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転移先がブラック過ぎたので帰ってきたらヌルゲーでした  作者: 他津哉
第2部『元勇者の葛藤とアイドルの秘密』
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第23話「やっと言えた一言は案外シンプルなもので」



 家に戻ると今後の事を話し合う前にまずは母さんが俺たちを見て驚いていた。そして一言。


「快くんが……お姉ちゃん達以外の女の子を……ま、まさか、ついに彼女さんが我が家にっ!?」


「いやっ、違うから母さん!?」


「良かったわ……今日ちゃんとお家を掃除しておいて!! ささっ、遠慮しないで入ってね~!! あとでお茶とお菓子持って行くからねっ!!」


 凄い早さでキッチンに戻ってしまった。言い訳する前に行ってしまった。ルリは苦笑いしていたが反対にユリ姉さんとエリ姉さんはブスっとしてさっさと自室に行ってしまったので俺はルリと二人で俺の部屋に戻る事にした。


「ま、姉さん達も着替えたら来るだろうから……あっ……」


「っ!? あ、あのっ、こう言うの、隠して……よ」


「いや、普段は隠してて……違うんだっ!!」


 そうだった、母さん俺の部屋も掃除してくれたんだ……でも本とDVDとBDでそれぞれキッチリ分けて部屋のテーブル、ちゃぶ台に並べるのはやめて下さい!!


 しかもそれ以外の本は隅っこに置かないで!! あの本で隠してたのがバレるじゃないですかっ!? しかもこれはエリ姉さんに発見されて場所を変えたもののはず!?


「入るよ~快利~!! どうし……はぁ、あんた母さんはトロいけどキッチリしてるからこう言う事されるの忘れてたの?」


「ああ、しかしラインナップが変わらず姉妹モノと純愛ものばかりなのは好感が持てるなっ!!」


 ヤメテ。その分かり切った感じ、ただでさえ中学からの女子の親友に見られて泣きたいのに姉さん達にまるで管理されてたみたいな雰囲気……ま、エリ姉さんには泳がされてたんだけどさ。


 そして誤解与えるようにメイド服で来ないでユリ姉さん!!すっごい見てるからルリが、今度はこっち睨んだ。


「と、とにかく片付けますので……」


「仕方ないからお姉ちゃんが一緒に片付けを――――「お願いします。武士の情けでそれだけは、あっ……」


 そして俺はちゃぶ台に束になっていた本とDVD群を片付けようと持ち上げたら盛大に床に落としてしまった。動揺して魔法も魔術も使う事が頭になかった。


 しかも最悪な事にルリの足元に落ちてしまったのが『学園抜かずの50連発』

『クラスのアイドルと体育倉庫で朝まで』『妄想シリーズ・地味っ娘同級生が脱いだら凄かった』などで、泣きたい。チラっとルリを見ると真っ赤になっててまたビンタでもされるかと思ったらポツリと呟いた。


「その、アイドルのとか……見ないの?」


「なっ!? バカにしないでもらおう!! この方は天使だ!! こう言う性的な対象には絶対に見ないっ!!」


 そう言って部屋のRUKAさんのポスターに向かってなけなしのプライドを発揮して指差す。彼女は天使だからなっ!!なんかルリが真っ赤になったり、驚いたりした後にハッとした顔をした。


「そっか、アイドルは見ないんだ……じゃあこれは……っ!?」


「どうした? と、取り合えず片付けるから!!」


 今度こそ俺が片付けて上にダミー用の本『恐竜と近代動物比較図鑑』・『初心者の味方―手編みテクニック―【マフラー編】』・『中学数学決定版三年生編』を上下と中間に入れて部屋の奥の机の影になったところに隠す。


 さて、これで問題無いと思ったら母さんが部屋に入って来てニコニコした後に飲み物を置いて行くと姉二人に早く二人きりにしてあげなさいと言って出て行った。当然だがそれは無理だ。


「じゃ、ルリには二回目になるけど改めて……俺の、()()()七年間を話すよ……ユリ姉さんには曖昧にしてた事も全部……」


 俺は語った。もちろん戦争の詳細は語らない、ただ向こうの世界に転移されたのがこの過去の時間では約一週間前だと言う事、そして異世界に渡って五度の戦争と数え切れないほどの願いと紛争を解決して来たという事実。


