第118話「勝機の先に現れる本当の絶望」
八月最後なので本日は19時にも更新が有ります。よろしくお願いします。
俺とモニカの同時に放つ一撃は必殺の一撃、それが黒龍を襲う。だが予想通り黒龍の周囲が黒く輝き俺達の攻撃は全てかき消されてしまった。だが俺達は一顧だにせず光速で魔法を連続行使したその時だった。
――――ギュアアアアアアアアア
時空を揺るがす咆哮が日本中を包んでいた。当たり前だが音は聞こえないが軽い地震くらいに感じる揺れは有っただろう。千堂グループが対策をしているとは言っていたが外の状況は分からない。
「那結果!! 俺の結界が抜かれたぞ!! 対策を!!」
『問題有りません、結界外のマリンと連動させている魔力遮断力場発生装置、あれが稼働しているので魔力漏れは確認できません!!』
全てを拒絶する聖域は未だに一度たりとも破られた事が無い最高の結界魔法だが今回初めて一部が破壊された。しかし、それも見越した上で千堂グループと俺たちが共同開発したのが魔力遮断装置だ。
『動いているようだね、例の人工結界発生装置』
『慧花さん、あれは結界ではなく魔力の流れを遮断しているだけで……』
『でも原理は結界だろ?』
後ろの慧花と那結果が話をしているが、これこそが千堂グループが開発した例の魔力のジャミング装置の改良型で全部で二十基が地上には設置されている。そのお陰で地上に到達すると威力が大幅に減衰され竜巻が発生した規模まで落ちるらしい。
「シミュレーションではそう出てたけど、なっ!?」
『下にはマリンがいるから竜巻程度なら簡単に防げるだろうしね、それより反撃の手段は?』
慧花の声を聞きながら俺は炎と氷の魔法を牽制で放ち続ける。しかし奴の悪意の鎧は欠片も消えていない。モニカも雷と闇の魔法と更に爆薬を光速で放つが効果は無かった。
「魔力の無駄遣いだな……ルリの歌もまだ有るから大丈夫だし、俺を通してモニカも動けるけど結界が持たない」
『では補強すべきです快利、絵梨花さんと連絡を!!』
那結果の声が聞こえ俺は先ほどの地上との交信を思い出す。絵梨花姉さんは真下にいるはずだ。俺はすぐに神気を展開してエリ姉さんとの繋がりを確認する。
「じゃあ行くぞ|姉式・爆熱無限呪縛の陣!!」
最初に張った結界の上に炎の結界が包み込むように展開される。これで結界の穴は防がれたが油断は出来ない。黒龍の能力は未知数で、あのイベドが作ったのなら何か仕込んでいるはずだ。
◇――――絵梨花視点
地上で状況を見守っていると通信が途絶えた。大丈夫だ快利たちの反応は有ると千堂グループの研究所長の仁人さんは言った。だけど不安な私は隣の姉を見ていた。
「大丈夫よ絵梨花、マリンが守ってくれてるしグラスとフラッシュもいるから」
目の前の姉は少し前までは母共々、私が守らなきゃいけないと思っていたのに気付けば三体の竜を従える程で私なんかより快利に頼られるようになっていて今も私以上に戦っている。
「でもユリ姉ぇ……あっ!?」
隣で緑色に光っている姉と話をしていたら今度は私がオレンジ色に光り出した。これは快利がスキルを使ったという証拠だ。
「ね? 快利は大丈夫よ……だって私達の弟でしょ」
「ああ、そうだった……頑張れ、快利」
私は拳をギュッと握ると祈るしかない歯痒さと自分が光っている間は快利が無事だと分かっている安心感の二つの思いに私の心は複雑で、どうすべきか考えているデータを検証をしていた仁人さんが呟いた。
「マズイ……これは」
「どうしたんですか仁人さん?」
「由梨花くん、上に繋がりそうか? ドラゴン達を通してでも構わないのだが」
そう言う仁人さんの言葉に首を振る姉を見ると聞いた内容は現在、上の結界内では強力な力場が発生し大混乱で、だから私の結界すら使われたという話だった。
「もともと絵梨花くんの結界は最後のセーフティとして使うように俺が彼に言ったからな……それをこんな早々に使うとは、やはり融合型か」
「融合型?」
「ああ、快利や那結果くん、それに異世界組の少女たちと話して製作者の思考を俺なりに推測、いや推理していた」
