第120話「俺の願う未来が人生ハードモードになった件」
第8部ラストです。次は週明けの更新を予定しています。先が気になる方は下のリンクからカクヨム版をお読み下さい。現在最終部や番外編も更新しています。
「こいつはまた……俺に負担が凄いスキルだ」
「だが、これで私も勇者だ、そうだろ快利?」
明るい紫色のオーラの俺と慧花が光の中から躍り出る。俺の白銀に輝く勇者専用『聖なる鎧』は破損個所が完全に回復し隣の慧花も俺と同じ鎧を装着していた。
『ど、どうなっている勇者が二人だと……』
「違うな魔王、私は勇者の相棒だ!!」
そう言って聖剣を構え挨拶代わりの魔法、炎系最強の紅蓮の裁きを放っていた。この魔法を使えるのは俺を除けば正当な後継者のセリカだけだ。それを慧花はあっさりと使ってみせた。
「凄い……これが何れ菖蒲か杜若の効果ですか!?」
「そうだ那結果、俺への負担が凄いだろ?」
「はい……しかし、これが慧花さんの本来の力なんですね」
那結果の言葉に一番焦ったのは龍と化したイベドだった。こいつだけは完全に蚊帳の外で混乱して攻撃の手まで止まっていた。
『どうなっている、そ、その力は一体……』
「教えてやる、今の慧花は勇者になるために必要な経験値を全て得た状態の慧花だ」
『は? 何を……意味が分からない』
そうだろう……俺も最初は意味が分からなかった。自分の今の弱体化したステータスを見なければ理解が追い付かなかったくらいだ。
「おやおや、因果律操作をして我々を苦しめた魔王様が理解出来ないと、これは意外ですね快利?」
那結果が盛大にバカにするように言うとイベドは三対の首から七種のブレスを連射するが俺たち三人には届かない。慧花の結界魔法で容易く防ぎ切ったからだ。
『バカな……七竜の咆哮が効かないだと』
驚愕で声を震わせている魔王に向かって慧花は聖剣を構え言い放つ。その構えは俺が必殺の一撃を放つ姿と酷似していた。
「見せてあげようか勇者・慧花の技を聖なる一撃!!」
『なっ!? なぜ貴様が……貴様が聖剣の技を、お前は第一段階までしか使えないとデータで、なぜだっ!?』
困惑するイベドを追撃する慧花を見ながら、やはりコピーでも聖なる鎧が俺より似合ってるように見えた。体が変わっても纏う者が正当な後継者だから当然だろう。
◇
そんな二人を遠目に俺は那結果と話をしていた。俺もスキルの説明を見たけど正直よく理解は出来ていないから話しながら復習する感じだ。
「データ系の敵を倒す一番手っ取り早い方法って何か分かるか那結果?」
「古今東西データキャラをぶっ倒す方法は敵のデータ以上の力を出すだけですね」
「そういうこと、だから答え合わせだイベド・イラック!! 今の慧花は約一万年分の修行を積んだ状態だ!!」
俺が答えを言うと魔王は一瞬考えたようで動きが止まる。その瞬間にも慧花は聖なる一撃を放ち首の一つを消滅させていた。そこで魔王は、やっと気付いたように慌てて声を上げた。
『つ、つまり本来は得られるはずの無い膨大な経験値を何らかの方法で与え人間の縛りの中では絶対に到達できない高みにまで無理やり到達させたのか!?』
ほぼ正解だった。正確には膨大な経験値を与えレベリングしまくって本来なら到達できないレベルまで無理やり押し上げ本来の力を引き出させ対象者を本物にするスキル。それこそが何れ菖蒲か杜若の効果だった。
「そうだ!! 勇者は過酷な修行や経験を経て成長する、しかし、それ以外でも可能性は有った、お前ら魔族のように何千年、何万年の修行が出来れば人は更に進化し上に行ける!!」
慧花や他の王族も勇者になれる可能性は有った。しかし何万年も修行すればという条件付きだったのだ。実はこれこそが王家から、いや人類から勇者が排出されなくなった原因だ。勇者になれる前提は有ったが条件が厳し過ぎたのだ。
「ま、例外は異常な成長力持ってた俺だった、お前が異世界に転移させたから、ここに本来なら絶対にあり得ない本物の勇者が二人存在することになった!!」
『ぐっ、そ、それではまるで……俺が……』
「そうだ!! 墓穴を掘ったな魔王イベド・イラック!! これも神が作ったシナリオなら、お前は最後まで神の操り人形だ!!」