 そうしている内に今度は六度目の戦争に巻き込まれそうになって七年目で向こうの世界から過去に逃げ出して改変し、ここに居る事を全て話した。


 さらに戻って来てからの一週間を、姉さんを分子分解しそうになった話も、ユリ姉さんを助けるためにビルを爆破したのも、ルリを助けるために時を戻り未来を破壊した事も全て。


「そんな……バカな、話が……」


「魔法使える時点で私は信じたよ。それに私を助けてくれてメイドにしたのはあんただもんね? 快利?」


「誤解!! それ好きで着てるのはユリ姉さんだからねっ!?」


 後は三人の受け取り方次第、俺が頭オカシイ人間になったか、それとも今の荒唐無稽な話を過去改変で戻ってきた勇者の話として信じてくれるのか。


「私はカイの言う事は全部信じる。だって私はカイが助けてくれなきゃ今ここに居なかった。私の事は信じ無くても……私はカイを絶対に信じるからっ!!」


「ま、私も快利がビル爆破してくれなきゃここに居られないで、その……体売ってたかと思うと……怖くてさ、だから信じる」


 正直ここまでは想定内だ。だってユリ姉さんはあれから魔術有り前提で話してたし、あの後から図々しいくらい甘えて来たから信じてくれるとは思ってた。むしろ納得した感じすら有る。


 全部話した後になぜか無言で頭を撫でてくれた。俺が撫でた時は怒るくせに……。ルリは昨日の今日で二回目だからな、相変わらず話す気は無いみたいだけどそこは本人も負い目に感じてるみたいだな。そして一番気になってた人が口を開いた。


「正直サッパリ分からない!! 異世界転移だとか邪神だとかアニメや漫画それこそSFの世界だ。非現実的過ぎるし私の理解のキャパシティーを越えている。急にこんな事を言われてもな」


「だよねぇ……」


「だけどな、義弟が、私の弟は割と根性が無くてヘラヘラして、根気も無くて後は、かなりの頻度で私の胸をチラ見してくるような奴だった」


 確かに、何も言い返せない……俺は不幸だとか思ってたし向こうの世界でもそう思ってたけど七年経ってこっちに戻って来たら確かに環境は劣悪だったし不遇だった。


 それでもよく見れば分かった事は有ったんだ。昔の俺なら不貞腐れたかも知れないけど今は少しだけ姉さんの言う事は分かった気がした。


「その上で、私はお前を信じる。その、異世界とかは二人に比べて知識も無いからサッパリ分からない。だけど快利がそこでどれだけの経験を積んで来たかはおもんばかることは出来る……はずだ。これが今の私の限界だ。どうだ?」


「じゅ~ぶん。信じてくれてありがとう。じゃあその前提で三人に教えておく事と現在の状況を説明するね」


「あっ、そうだ、快利!! その……私のスマホ壊されたから直して」


 そう言って真っ二つにされたスマホを出して来たユリ姉さん。瑠実香と言うよりエンドレェズに追いつかれた時に咄嗟に手放したら奴が試し斬りと言って斬ったようだ。転移する直前に拾って戻るあたり抜け目が無い。


「分かったよ。修復魔術っと。たぶん大丈夫だよ」


「うん。よし動く動く」


「凄いな……このシャツもお前が作ったんだろ? そうかじゃあユリ姉ぇのこのメイド服もかっ!?」


「そう言う事、このメイド服もバフとか掛かってるからね? まあ本人の意思で弱いのばっかだけど……だから三人と母さんには勇者スキル付与したわけだし」


 そう言うと今度はその説明をした。スキルの付与は俺の力の一部を分け与える事、特に凶悪なスキルが二つあってそれは敵を遠ざけ襲われた場合は相手を消滅させる事、スキルが破られる場合は俺より強い相手が出た時など。格上のみと伝えた。