製作者というのは私達を家で襲い快利の心をズタズタに傷つけた魔王の事に違いない。私は魔王を二回見た事が有ったが一度目の魔王の方がまだ性格的にはマシだったように思える。
「奴は研究者の側面を持っていた、だから恐らく黒龍を作る際に快利への対策を入念にしたはずだ、そこで考えられるのは個としての強さか、あるいは……」
「あるいは?」
「真逆の構想、群としての力かと考えた時に単純に両方を兼ね備えたものだと考えついた、出来るなら俺でもそうするからだ」
隣の姉は理解出来ていないようだが私は目の前の人の言いたい事は大体理解出来た。これでも分かりやすいように合わせて説明してくれたのだろう。
「つまり個での強さをもって群を融合させたと?」
「ちょっと!! どういう意味よ二人とも!?」
「送られて来たデータだけで敵は今まで快利が倒したドラゴンの力を流用しているのが分かった、それを一体の黒龍として運用しているという意味だ」
「それって、あの黒いのは、あの四体のドラゴンの全部載せ?」
それに頷く仁人さんの言葉を受けて私達は愕然とした。そしてさらに仁人さんは恐ろしい言葉を続けた。
「快利が倒したのは、異世界も含めれば七体だ……由梨花くん」
「七体……って!? まさか!?」
そして私達はライブ会場に併設されている仮設対策本部から外に出て上空を見て自分達を守っている水の龍を見た。
「敵はマリンドラゴンの力も使って来る……」
◇
「フレイムのブレスは遅いし威力だけだ、エリ姉さんの結界が有るから問題無い」
「分かっています!! だから用意したこのダイナマイトで!!」
千堂グループのお陰でモニカの爆弾は異世界の比じゃない威力のものになっていた。異世界の爆弾は手りゅう弾の殺傷能力を大幅に下げた程度のもので弱かった。しかし、この世界では違う。威力は魔法などの補助が無くても桁違いだ。それが転移魔術で黒龍の周囲に数十本以上が一斉に叩き込まれた。
――――ギュアアアアアアアアア
黒龍の咆哮が響き渡るが最初のような威嚇や示威行為の叫びではなく明らかにダメージを負った悲痛な響きで効果が有るのがすぐに分かる。
「よし!! 読み通りだ快利!!」
「ああ、さすが慧花!! 悪意の鎧の隙を突けるなんてな」
「ああ、前回は虚仮にされたからね、悪意の鎧は自分にとっての憎悪の対象であり最も脅威な敵にしか発動しない……つまり今回も快利にしか反応しない!!」
さっきは俺と同時に攻撃していたからモニカの攻撃は防がれた。ならばモニカが単独で、それも遠距離から魔術で操ったダイナマイトで攻撃したらどうなるかと試した結果が今の爆発だ。
「今なら行けるはずだ!! 聖なる一撃!!」
そして弱った今の状態なら俺の技も通るはず。聖剣が光り輝き溢れる光がビーム状になって黒龍に殺到する。悪意の鎧にぶつかり最初は消えそうになっていたが徐々に盛り返し最後は貫いて黒龍の体の一部を吹き飛ばした。
「よし、快利!! 続けて二射目を!!」
「分かってる、聖なるいっ!? なっ!?」
俺が再度チャージのために聖剣を構えた瞬間、奴の真紅の瞳と目が合った。そして奴の瞳の色が変化した。赤から深い青へと変化したのだ。
「快利!!」
「あ、ああ!? 聖なる一撃!!」
そして慧花に言われて慌てて二射目を放ったが今度は攻撃が通らなかった。正確には通ったのだが途中から何かに防がれて相殺された。
「嘘……あれって」
『弟殿!? い、今のってマリン姉さんの『母なる海の護り』ですよ~!!』
ヘリを護衛しているグラスが驚いて通信を入れて来た。もちろん俺も驚いていた。だって今の俺の攻撃を防いだ水の防壁は俺達の足元、ライブ会場周辺を覆っているはずだからだ。
「やっぱり使えるのか……」
『元勇者いいか!?』
次に俺の通信で声をかけて来たのはステルス状態で通信制御の補助と中継をしているフラッシュドラゴンだった。
「ああ、どうする!?」
『私たちで試したいことが有るから仕掛ける、ヘリの護衛の交代を!!』
そしてフラッシュは咆哮を上げるとバチバチとスパークを発生させながら突撃する。その後を追うように植物の蔦で翼を作り出したグラスも突撃する。俺達はそれと入れ替わるように後方のセリカのヘリの前に陣取って結界を張った。
