妥当です……ですが、お気を付け下さい。魔力が封じられていたとしても魔族を振り切ったのなら相当に鍛えられた人間です』
そんな脳内会話をしながら俺は魔力持ちの人間を探すべく放課後の学校の探索を始めた。一方のエリ姉さんたち三人は早くも犯人と思しき人間と遭遇していた。
――――絵梨花Side
二人の義妹を連れて私は校舎の周囲を捜索していた。そしてすぐに痕跡を発見していた。
「たばこの吸い殻……これは黒だな。さすがに火などは付いていないし、数日前のものか……」
「絵梨花姉さん、こちらの世界の葉巻ですか?」
「ああ、タバコと言う。ちなみに愛好する人間は成人男性が多い、この学校は当然ながら原則禁煙で職員室の一部だけが喫煙所になっている」
全く唾棄すべき事だと常々思う、本当は全面禁煙にして欲しいのだが今の校長が梃子でも動かぬと言う姿勢を崩さなかったらしい。この話は生徒会の二人に聞いたもので二人は校長室でも絶対に吸っていると憤慨していた。
「なるほど、部外者かルール違反者かの二択ですのね?」
「いや、もしかしたら外部の業者かも知れないが……ま、それは有り得ないだろうな、わざわざ仕事場でそんな事は……っ!?」
セリカの問いに答えながらも可能性としては考慮しようと考えて、タバコの銘柄を見た瞬間に顔を顰める。これはあの男、口に出すのも悍ましい私の血の繋がった父が好んでいた銘柄だった。
「どうかしましたの? 絵梨花姉様?」
「何でも無いさ、これで校内に侵入した怪しい人間が居る事はほぼ掴んだ……他にも痕跡は無いか探そう」
「あの……絵梨花姉さん? 今、一瞬だけあちらで違和感が有ったのですが!?」
モニカの指差す方を見て見るが何も無かったが、この子は向こうの世界では快利と戦った事も有る戦士だった過去が有り、いつも剣の勝負をしているセリカよりも実は強いと聞いた。その彼女の勘なら信用した方が良いと判断して即座に決定する。
「分かった!! 行くぞ二人とも!!」
モニカの指差した場所は高校の敷地を出た先の路地で、その先は商店街へと繋がっている。実は快利が良く瑠理香からパシられていた時に使っていた道だとは私達三人は知らなくて後で快利から聞く事になった。
「待て~!! 不審者!!」
「逃がさない!!」
モニカとセリカが大声を出して走り出すと路地裏で気配がして脱兎の如く逃げ出すのは黒い詰襟コートにサングラスと言う明らかに怪しい風体の二人組だった。これはもう不審者に違いない。しかし不審者の身のこなしは素早かった。
「ちっ!? 子供に補足された!?」
「振り切るぞ!!」
そう言ったのが聞こえたから私はスマホを構えてバースト撮影の連射で写真を撮る。これだけは絶対にするようにと快利とセリカから言われていた。二人が言うには対象者の写真さえあれば二人のスキルで何とかなるらしい。そんな事を考えているとセリカが用意していた木刀で襲い掛かっていた。
「ちっ、子供が!! 止むを得ない、怪我はさせるなよ!! うわっ!?」
「私の攻撃を避ける!? モニカ、注意なさい!! 相手は訓練を受けている人間、それも最低でも兵士より上、騎士クラス!!」
「っ!? なるほど……つまり、私なら余裕と言う意味ですね!? セリカ様!!」
そう言うとモニカは逃げようとしていた不審者に蹴りかかる。だが黒コートはそれを避けると、カウンター気味に反撃に転じていた。
「バカ野郎!! 女子高生相手に!?」
「先輩!! この子達は普通じゃないです!! うわっ!?」
モニカの蹴りを両腕で防御しながら距離を取ろうとしていたもう一人に別な黒コートが怒鳴っていたが、セリカ相手に余裕が無いようだ。モニカはダガーやショートソード使いの元騎士で格闘技は嗜み程度と聞いた。
それでここまで圧倒しているなら本当に強いのだろうと改めて普段は家で姉と二人でメイド服を着て仲良くしている少女が本物の戦士だと思い知らされた。一方のセリカもトドメを決めようと木刀を振りかぶっていた。
「これでチェックメイトです!!」
「これで、終わりですわっ!!」
そう言ってモニカの裏拳が黒コートの顔面に入った後に足払いで倒し、セリカも追い詰めたのだが相手の先輩風の黒コートも特殊警棒を取り出してセリカの木刀を抑えた。さらに蹴りを放ちセリカが避けようと後ろに跳んだ瞬間、黒コートは懐から黒い何かを取り出しそれを撃った。