それを言った瞬間イベドは怒り狂ってブレスを全ての首から発射するが狙いがメチャクチャで避けることすら不要だった。完全に怒りで我を忘れて錯乱していた。
「よそ見はしてくれるなよ魔王!! まだまだ行くぞ、聖なる一撃!!」
そして聖なる一撃に加えて俺と同じ極の領域にまで達した魔法を連続行使する。今の慧花は文字通り俺と同じ最強の勇者になっている。
『アリエナイ、それでは俺が今までやって来た事が、そんなはず……まるで今日この日のためのお膳立てを、違う!! ちがああああああう!!』
なおも錯乱する魔王を尻目に那結果が俺の隣に並ぶとニヤリと笑って魔王に向かって言い放つ。
「では決めましょう快利、どうやらフィナーレの曲も流れて来たようです」
「これは、ルリのソロ曲……よし、これで俺の方も回復だ!!」
ヘリの方から見えたのは再度投影されたライブステージの映像と音楽で、ちょうどルリが歌い始める所だった。あの恰好は初めて見るから今回に合わせたステージ衣装だろう……気分も乗って来た。
「そしてイベド、お前に教えてやるよ慧花が今の力を得るためには片方の対象者の全ての魔力と神気を供給するのが必要だという事を!!」
『なっ、では今までの貴様は!?』
「その通り、魔力も神気も無い状態だ……だから那結果の方に真っ先に逃げ出したんだからな、バレたら危ないとこだったぜ」
俺の持つ力の全てを経験値に変換し渡すのが慧花を勇者に本物にする方法だった。それだけ本物になるのは難しいという話だ。そして今まで絞りカス状態だった俺はバレないように那結果に浮遊魔法をかけてもらって必死に虚勢を張っていた。
「じゃあ俺も反撃開始だ……なんせ俺の歌姫が歌ってくれてるんだからな……負ける要素は何も無い!! 歌姫の守護騎士、歌姫の声で勇者は何度でも戦える!! 那結果!!」
「分かってます!! 今こそ勇者を英雄へ……スキル英雄化!!」
さらに那結果が英雄化を使う事で俺の力は極限まで進化する。さらにここで予想外なことが起こった。
「なっ!? この力は……私にまで英雄化が!?」
「そのようですね、慧花さんも英雄化の恩恵を受けて……それに対象者が分散化されたお陰で私も動けます!!」
今まで英雄化の制御は大変で那結果は自衛くらいしか出来なかったが今なら俺の勇者状態くらいの力なら発揮できるらしい。スキルの誤認識で勇者が二人いると間違えた結果力が分散され那結果の負担も減ったのだ。
「つまり、英雄二人と勇者が一人だ……イベド!!」
俺たち三人の圧倒的な力の前に目の前の魔王龍は姿は巨大なれども逆に存在は余りにもちっぽけだった。
◇
『バカな、バカな……まるで俺が、舞台装置、これも神の!?』
「神様好きなのは結構ですが、いい加減あなたには飽きました……退場のお時間ですよ!! 四重奏の竜砲!!」
那結果がブラッド・ポイズン・フレイム・コバルトの各ドラゴンの力を融合させた竜砲を放つ。迎撃に魔王も三重のブレスを放つがアッサリ力負けしブラッドに似た龍の首が吹き飛んだ。
「では次は私の番だ!!」
『調子に乗る――――「な、などと言ってくれるなよ、そのスピードで!!」
慧花は一瞬でイベドの前まで行くと顔面を蹴り飛ばし真横に跳んで隣のポイズンに似た黒白の首に狙いを付けた。
「君にも仕返しさせてもらう!!聖なる斬撃!!」
まずは小手調べ、聖剣の第一の技で首と胴体部分の球体から切り離すと慧花は上空に飛んで聖剣を構え直す。
「そして聖なる一撃!!」
『ぐっ、余波でこれほどとは……バカな、悪意の鎧が砕ける!?』
そして慧花の一撃で奴の防壁は一つ壊れた。残りはマリンの水の障壁だけだ。だから俺の出番だ。
「当たり前だろ、今の慧花は英雄化してんだから悪意の鎧なんて砕けるさ!! 行くぞ!! 神聖なる斬撃!! 」
一瞬で奴の目の前に迫ると水の障壁ごと神速の斬撃を放ちイベドを斬りつける。思った以上に硬い、だけど俺は反対の手で紅蓮の裁きを放って障壁を蒸発させ障壁に穴を開けた。
「これで――――『油断したな英雄!! 食らええええええ!!』
水の障壁の一部を蒸発させた瞬間、その空いた場所から魔王が水のブレスを放って来た。最後の最後にマリンのブレスを隠し持っていたらしく普通に直撃コースだ。
「「快利っ!?」」