『合わせろグラス!!』
『合点承知の助!!』
フラッシュが口の中で電流をバチバチさせて放電ブレスを放つと後ろから追いついたグラスが蔦をミサイル状にして発射した。
『なんだ? それは?』
『ご主人様が教えてくれた了解の意味!!』
『むぅ……私には教えて下さなかったな』
少し不満そうに言いながら今度は水の障壁に防がれたブレスから技を変え空中に数百の雷の矢を出現させると一斉に放射した。
『紛い物よ……魔力の流れを変える程の大出力の雷をくらえ!!竜雷の雨!!』
フラッシュは一つ一つが俺のものより威力が上の雷極魔法レベルのものを一斉に発射した。その後ろからグラスも口と尻尾にブレスを貯め込んでいて臨界状態だった。
『そして私も行きます!! くらえ、グラス・ダブル・ビィィィィム!!』
グラスも竜砲を放つが二連射だとダブルが付くのか……。ユリ姉さんのネーミングセンスが分からない。
『グラス、お前のブレスは新緑の芽吹きという名前が……』
『ご主人様がこっちの方が良いって言ってたからこれにするんだ~』
『何か……お前ばかり寵愛を受けていないか?』
そして二体の竜はそんな雑談をしながら攻撃の手を緩めずに魔力の限り攻撃を続けた。そして水の壁が崩されそうになった瞬間だった。黒龍が動き角の色がオレンジから緑色に変化し、目の色が黄色に変化する。
――――ギュアアアアアアアアア!!!!!!
その瞬間、今まで水の障壁で防ぎつつフレイムの炎で攻撃していたのが角からはグラスと同じ光が、口からは雷のブレスを放出していた。
『読み通りだ元勇者!! やはり……我らの能力と同じものを、っ!?』
『なんか向こうはトリプルビームなんですけどおおおお――――ブツッ』
そして突然、通信が途切れた。その数秒後に周囲に気配がして転移を警戒するがそこには小型化したグラスを口に咥えて片翼を無くしたフラッシュの姿だった。
「フラッシュ、お前……」
「問題無い、私達はしょせん精神体だ魔力さえ補充したら回復出来る」
「だけど、今回は君たちは戦力外だろ?」
慧花が言うと悔しそうに頷いたフラッシュは最低限の役目は果たしたと言う。そして報告は既にしたとも言った。
「今のデータは主に送った、口頭だから少し不安では有るが、あの方なら」
「フラッシュさん、グラスさんと一緒に即応式万能箱にお入り下さい。その中から地上からの電波の安定を私と一緒に!!」
「なるほど、では私達は先に中に入って休ませてもらう……元勇者、見た通りだ……奴は私達の特性に関する技しか使って来なかった、恐らく汎用性は私達が考えるほど高くない、しかし威力が恐らく我らの数倍だ」
確かに先ほどからブラッドドラゴンの血のブレスだけしか技は使わず、防御にも悪意の鎧のみで毒の攻撃は使わなかったのが変だった。さらに角や瞳の色が変化して攻撃パターンが変わっていたのも見逃していない。
「ああ、フラッシュも大丈夫なら那結果のサポート頼むぞ」
「問題無い……とは言い切れないか、くっ……」
微かに苦痛に顔を歪ませたフラッシュを見て横で目を回しているグラスの方が無理しないだけ安心だ。そう思うと自然に一言だけフラッシュに言っていた。
「無理だけはすんなよ、お前らが傷つくとユリ姉さんが悲しむからな」
「ああ、あの方なら本気で悲しんでくれるからな、分かった」
それだけ言うと二体は粒子になって那結果の開けた時空の穴に消えた。そして数秒したら地上と通信が繋がった。
『――――ザザッ、よし、繋がったか、無事か!?』
「何とか無事です仁人さん、解析は!?」
そこで解析結果と先ほどのフラッシュの所見を話すと仁人さんは既に那結果に解決法のデータを送信したと言う。さらに俺に伝言が有ると続けた。
『まず、君のお姉さん達からだ、こっちの事は気にせず戦えだそうだ、それと次に瑠理香くんの――――ザザッ』
「ちょっ!? 仁人さん!! それより戦術は!?」
『――――だ、そうだ、愛されているな……戦術パターンは問題ない、あとは君のスキルが――――頼む――――ブツッ』