「がっ、ああっ……」
ビクンと痙攣したようにセリカが跳ねるような動きをするとその場に倒れ込んでしまい、男がその黒い銃のような形のものを突き付けてこちらに向かって諭すように交渉を持ちかけて来た。
「けっ、まさかテーザー銃まで使わせるとは……そっちのお嬢さん、この子と、そこのバカな男の交換をしないかい? 応じないと分かっ――――」
黒コートが言おうとした瞬間、男は吹き飛んで路地裏のゴミ捨て場に吹き飛ばされていた。見えないが私には分かっていた、こんな芸当が出来るのは世界広しと言えど一人しか居ない。
「快利!!」
「快利兄さん!!」
私の大事な未来の旦那様兼今は義弟だ。実に良いタイミングだ。モニカも目の中がハートになっている。そもそもあの二人は私達と違って最初から好意を隠して無いから仕方ないか、本当に強くなったな快利。
「せ、先輩っ!! なっ、なんなんだっ!?」
「セリカ? 油断するなって言っただろ? 元貴族なら不意打ちは想定しておけといつも……ま、抜けてるとこも、ご愛嬌かな? さ~て、俺の大事な義姉&義妹たちに手を出した不審者はお前らか?」
セリカを抱き上げると素早く何か呟いたかと思うと、すぐにセリカが目を覚ましてビックリしている。
「快利、あ、あのっ!? わたくしは……」
「油断したな? 状態異常で気絶と麻痺って出てたから直しておいた。もう一人で立てるな?」
「はっ、はい、変な黒いものから出た紐で……」
そう言うと黒コートの方を見るとニヤリと笑ったように口角が上がるが目が笑っていない。最近知ったがあれが快利が怒っている時の顔だそうだ。
「ほ~ん、日本じゃあんまり見ないスタンガンの遠距離用のやつだっけ? 確かテーザーガン、なんか夕方のニュースで見た事有るわ」
そう言って快利はモニカの近くの黒コートをつま先でチョンと突いた。その瞬間、黒コートはもう一人と同じようにゴミ捨て場に頭から突っ込んでピクピクしていた。
「快利、やり過ぎだ!! 相手はそれこそ一般人だぞ」
「ごめん、つい……」
黒コートは二人共気絶し、それを快利はヒョイと両肩に抱え「どうする?」と聞いて来たので、生徒会室に連れて行くように言う。このままでは目立つので隠れ身の腕輪を二人に無理やり付けて運んでいるので快利がまるで両腕を上げてボディビルダーのようなポーズをして歩いているのを放課後の生徒に見られてしまったが本人は気にしていないようだった。
◇
生徒会室に戻ると百合賀先輩と黒幕会長は既に待機していて俺の戦闘の余波を感じ取って戻ったらしい。
「私が出ても足手まといなだけだろうしな、それよりご苦労だった。これで残りは一人だな?」
「どうだろうか? 三グループ居た可能性も有るし、もしかしたら三人とも一緒の組織かもしれない。奈之代、そこら辺は分かってないのか?」
黒幕会長にエリ姉さんが聞くとやはり、まだ何も分かって無いようだ。そこで俺は百合賀先輩に目配せすると目が赤く怪しく光った。奴の得意な魔法の魅了の魔法だろう。洗脳魔法とは違って記憶は残ってしまうので記憶消去の魔法が必要になるのだがビルトリィーは今まで魅了後、ほぼ相手の精気を奪って廃人か死を与えているので気にしていないようだ。
「あ、俺が洗脳魔法を使った方が早かった上にリスク無かったのか……」
そんな事を言って少し場が沈黙したが百合賀先輩ことビルトリィーが改めて詰問を開始する。
「お前達は何者? 教えなさい? 良い子だから、ね?」
「うっ……俺、たち……は、けい……しちょう……こうあん……ぶ……ガ、イジ」
なんか凄い単語が聞こえて来た気がしたんですけど、思わずエリ姉さんと顔を見合わせてしまうがそれよりも一人だけ急に暴発し出した人間が出て来た。言わずもがなで、それは黒幕会長だった。
「尊ぉ……凄いエッチだよぉ……」
「あ、あの、ナノ……今は仕事中だから、ね?」
「奈之代……無理か、このまま尊がエロい声出したら恐らくまた発情するわ、と、言う訳で、快利頼むぞ!?」
そんな感じで結局は俺が洗脳魔法と、ついでに記憶リセットの魔法も使う事で話がまとまった。最初から俺がやれば万事解決だったんだよ。二度手間だとは思いながら二人に洗脳魔法をかける。