「ね? カイ。それってこっちの世界じゃ有り得ないんじゃない? だって、この世界じゃ、カイより強い相手なんて」


「俺もこの間までそう思ってたんだけど穴も結構有るんだよ。ルリ、お前が教えてくれたんだ。自殺ダメ絶対。今度から絶対に俺に連絡してくれよ?」


 そう言って少し強めに言って睨むけど顔を赤くしてそっぽを向かれる。そう言う顔されると本当に弱いんだから勘弁してくれよ。これ以上強く言えなくなる。


「うん、一応した気では、いたんだけど……そもそも混乱してたから、あの時カイの連絡先知らなかったから……ほら、私たちは、ね?」


「ね? じゃ無いから!! ルリが死んだ時、俺本当に何で昼にあんな事言ったのかってすっごい反省したんだぞ……」


「カイは悪くないよ。悪いのは――――「じゃあ話してくれ!! 今日はそれも聞き出すつもりで俺はっ!!」


 そう言うけど彼女は首を横に振った。ここまで話しても全部俺の秘密を話しても教えてくれないのかよ。なおもルリに詰め寄ろうとした俺を抑えたのはエリ姉さんだった。だけど姉さんでもこれは。


「落ち着け快利!! ここまで黙るのにはそれなりのっ――――「分かってる。だけどそれでも俺はっ!?」


「はいはいストップストップ!! 絵梨花これは言っても聞かない。あと快利、こう言うのは凄い言い辛いもんよ。私も言い辛かったし。あんたが他人の事を一から十まで全て知り尽くしてたいって言うなら別なんだけど、どうなの?」


「そんなんじゃ、無いけど……」


「なら少しくらい待ちなさい。少なくとも風美さんの方は私ほど切羽詰まった感じとは違うみたいだし、そうね私のコーラ下から取って来て。十分くらい時間かけて、良いわね?」


 つまり頭を冷やして来いって意味だろう俺は下に降りるとコーラを取ってブラブラしていると母さんにルリの事を聞かれたのでクラスメイトだと言う事を話すと母さんは『風美』と言う苗字に反応していた。


「どこかで聞いたのよね~思い出したら言うわね? あとそろそろ良い時間だし瑠理香ちゃんをキチンと家まで送ってあげるのよ~?」


「分かってる。じゃあ戻るね……ってこれ!?」





「ごめん!? 入っていい!?」


「まだダメだ!! 少し待て!!」


 俺は急いで階段を駆け上がると三人で何か話し合っていて俺が急いで入ろうとすると二人でルリを隠すようにしていた。そして最後に話が終わったからと二人が離れるとルリは少し血色がよくなって姉さん達と距離が近づいてるようだった。


「OK、じゃそう言う事でこっちは納得したわ、瑠理香」


「すいません。いずれキチンとしますんで……じゃなきゃ私は前に進めない」


「ああ、ならば、その先からは私達はライバル同士だ。瑠理香」


 なんだこの河川敷で殴り合った後みたいな女子三人の雰囲気……ルリは俺の親友なのにと思って姉さん達を見る。


「それで快利? 何かあったんじゃないのか?」


「あっ!? そうだ!! テレビ見て!!」


 そしてテレビを付けるとニュースでは先ほどの四天王との戦い、つまり女子大での戦いが事件として取りざたされていた。その犯人として挙げられていたのが……。


『美村瑠実香さんは他県の精神病棟から抜け出してなぜかこの大学の敷地内に侵入し凶器と思われる刃渡り八〇センチ以上の刃物で暴れていたそうです。その際に鳥の覆面を付けて暴れていたそうです弁護士の斎藤先生これは?』


『あ~恐らくですが精神疾患を患っていた方の典型で――――』


 その後も弁護士やアナウンサーの的外れな推理が続いていた。緊急だったから医者とか専門家も呼べなかったんだろう……でもさっきから映像が出てないようで安心した。


 一応は俺達に対しては認識阻害の魔法を、それも最上級のものを使って現場に入ったからせいぜい気付かれていたのは最初に襲われた人間とユリ姉さんだけだろう。


「あ、見て今スマホで調べたけど瑠実香の情報すんごい早さで拡散されてる。高校二年で退学になってるっぽい、その後に精神病院行きかぁ……こっわ」


「しかしどうして彼女がここまで来ていたのか分からず終い……」


「いや奴が、エンドレェズが言うには俺への情念が強かったらしい、んでその後に俺の守護下にあった姉さんを見つけたって、俺の魔力や神気の反応で」


 そう説明すると三人とも複雑な顔をするとルリだけは話について行けず俺の方を見ていた。だから簡単に彼女がどう言う人間かを話す。それを引き継ぐようにユリ姉さんとエリ姉さんも話して行く。