「舐めんなよ魔王!! カーマインの旦那から受け継いだ魔法は最後まで燃え続けんだよっ!! 来いセリカっ!!」
「その言葉を待っていました!! モニカの仇、食らいなさい紅蓮の裁き!!」
俺はカップリングスキル『|紅き尊き気高き絆《OATH OF SCARLET》』でセリカ本人を呼び出す。敵の真上に呼び出されたセリカは紅蓮の裁きを放ち水のブレスを蒸発させ俺の方に落ちて来るから片腕で抱き寄せ再び二人一緒に魔法を放つ。
「「紅蓮の裁き!!」」
魔法が決まると奴の障壁が消し飛びブレスも相殺されたから俺はセリカを空中に投げて神聖なる斬撃でイベドの憑依している龍を斬り裂いた。
「快利!! 上に投げるのは聞いてませんわ~!!」
「大丈夫さセリカ、私が控えていたからね」
「慧花さ……ん、凄いことになってますわ……」
何も考えずに投げたわけじゃないんだ。勇者コールで慧花にはセリカの確保よろしくって言っておいたからな。
『まだだ……まだ終わりでは』
「いや、お前はもう終わりだ……何れ菖蒲か杜若2ndスキル
『高貴なる杜若の誘い』発動……」
俺は本体から切り離された龍の眉間に神刀を刺した。そこから一気に毒は広がる。このスキルは特殊で本来なら慧花のみが使える3rdスキルと併用して使う事で俺の勇者三技の一つと同じかそれ以上の効果が出せるものだ。
「しかし単一の場合は、俺の価値観を持って毒か薬になるかを選択する……そして俺の答えは……毒だ」
『がっ……やめろ、これは……これはあああああああ』
その毒は恐ろしく刺した対象に最も効果をもたらすように最適化され地獄のような苦しみを与えた後に一切の慈悲も無くキッチリ一分で死に至らしめるものだ。
「今度こそ、永遠に消えろ全ての悪意と共に毒にまみれて消え去れ魔王!!」
きっかり一分苦しんだ後に何も言葉を発すること無くイベド・イラックは事切れた。そして後に残されたのは龍の消えた黒い球体だけだった。
「快利、最後の最後にお約束です!!」
「爆発するのか!? やっぱり自爆か!?」
仁人さんの予想通りかと思えば首を横に振った。結界を強化しようとしたら止めるように言われ那結果の解析を待った。
「いいえ、内部に強力な重力反応、恐らくは球体が爆発したらブラックホールのようなものが出現します!!」
「快利、何か手は!?」
慧花の声に俺が一瞬悩んだが那結果が地上と連絡を取って仁人さんと既に対策を決めていたようで叫んで俺に指示を出す。
「快利、関係の無い異世界へ跳ばすことを提案します!!」
「転移魔術で例の荒れ果てた世界に捨てて来る!!」
例の世界とは惑星が一つだけあった例の世界だ。姉さん達の血縁上の父親を捨てて消滅させた異世界だ。ちょうど良いからこれであの男が死んだ事にしてしまおうと考えて俺と那結果だけで異世界に跳んだ。
「よし、これで終わりだ!! 逃げるぞ!!」
「凄い勢いです、巻き込まれないで下さい!!」
二人して転移魔術で元の世界に逃げようとする背後で放置した黒い球体が爆発しブラックホールが出現する。既に壊れかけの天体が吸い込まれているから那結果が急いで転移魔術の反対の入り口を塞ぎ、さらに俺が因果律操作魔法で荒廃した世界そのものとの繋がりも断った。
「これでっ!! 終わりだ」
「やったな、快利」
「ああ、何とか今回も終わったな慧花、那結果それにセリカも……」
三人の顔を見ると結界が解け真冬の空気の澄んだ満天の星空が俺たちを迎えてくれた。こうして今度こそ黒龍との長い戦いは終わりを告げた。俺達の長い長いクリスマス・イブの夜は幕を閉じた。
◇
それからは色々と大忙しだった。まずはグラスやフラッシュそれに怪我人の治療をしていたらユリ姉さんとエリ姉さんが来て二人に同時に抱き着かれて泣かれた。俺も泣きそうになったけど二人を慰めている内に何とか耐えて治療を終えた。もちろん犠牲者はゼロだ。
「本当に……おかえり快利」
「ただいまユリ姉さん」
「怪我は……無いか、何か変なトラウマを植え付けられてないか? お姉ちゃんの胸で泣いたり揉みたくないか!?」
「落ち着いて大丈夫、それと発情しないでエリ姉さん」
ある意味でいつも通りの姉二人を落ち着かせると次に龍の呪いで昏睡状態のモニカのために慧花とのカップリングスキルの3rdスキル『癒される菖蒲の景色』を使用し龍の呪いを解いた。
