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転移先がブラック過ぎたので帰ってきたらヌルゲーでした  作者: 他津哉
第八部『元勇者と願う未来への決意』
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第108話「彼女達を蝕み続けた悪意の正体」

ブクマ登録100件ありがとうございます。評価も感謝致します。


「先ほども言っただろう、今の俺は何もしていないと」


「抽象的な答えは不要!! 早く答えろ!!」


 神刀で斬りかかろうとしたが後ろから抱き着かれるようにして那結果に羽交い絞めにされて俺は我に返った。決して那結果の胸の感触で我に返った訳では無いと明言ししておこう……本当だよ。


「快利、落ち着て下さい、怒りに飲まれるのは早いのです!!」


「そうです快利兄さん、まずはお二人の症状の詳細を!?」


 そうだ、まずは冷静に二人は未だに虜囚であり人質だ。確実に安全性が担保されるまでは迂闊な事は出来ない。モニカの言う通りだ……最近は冷静になれない事が増えたのはどうしてだろうか。


「教えてやろう、それは俺が埋め込んだ時闇の楔の効果だ、これは凄いんだ英雄よ……宿主の()()()を養分に際限無く大きくなる代物でな」


「つまり寄生虫か、いや魔法なら呪詛系統の類か……魔法の副産物だったとは、だがいつだ!! いつユリ姉さんとルリに打ち込んだ!! こんな危険なものを、俺の結界や守りが突破されたなんて報告は……」


 俺は後ろにいた那結果を見るが即座に感知していないと返された。もしかしたら那結果がエラーの時やポイズンやブラッドが暴れた時に何かされたのだろうか。


「これは俺が産み出した上級の闇魔法『深淵からの浸食者(アビス・イーター)』だ、しかし欠点が有ってな効果を発動するのに一年もかかるんだ」


「一年だと、二人は少なくとも一年はこの状態で?」


「ああ、効果が発動するのには一年もかかるが、その代わりに一年経てば後は年を経れば経るほど強く効果を発揮する」


 そう話している間にも時闇の楔はイベドの鎌に吸収され怪しく光らせていた。まるで鎌から血が滴るように黒い魔力流れる光景は不気味だが、それより恐ろしいのは魔王の魔力が格段に強く大きく上昇していることだ。


「まさか……ルリ達から生命エネルギーを!?」


「違う違う、ぜ~んぜん違う、これは生命エネルギーなどでは無いから安心しろ女共は死にはしない、これは全て想いが結晶化しただけだ」


 魔王は新たに集まった黒い楔を巨大なボール状にして集めると自らの体内に取り込んだ。その光景に困惑した俺の顔が心底おかしかったのか奴は武器を下げるとニヤ付きながらカラクリを話してやろうと言って俺を見た。




「まず苦しんでいるのは当たり前だ女共は今、自分の心の闇と対面している、解決策は一つだけ起こしてやれば悪夢は覚め、そして現実に立ち返るだろうよ」


「本当だろうな!?」


 ゆっくり嗤いながら頷く奴の言うことに反応して俺は回復魔法をかけるが効かないと分かると二人を目覚めさせるために即応式万能箱どこでもボックスから勇者特製気付け薬を取り出し二人に嗅がせる。するとゲホゲホ咽ながら二人はやっと目を覚ました。


「ううっ、あれ? 私は、カイに……あれ?」


「快利……ここは?」


「二人とも大丈夫? 目覚めて良かった……」


 まずは二人が悪夢から覚めてくれたようで安心した。そして二人から出ていた黒いオーラも消え一安心したが既に数百の時闇の楔がイベドに吸収されていた。明らかに魔力が増大しているのが分かる。


「どうなって……そもそも時闇の楔とは……深淵からの浸食者とは何なのですか? 二人の命では無いならどこからこんな無尽蔵の力を?」


 那結果ですら計測し切れない魔力を恐れ、同時に二人から膨大な魔力がどのように変換され魔王に送り込まれたかメカニズムが分かっていない。俺も分かっていないし他の異世界組も理解出来ずに口を噤んでいる。


「では始まりから話してやろう心配しなくてもいい、そこの人間の娘二人は、ほぼ用済みだ、むしろセリーナよりも役に立った、実に上質で負の感情に溢れた魔力だ」


 奴がニタニタと意地の悪い笑みを浮かべ言うと、その顔は狩憮の時と同じで俺は卑屈でイジメられているからかと思って複雑だったが違った。それは当たり前で本来の笑い方がこれだっただけなのだろう。