そこで通信が途切れてしまった。俺は咄嗟に那結果を見るが首を横に振る。だからヘリの中にいるはずのセリカに呼びかける。
「セリカ!!」
『魔力の繋がりが大幅ダウン……ヘリの機材を魔術で守るのが精一杯です!! こうなったらセリーナ様を呼びますか!?』
「それは俺が戦闘不能になったら頼む、可能なだけデータを取った上でセリーナにバトンを渡したい、ま、負ける気は無いけどな!!」
セリカに言いながら俺は神刀を装備した。勇者絶技を使う前に奴の能力を全て暴き出したい。だから奥の手を一つ切るし、これで決着が付くなら安いものだ。俺はモニカと一緒に再び黒龍に光速で挑んだ。
◇
――――瑠理香視点
「マネージャー!! カイは!?」
「落ち着いてRUKA、ここは一応は楽屋よ?」
私は三人でのユニット曲が終わって次はMIMIつまり南美のソロ曲になったからステージ裏の楽屋に戻って来た。私がさっき歌っていた時に私の名前の通りの瑠璃色に光っていたから安心はしていたけどその光は先ほど消えた。
「そうよ落ち着きなさいリーダー」
「AYA……でも」
そしてもう一人のメンバーのAYAもマネージャーの母さんも私を注意した。当然だ、ここには一般スタッフも多くいる。もちろん今日のライブは特別厳重で信頼のおけるスタッフと千堂グループの人間しか居ないとは聞いていたけど彼らも計画の全容はは伏せられているから頭の上で世界の命運がかかっている戦いが起きてるとは夢にも思わないだろう。
「あなたはプロよRUKA、そして彼はそんなRUKAを望んでいる、違う?」
「そうねRUKAさん、AYAもこんな事言ってるけど何か有る度に狭霧とか信矢くんに電話で相談してたから心配してるのよ?」
「ちょっ、梨香さん!?」
AYAはプロ意識が私たち三人の中で一番高い。その理由を最近知った。梨香さんが今言った故郷の人や両親のためにアイドルとして成功し続けるために生きている。だけど私は成り行きでアイドルになった。
「でも、そんな私でも……」
好きな人のためになら歌える。思えば最初からファンを裏切り続けて来た。だって私はデビューの日に偶然見に来てたカイが居たのが何より嬉しくてアイドルを続けようと思ったから。そりゃAYAにもキツく当たられたわけだ。
「RUKA行けるの?」
「うん、だって私は最初から決めてたから……」
「あぁ、だからか……やっぱり似てる、だからアイドルになれたのねRUKAは」
AYAの水分補給と簡単なメイク直しが終わると次は私で隣に座った。MIMIの時間は二曲とトークで十分弱、まだ少しだけ余裕が有る。メイクは意外にも梨香さんがしてくれて驚いた。しかもプロ顔負けの腕前で母さんが戻って来て欲しいというのも頷ける。
「どういう意味、AYA?」
「悪い意味じゃないわよ、私は皆のためにプロになって高みを目指した、たぶん努力が付いて来て認められたと思うけどRUKA、あなたは純粋な魅力でファンを惹き付けたんだと思う」
「そりゃ私はハーフだけどさ……」
容姿の事で小さい時は差別じゃないけど色々言われた。イジメは受けてないけど傷付いた。でも迷っていた私に一番最初に声をかけてくれたは他ならぬカイで友達になって親友になってくれた。
「ええ、容姿も有る、それは絶対よ……でも彼への想いがあなたを綺麗に、より魅力的にしているって今やっとわかった、私はそういう人よく知ってるのにね」
「それって――――「じゃあ、ここまでで私は行くわ、ファンを裏切って今日のステージを使う以上、最後まで騙し切って彼へ届けて、あなたの歌を!!」
それだけ言うとAYAは衣装を変えて歩き出した。その歩き方は優美で何度も練習したアイドルとしての凛々しい佇まいで圧倒された。
「待っててカイ、私も届けるから……」
私は自然と天井を見ていた。このもっと向こう、空の上で戦っている人を想いながら新曲の歌詞を口ずさみ祈るように目をつぶった。
◇
「行けます快利兄さん!! 私がもう一度!!」