「快利兄さん、ありがとうございました慧花様も……」
「あらモニカ、わたくしには何か無いの?」
「もちろんセリカ様にも……でも一番は……」
実はモニカには治療でキスしたのがバレていて俺が慌てた所に不意打ちでキスをされてしまった。そしてそれを見て看病して本気で心配していたセリカが怒りだし二人で喧嘩になってしまい止めるのに一苦労だった。
「ふっ、ぬ、ヌルゲーさ……こんなの」
「義妹二人から交互にキスされ放題された後にそれを言えるようになったのは成長しましたね快利……失笑を禁じ得ません」
「そう思うなら止めろよ那結果、あと慧花も笑ってんじゃねえ!!」
クスクス笑っている慧花も今回のカップリングスキルで自信が付いたようで余裕が戻っていた。どさくさに紛れて慧花にもキスされて話がさらに大混乱して最後は仁人さんに止めてもらい何とか場は収まった。
「私もやっとスタートラインに立てたよ快利、これからもよろしく!!」
「あっ、ああ……よろ、しく……な」
それに曖昧に答えながら俺は内心で大いに焦ったけどポーカーフェイスを貫けたと思う。那結果の方を見ると呆れた顔をした後に溜息をつかれたのが不安要素だった。
「まだまだですね快利?」
「うっるせえ、お前もキスしてやろうか!!」
「どうぞどうぞ、熱いの一発お願いしま~す」
結局できずにいたら那結果にはヘタレ英雄と言われた。そう言えば那結果とは一回しかキスしてない気がする。その日は俺達はボロボロで家に帰る事になった。何か忘れている気がしたが寝たくて仕方なかった。
◇
翌日、俺たちは別会場へと移されたトワディーのライブに招待された。そこで風美社長の勧めで関係者席を用意されたが俺は断って真正面のアリーナから三人のライブを応援した。
「最高のライブだったな」
久しぶりに会った同士たちから妹が三人に慧花まで増えたせいで姉さん達と来た時よりも声をかけられ皆をナンパから守ったりするのに一苦労だった。そして例の特別なファンとしての特権でライブ後の楽屋へ呼び出され訪れるとルリに抱き着かれた。
「カイ、良かったぁ……無事で」
「俺は大丈夫だって、昨日も今日もライブ……最高だった」
昨日ライブ後に連絡を何度もしたのに返事をくれないから本気で心配したと言われ慌ててスマホをチェックすると凄まじい量で若干病んだ文脈も有ったから必死に謝っていると他のメンバー二人も寄って来た。
「ルリ姉ぇ本当に心配してたんだから秋山くんもフォローしてあげてね明日から二日間は私ら完全オフだから」
「そうね、リーダーも今回は最高のパフォーマンスだったわ」
二人に礼を言うとエマさんも頷いてご苦労様と言ってくれて安心していたらルリの目が涙で溢れそうになっていた。
「悪かったって、俺も本当に疲れてて……」
「キスしたら許してあげる……」
「えっ、いや、前回は治療行為で……」
「ふ~ん、セリモニと慧花さんにはしたのに? へ~、頑張った私には何も無しなんだ……はぁ……」
どうやらセリカ達に煽られたらしくご立腹のようだ。どうするかと慌てて視線をそらすとエマさんはグッと親指を立てている。親として、いやマネージャーとしてもどうなんだと思ったが後押しされる形で俺はルリとキスしていた。
「んっ……カイお疲れ様……私の歌しっかり受け取ってくれたよね?」
「もちろんさ、最高のクリスマスプレゼントだったよ」
この後はルリを連れて皆と合流し七海さん主催の身内だけの堅苦しくない立食形式のパーティーに参加することになっている。今回の作戦の関係者との顔合わせだ。千堂グループの人達や協力者と挨拶したりして爺ちゃんの話も聞いたりしている内に俺は気付いてしまった。
◇
「なんか王国での貴族との顔つなぎに似てる……」
「そのようだね快利、これは七海さんにしてやられたか」
やっと解放された俺の隣で慧花がワイングラスを傾けながら頬を染めて言う。他のメンバーも大なり小なり挨拶という名の質問攻めに遭っていて大変そうだ。
「仁人さんに聞いたんだけど今回の件で我々を本格的に取り込む気満々だそうだ七海さんは」
「でも勇者は中立で……」
「君のバイトの買い取り先は全て千堂グループの関連企業だったらしいね」