「私は警視庁公安部外事課の佐倉亮介、階級は警部、です」
「第何課ですかね?」
「第一課で、す……うっ、ううっ……」
「おお、さすが公安の刑事さん!! 魔法に対抗しようとしてる、ま、無駄だけどね、威力上げるよ~抵抗するだけ無駄だよ無駄」
抵抗したので威力を微弱から弱に引き上げる。これだけで一般人には耐えられない。中とか強にしたら廃人になるか脳が弾けるのでNGだ。向こうの世界で間違えて囚人にした時そうなった。
「あああああああああああっ……うっ……」
「抵抗なんてするから……ま、いいや。目的は?」
「最近この街で外国人の、流入が激しいから調査……不審事件も増えてるから関連を調べ……」
「なぁ~んで、うちの高校に?」
「不審人物、外国人らしき人間が二名、完璧過ぎる……偽造書類で、怪しいと睨んだ……この街は不審な事件が多発」
そう言って俺はエリ姉さんと顔を見合わせた。つまりモニカとセリカの監視をしていたのか、しかし親父の言ってた通り書類の偽造が完璧だったとは……、それで逆に不審に思われるなんて予想外だった。
「オーケー、じゃあ洗脳&記憶書き換え開始~!! この高校に何も問題は無かった。そしてこの街にも事件が偶然が重なっただけで問題無し。偽造書類は気のせいで本物だった。はい復唱!!」
二人に復唱させ、さらに強い強制力の高い記憶消去の魔法で今日一日の出来事を全て消した。後は元の場所に二人を置いて最後は百合賀先輩たちに通報してもらい、昏睡している二人をパトカーで連行してもらい解決した。
最後に連行前に二人には追跡の魔術と位置確認の魔法を付与して、この場に近付いたら反応するように設定するのも忘れずにして完璧だ。
「じゃあ奈之代、それと尊も、あと一人は明日以降だな?」
「そうね。じゃあ先生への報告は済ませておくから、四人ともまた明日」
エリ姉さんが二人に挨拶するのを待って俺達四人は生徒会室から転移しようとするがエリ姉さんが駅前で何かケーキでも買って帰ろうと言い出した。今日のご褒美と言う事らしい。ちなみに駅前には俺の知ってるケーキ屋が有るには有る。
「俺がルリにパシられてた行きつけが……有るんだ。ま、ルリが選ぶくらいだから美味しいんだけどね……ハハハ」
「「「あっ……」」」
しかし駅前で他に店も知らないので仕方なく俺達は徒歩でその店に向かう。さっきの二人の居た路地裏を通ると早いんだよと言うと三人は更に渋い顔をした。自虐ネタは意外とウケなかったらしい。
ちなみにこの間、俺の部屋で同じ事をルリに言ったらお詫びに『今度は私が首輪を付けて奴隷になるよ』とか言われて焦った後に隣の部屋で寝ていたユリ姉さんを呼び出して一日メイドの刑にした。あの異世界ダメ知識を広めようとした罰だ。
「って事があってさ……」
「まったく、ユリ姉ぇは……しょうがないな、瑠理香も……」
路地裏付近には野次馬が数名まだ居て先ほどパトカーが来た時にはスマホを向けていた人間もいた。その名残だろうと通り過ぎようとした時にその人混みの中から声をかけられた。
「夕子っ!? いや、違う……まさか、由梨花か? いや、絵梨花か?」
「え? っ!? あ、ああ……いっ、いやっ」
「エリ姉さん? 誰? 知り合い……って」
次の瞬間にエリ姉さんは俺の背中に回って抱き着いていた。この反応はよく覚えている。俺がトラウマを強引に治した時の反応そのものだったからだ。
「絵梨花姉さま!!」
「絵梨花姉さん!!」
二人も違和感を感じてその人物から庇うようにエリ姉さんの傍に寄り添うのを見ると俺は庇うようにして目の前のカメラを首から掛けた男を睨みつけた。
「失礼ですがどちら様? 姉に何かご用でしょうか?」
「は? 何を、そいつは、その子は加藤絵梨花だろ? お前こそ誰だ?」
「何言ってんだ? この人は俺の姉さんで秋山絵梨花だ!! 人違いは……」
俺が言い返した瞬間に後ろで掠れるような声が聞こえた。
「とう……さん……」
青ざめた顔をしているであろう俺の背中で震えているエリ姉さんは確かにそう呟いた。俺にしか聞こえていなかったが確かに聞こえた。父さんと呟いた声が俺には聞こえてしまった。
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