「快利、もう倒すべきだ二人の呪いも解かれた以上は魔王の言葉を聞く必要は無い!! 今こそ好機だ!!」


「俺も最初はそう思ったよ慧花、だけど『心配しなくていい』と言ったのは目の前のルリ達に術をかけた張本人だ何を仕掛けてるか分かったもんじゃない」


 そうなのだ先ほどから目の前の魔王は雄弁かつ言葉巧みに俺達をあしらっている。油断すべきじゃないと言うと慧花もハッとした顔になった。完全に奴の言葉に飲まれていたようだ。


「酷いな、そこまで疑ってくれるなよ悲しいじゃないか、お兄ちゃん?」


 奴が言った瞬間、俺は神刀に炎の魔術を纏わせ奴に火の斬撃を飛ばす。しかし簡単にそれを弾き飛ばすとニタリと奴は笑った。今のは炎の上級魔法に匹敵する炎を叩きつけたのだが眉根一つ動かさずに防がれてしまった。


「どうやら魔力は相当補給したらしいな」


「ああ、昔は時間稼ぎになった炎も今や火の粉だなぁ、英雄よ」


 悔しいがその通りだ。奴はなぜか炎の魔法に弱く時空戦争時に俺は聖剣に火を纏わせ戦って戦闘を有利に運んでいた。


「それでいい最初に言ったよな? 軽々しく俺を兄と呼ぶなよ魔王」


「これはこれは相当お怒りか、しかし無理もないか……失ったと思っていた家族を悪の道から救い、更には母との絆すら復活したと思った矢先だからな、絶望したんだろう? そうなんだろ?」


「全て……貴様のシナリオ通りにか」


「違うよ英雄、これも神の仕業だ……俺達は神に踊らされているだけさ」


 気のせいか俺は目の前の魔王にある一つの疑惑を持ち始めていた。しかし俺がその疑問を口にする前に奴は喋り出していた。


「そう、神のシナリオだ……お前がここまで不幸な目に遭ったのも、俺がここまでお前を導いたのも全ては神を倒すため、神殺しのためのシナリオだったのだ!!」


「快利……もしかして新生魔王は……」


「まだ話を聞こうセリカ……モニカ、慧花もこっちに来てくれ」

『二人は万が一の時のために転移魔術の用意を、あとユリ姉さんとルリの確保頼む』


 俺が勇者コールで脳内に呼びかけると二人は目だけで分かったと合図してくる。今の会話は那結果とセリカも聞いていたから微かに頷くのが見えた。準備は万端で魔王が何を言うかと俺は思っていたが俺は、この先より深い絶望を知る事になる。そして決意を固める契機になると、この時は思っていなかった。




「冷静で何よりだ英雄よ、俺がお前をここまで導いた……長かった、この茶番もやっと終わる、神を殺せるんだ」


「じゃあ教えてくれよ、二人から取り出した時闇の楔とは一体何だ?」


 真っ黒な球体になった楔だが見た感じドロドロしてるし黒いオーラも不気味で良い物じゃないのだけは分かる。そして二人の想いの結晶とか言っていたが黒くて禍々しくおぞましい物が二人のものとは到底思えない。


「答えよう、あれの正体はお前への想いだよ……英雄カイリ、一つ愛を説こう英雄よ愛の反対とは何だ? ああ、人間の一部が主張する頭の悪い『無関心』だ等と言ってくれるなよ英雄?」


「ならば愛憎という言葉があるくらいだ、憎しみと言った所か?」


「まあ及第点だ、嫉妬や憎しみ言い方は色々有るが極限は負の感情だ……そして答えはそれだ英雄よ」


 意味が分からない。二人から闇の魔力が吐き出されたのは分かったしコイツの仕業なのも理解したが苦しんでるのはそれだけなのか、理解の外にあるとしか思えない。


「まだ分からないのか……この魔力の源流は貴様への懺悔と自らへの悔恨……そして俺の深淵の浸食者は想いが強ければ強いほど、より大きな闇の魔力を生み出し宿主から奪い取る、そして俺へ供給する、いやいや仕込みに苦労したが今や俺の魔力はお前を凌駕している、そうだろ?」


「確かにな……つまり二人の俺への過去の償いがここまで大きかったのか」


「まあ、細工はしたがな……いやいや因果律操作魔法の使い手らしく因果に干渉したと言った方が良いかもしれないな、そうでしょ、る~りか?」


 言った瞬間、ルリの顔が青ざめた。目の前の魔王の声がいきなり高くなり姿が変化し俺の高校の制服を着た女子高生になったからだ。また変化系の魔法の一種だ。幻覚系にしてはリアル過ぎる。