「と、まあそんな感じで私としては少しざまぁ見ろって感じも有ったんだけど、ここまで来れば……少し、ねえ?」


「ああ、だが因果応報とも見えなくもないが……最後は魔の者に魅入られたとは」


「そうだったんだ。じゃあカイが中学時代酷い目にあってた原因はあの人も原因だったんでしょ? カイは良いの?」


 心配そうにこっちを見て来るルリに少し違和感を感じたけど曖昧に頷いた。だってこの話題を掘り返すとユリ姉さんにもダメージ入るからね。俺はあの件をもう許したんだし、今はメイドだし、うん。


「ああ、許せはしないし、あんまり後味は良くないけど魔族に憑りつかれたり、その前も精神病院入ってたりで罰は充分に受けたんじゃないかな?」


「カイが良いならそれで……って私が言う資格無いか」


「あ~!! もうっ、分かった俺も男だし!! 決めた、もう理由は聞かない。ルリが話してくれるまで待つからそう言う態度禁止!!」


 また辛そうな顔してるのは俺の方が限界だった。せっかく全部話してすっきりしたのになぁ……。


「うん。ごめん、それと……ありがと。カイ」


「別に~……それじゃ改めて今後の対策なんだけど……」


 その後は三人に対策と後はアプリでグループを作ってそこでなるべく情報共有をするようにした。他にも異世界の情報についての振る舞い方やバレた時の対処法などをエリ姉さんがまとめてくれた。


 俺よりも適格に対策を考えてくれて正直助かった。そんな事を話していたらすっかり夜も遅くなったから母さんの提案でルリも一緒に夕ご飯を食べて行く事になった。


「だから俺が作ってるんだけどね!!」


「あの……カイ、私も手伝うよ?」


「あ~それはダメ、ここは私の出番だから、瑠理香は座ってて、快利!! 今日も切るわよ!! 食材だけっ!!」


 なぜかユリ姉さんがやる気を出している。いい傾向だ。ルリが仕方ないと席に着くと母さんとエリ姉さんと話している。その後さっさと時空魔術と時間魔法で準備を終わらせるとルリが少し驚いた後に「ズルい」と言ったのに笑いながらシチューを盛り付けて行った。


 そしてその後は家までちゃんと送る。ワームホールで送っても良かったけど少し話したかったから歩いて送る事にした。ルリの家は前の家と違って意外と近所で歩いて十五分くらいの場所だったから。





「家の中に居ればあいつらは襲って来れないから、あと夜中でも俺に連絡をくれよ。必ず行くから」


「う、うん。今度はちゃんと連絡するから」


「あと、これ渡しておくな」


 俺はいつもの箱からある物を取り出す。どんな闇属性の攻撃でも一度だけなら全て無効にして使用者を安全圏に逃がす事の出来る腕輪『閃きの腕輪』だ。ちなみに一回使ったらただの腕輪になってしまう。


「これも向こうの世界の?」


「ああ、俺のスキルを破れる相手なんてそれこそ同じ力を持ってる奴だから新生魔王くらいなんだけど、用心には用心を重ねてね。ただの魔王だから大丈夫だと思うんだけどさ。それにそいつは一回だけなら転移魔術に近い事が出来るからルリの自殺防止にもなるからな?」


「ま~だそれ言う……でも分かった。次は絶対にカイを呼ぶから!!」


 少しいたずらっぽく言うとルリは苦笑しながらも口をとがらせて言い返してくる。中学時代に戻ったみたいな距離感が本当に心地いい。お互いにこうやって言い合いしてるのが俺達の関係で、だから……。


「消したとは言えあんな未来もうゴメンだ……。じゃ、一応結界の強化もしておくからさ、おやすみ!!」


「うん。おやすみ、カイ……また明日」


 その後、俺は出来るだけの魔術と魔法さらにアイテムでルリの家の敷地自体を強化してワームホールで家の近くに転移する。そのまま普通に帰宅して部屋に戻る。今日もこれで終わりだと思って部屋に入ると姉二人が普通に待っていた。





「ごめん。勝手に待たせてもらってた」


「スマンな快利、少し聞きたい事があってな」


 ユリ姉さんだけならまた洋服の調整とか……ってそうだよユリ姉さんすっかり忘れてたけど聞かなきゃいけない事あったんだ!!