モニカの言葉に頷きながら少しだけ安定した戦術データをリアルタイム通信で受け取った俺達は光速で連続攻撃を仕掛けていた。通算三度目の攻撃で黒龍の表面はズタズタになっていた。
「モニカの波状攻撃は上手く行ったな」
慧花の言葉通りモニカに対して悪意の鎧が発動出来ない黒龍に攻撃を仕掛けた結果、敵はマリンの能力のまま俺達と戦っていた。そしてブラッドのブレスとフラッシュのブレスを使い分けて攻撃して来た。
『仁人さんの分析通りだなんて……敵は三つまでしか能力を同時使用出来ず、さらに防御系は常に一つしか発動が出来ない』
「セリカも何度か会っただろ? マジで天才だぜ……スキルの仕組みだけじゃなくて魔法は無理でも魔術は再定義できるとか言ってたからな」
つまり仁人さんはこっちの世界で疑似的に魔術は使えると分析したのだ。まだ先になるけど近い内に魔術や魔法は解明できると考えているらしい。
「じゃあ俺も続く!! モニカ引き付けとけよ!!」
俺は確認するように言うと一気に黒龍の真上に転移する。その瞬間、悪意の鎧の発動を感じた。だから好都合だ。
「っ!? 快利兄さん私は離脱します!!」
「よくやった!! 行くぞ、聖なる一撃!!」
まず聖剣で聖なる一撃を放つ。だが当然のように悪意の鎧で防いでいる。だから俺は左手で神刀を抜いた。
「悪意の鎧の対応策は二つ!! 一つは発動させないこと、もう一つは!!」
聖なる一撃の光が収まると俺は聖剣を鞘にしまい神刀を構え突撃する。そして悪意の鎧を斬りつけた。
――――ギュアアアアアアアアア!!!
神刀で斬りつけた部分に神刀に付加されている性質変化で結界の一部を中和する。そして悪意の鎧にヒビが入った。
「前は効かなかった……だけど、あの時に悪意の鎧に体当たりした時に神刀にポイズンドラゴンの性質は取り込んでいる、だから二度は神刀は弾き返せない!! 見たか安定の物理で殴るを!!」
俺が言うとガラスがバラバラに割れるような音が響いて悪意の鎧の魔力は霧散して消えた。だが俺は止まらない。そのまま一気に次の技の体勢に入っていた。
「魔王だろうが、神だろうが……竜であっても同じ事だ、行くぞ……黒龍、お前も俺が神殺ノ虚無突き……貫けええええええええ!!」
俺は神刀を突き立て黒龍の頭部から腹にかけて串刺しにした。その黄色の軌跡は黒き絶望の龍を脳天から貫いていた。そして激しい閃光が迸り周囲が一瞬見えなくなって俺は後退する。
「くっ、仕留めたぞ!!」
俺が神刀を鞘に納めると光が収まらない。おそらく奴の溜め込んでいた魔力を光源として発光しているのだろう。
「やったな快利」
「ふぅ、今回も私のサポートの賜物ですね」
後ろで慧花と那結果の声も聞こえて一安心した時だった。さらに後方にいるヘリの中のセリカの声が通信で入った。
『快利!! 計測不可能な魔力が増大してます!!』
その言葉を受けて俺たち三人は思わず正面の光の中心を見るとそこには頭と腹を裂かれた全長一キロの黒龍の死体から怪しい光が漏れ出していた。
「くっ!? 全員、結界を!!」
「危ない!! 那結果さん!!」
俺たちの少し離れた場所で待機していたモニカの声が響き俺の真横を光速で通り過ぎた。状況に気付いて俺と慧花が振り返ると謎の攻撃から那結果を庇って片腕を無くしメイド服ごとズタズタにされたモニカが那結果にもたれかかっていた。
「モニカ!!」
「快利!! 黒龍が!?」
「今はそんな話……ってなんだ、あれ……」
慧花の言葉を遮ろうとした瞬間、背後に三つの不気味な気配を感じて振り返ると黒龍の体から三体の龍が出現していた。その姿は壊れた黒龍の体に寄生して出現しているようで壊れた一体から新たに三体の龍が出現したように見えた。
「第二形態って有りかよ……こっちは切札ほとんど切ったんだぞ」
今回こそはヌルゲーじゃないぞ……これ……。
誤字報告などあれば是非とも報告をお願い致します。(感想ではなく誤字脱字報告でお願いします)
感想・ブクマ・評価などもお待ちしています。
この作品はカクヨムで先行して投稿しています。
下に他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。