親父の紹介とはいえ疑わなかったのは俺のミスだ。それに母さんの世話に学校での隠蔽や他にも千堂グループには公私に渡ってお世話になっている。というよりも親父に頼った時点でこうなるように仕向けられていた。
「もしかして俺って、こっちでも勇者みたいな便利屋させられるのか!?」
「グレスタードとは違って大事にはされるだろうね、社畜勇者にはならないが便利に使われる覚悟はした方がいいかな?」
慧花がフッと笑って言うけど何言ってやがるんですかねコイツは、俺はそれが嫌で逃げ出したんだぞ。
「でも大丈夫、これからは私が支えるよ君と同じ勇者にもなれる私が、一番近い位置で、ず~っとね」
「えっ、いや……ま、まあ助かるかな」
急に腕に抱き着いて来る慧花にドギマギしているとペシっと後頭部を何かに叩かれた。聖なる防壁が反応しないと思ってふり返ると相手はユリ姉さんと小型化したグラスだった。
「そこまでケイ、うちの弟への誘惑禁止!!」
「そ~だそ~だ!! ヘタレなご主人様のために言ってやると本当は自分だって弟殿を抱きしめたいのを我慢してたんだぞ!!」
グラスもペシっと叩かれて黙らされるとユリ姉さんが近付いて来て慧花とは反対側の腕に抱き着かれた。いつの間にかグラスは消えていたからフラッシュにでも連れて行かれたのだろう。
「二人とも、ここはパーティー会場なんだ快利には正当なパートナーの私以外は離れてもらおうか!!」
「エリ姉さん!?」
そして当たり前のように割って入るエリ姉さん。勝手に姉からパートナーにランクアップ? しているんだけど……そしてこうなるとパターンは読めた。
「と、言う訳で残りのメンバーを連れて来ましたよ快利!!」
「余計なことすんな那結果!!」
那結果が集めて来たのは残りのセリカ、モニカ、ルリの三人で完全に包囲されてしまった。セリカは扇子なんか持ってて昔の貴族令嬢モードだし、モニカもメイド服で澄まし顔、唯一の私服のルリは目が病んでいた。
「そろそろ決めた方が身のためだよ快利?」
「そうだよカイ……年貢だよ」
ルリに何で年貢なんだと聞けば狭霧さんから「納める物は年貢だよね」と意味不明なことを聞かされたらしい。おまけに七海さんにも納めるなら千堂グループに貢献をとよく分からない量の契約書の束を渡されたらしく持って来ていた。
「快利兄さん覚悟を決めて私達を本妻と妾にすべきです!!」
「よく言いましたわモニカ!!」
さらにモニカとセリカまで不穏な発言をして全員から迫られ快利と名前を連呼される始末。だから俺は最後の希望の那結果を見て祈っていた。
「これは人生ハードモードですね、快利」
しかし返って来たのはこの一言だった。泣きたいしルリから渡された束は今までの諸経費の領収書と新たな契約書で目を通しただけ眩暈がする。
「ヌルゲーなんて無かった!! 俺の人生ハードモードじゃねえか!!」
「快利、いい機会ですし、もう人生ハーレムモードを目指しましょう!!」
「ハーレムモードなんてハードモードよりタチが悪いんだよ!!」
しかし、またしても今の発言で墓穴を掘った。気付いた時にはもう遅いを自ら体現して行くスタイルで、いっそ掘り続けて埋まって隠れたいけど掘り返されそうだから無駄か……やらかした。
「「「ハーレムですって!?」」」
ほら見ろよルリを筆頭に姉さん達が明らかにお怒りだから止めろ那結果。お願いだから止めてと見るけどニヤリと笑っただけで俺の退路は完全に断たれてしまった。俺のヌルゲーライフは一体どこに行った。
「俺はただ大事な人を守ってヌルゲー人生を送りたかっただけなのに……」
「などと無責任ハーレム野郎は供述しておりまして」
「那結果ぁ!! いや、違う皆これは誤解で!!」
少し前までは皆を守って青春を謳歌し可愛い彼女作りたいというフワッとした決意だったのに気付けば社畜勇者に逆戻りで、おまけに女の子に刺されるかもしれない未来なんて俺は一体どうすりゃいいんだ!!
――――第九部へ続く
誤字報告などあれば是非とも報告をお願い致します。(感想ではなく誤字脱字報告でお願いします)
感想・ブクマ・評価などもお待ちしています。
この作品はカクヨムで先行して投稿しています。
下に他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。