「そうだ!! ユリ姉さんの頭の色戻ってるの驚いたよ!?」


「ああ、今日は一限と四限だったから美容室行って髪の色戻してついでに整えてもらったのよ。どう?」


「うん!! やっぱ姉さんはその色が一番!!」


 少し照れながら「やっぱりそう思う?」とか満更でも無い様子で陽キャオーラは消えたけど前よりユリ姉さんらしさが戻って来た感じがする。ただこれで後ろ姿だと本当に髪型だけで判断するしかなくなったな……この二人。


「さて快利、改めて聞きたいんだが……七年後からお前は来た、そうだな?」


「ああ、そうだよ、まぁ、そこそこ大変だったけどね?」


 ああ、そこそこ大変だった。七年間ほとんど毎日戦いに明け暮れて後は暗殺に警戒して心身ともにボロボロで、だからそんな状況が嫌で恐くて、本当は愛想尽かして帰ったんじゃなくて、これ以上あんな勇者の仕事なんてしたくなくて逃げ出した。


「だからもうさ、皆が俺に全部押し付けて来たからさ、あんな世界居られるかって帰って来たんだよ……アハハ……」


「そっか、じゃあ最初に言ってあげなきゃいけない事があったのに……ゴメン快利」


「ああ、迂闊だったな。今日の出来事が鮮烈だったからすっかり忘れてた」


 二人とも姿勢を正して俺の方を真っすぐ見つめるとユリ姉さんは少し照れ臭そうに、エリ姉さんは泣きそうな顔で声を合わせて言った。


『おかえり、快利』


 あれ?なんだ、普通じゃん。普通過ぎて……あれ?おかしいな前がよく見えないや。視界が、戦闘に支障、いや違う。泣いてる?涙で前が……姉さんたちの顔が見えない……。


「俺、帰って来て、良かったの? 姉さん達に嫌われてて、居場所無くて……最初は向こうで認められて調子乗って、こっちの事忘れてたのに……」


「それは私たちもでしょ? それに、日曜に言ったのは嘘なの? ちゃんとした姉弟になるんでしょ? なら貸しよ貸し!!」


「快利、お前のここ最近は凄いとしか言いようが無かった。でもな、時々何かに耐えるような顔をしていたよな? 何か辛い事を思い出してたんじゃないのか?」


 聞いてみると姉さんたちは俺が異世界の事を思い出している時の表情が何かに耐えているような辛い事を思い出してるような顔をしていたと言う。おかしい、なるべく笑うようにしてたのに……。


「だからよ? そもそも私相手に何も出来ないでコソコソしてた子が、あんなに堂々としてたら気付くわよ。そしたら今度はご飯の時に泣き出してさ」


「だって久しぶりの皆とのご飯だって急に思い出したらさ……」


「それよりも快利、お姉ちゃん達に何か言う事は無いのか?」


 え?言う事と言われても……いや、いまさら恥ずかしいと言いますか……急に羞恥心がブワッと出て来て言い辛い。だけど二人の姉に囲まれて言わなきゃいけない雰囲気になってしまって……。


「えっと……そのぉ、『ただいま』二人とも……うわっ!?」


 言った瞬間に視界が塞がれた。柔らかい感触とエリ姉さんの匂いがする。抱きしめられてる。あぁ……俺帰って来たんだ。いつもならもっと嬉しいのに今は何か落ち着くなぁ……。


「はい、終了ね!! 今度はこっちよ!! 快利!!」


「ふぇっ!? うわっ!? ユリ姉さんっ!! むぎゅ」


 今度はさっきよりも更におっきくて柔らかい……人をダメにするアレみたいな感触がしてシャンプーの良い香りがする。こっちも落ち着く。でも懐かしいと言うより憧れみたいな……そうだ俺の初恋はこんな……。


「よし!! 交代だ!! 私の方が良いだろ?」


「快利は私の方が好みなのよね? 残念ね~絵梨花? さ、こっちに来なさい」


 お願い余韻に余韻に浸らせて!!今、美人な姉二人に抱きしめられるって言う人生のピークみたいなもんなんだからもっと感触、クッソ……カッコ付けて落ち着くとか言うんじゃなかった!!


 もっと感触とか顔をしっかり埋めておけばっ!? 結局この後は二人に散々オモチャにされてしまった。でも俺って、現実世界に帰ってこれたんだ。


 『ただいま』って言っただけなのに、やっと俺はこっちに戻ったんだって実感した。

誤字報告などあれば是非ともよろしくお願い致します。


ブクマ・評価なども待ちしています。


この作品はカクヨム様で先行して投稿しています。

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