「えっ、嘘……な、なんで陽菜が……」


「お前、快利をイジメていたグループで行方不明になった石礼野いしれや陽菜じゃないか!?」


 二人を介抱しているエリ姉さんが叫んだことで俺も思い出した。ルリと金田それ以外にも俺をイジメていた人間はクラスで三人いた。


「そうだ、クラスにルリといつも一緒に居た、でも確かルリの話じゃ死んだはず」


 ルリと金田以外の三人の内の男子二人は魔王の四天王に傀儡にされ最後は俺が消滅させた。そしてルリを高校に呼び出すために使われた目の前の石礼野陽菜も役目を終えて消されたはず……だった。


「私が陽菜に呼び出されて、それで学校に行って、その時に目の前で……」


「迫真の演技だったでしょ? あんな下級の魔族に魔王がやられるフリしてあげたんだから……でも、おかげで良い物が見れたのよね」


 良い物が見れたとは何だと俺が思わず呟いた瞬間、奴は待ってましたとばかりに早口になり俺ではなくルリを見ると狂ったような笑みを浮かべて話し出す。


「どうだった瑠理香? 助けてもらった時嬉しかった? 抱き締められた腕の中で興奮しちゃった? 大好きな王子様が助けてくれてどう思ったの、ねえ!?」


「いや、止めてよ……陽菜」


 魔王から女子高生の姿になっても悍ましくニヤついた笑みは変わらず目の前のルリに嫌らしい言葉を突き付けた。その瞬間、ルリの体がまた黒く輝き出し時闇の楔が数個生み出された。


「新しいのが出来たと……ありがとう瑠理香、だから私の言った通りだったしょ? 秋山快利をイジメてればいつか良い事が有るよって、ね?」


「ひっ、ち、違う……私は――――「バカな女よね少し考えれば自分をイジメる女を好きになる男なんて居ないのにさぁ~!! 振り向いてもらえないなら軽くイジメれば元通りなんて魔王の言うこと聞いちゃうんだから~!! アハハハハハハ!!」


 ルリからボウリングの玉サイズの楔が出現しルリの目から涙が、口からは謝罪の言葉が出て顔色は真っ青になっていた。そしてそれを見た瞬間、俺は何も考えずに動いていた。


「きっさぁまぁ!! 死ねえええええええええええええ!!」


「おやおや、英雄殿、どうした八つ当たりかな?」


「死ね!! 死ね!! 死ねえええええええええええ!!」


 剣技なんてなく俺は神刀を全力で振り回す。剣圧で家が吹き飛ぶが構わない。そして家や周りが吹き飛ぶと既に結界内は異空間と化していた。いつの間にかイベドが俺の結界を作り替え時空の狭間のような場所を生み出していたのだ。


「アハハハハハハ!! これが見たかったんだよ英雄ぅ~!!」


「うるさい!! お前が、お前がっ!! ルリをおおおおおおおおおお!!」


 だが俺はそんな些事は無視して斬りかかる。微かに触れたようだが神刀の能力で万象の法則を変化させる能力が効いていない。バチっと魔力が干渉した音がして敵の魔力の壁に阻まれた。いったん距離を取って奴を睨むと俺達をあざ笑っていた。


「怒るな、俺はそこの女に少し囁いただけさ『秋山は少しイジメれば昔のように話すはず、後は謝って仲直りすればいいよ』って、ま、仲直りの前にお前が転移されるんだけどな!! アハハハハハハ!!」


「殺してやる!! 腐れ外道があああああああ!!」


「いいね、その顔だよ使命感に燃えた英雄ではなく怒りと怨嗟を混ぜた良い顔だ」


 ルリの体から次々と時闇の楔が生み出されて行くのを見ながら仕組みは理解した。こいつは過去改変してルリを唆した上で楔を埋め込み自分用の魔力供給タンクに作り替えたのだろう。後ろで泣きながら自分の罪を懺悔するルリの声を聞きながら俺の怒りは早くも頂点に達しそうだ。




「さて、次は別な姿かな……と言っても、このキャラは地味過ぎて知っている人間が少ないだろうな」


 言うと今度は女子高生からまた見覚えの有る制服の女子に変化していた。それには見覚えが有った。


「私たちの中学の、せい、ふく?」


「ルリ、だいじょ――――「い、いや、カイ、私は……もう」


 震えるルリを見ると本当に七年前の自分が情けなく思える。こんな不安にさせて最後は暴走させてしまった。中学の頃からコミュ障で悩んで家のためにアイドルになって最後は重責に押し潰された女の子の変化に俺は弱くて気付けなかった。ならば、ここでキチンと清算する必要が有る。


「大丈夫って言っても無理か……ルリこっち向いて」


「な、何、カイ、ごめっ――――んんっ!?」


 そろそろ答え出さなきゃな……俺はルリの顎を少しだけ指先で触れるように持ち上げて、こちらに向けさせると自然と唇を重ねていた。


「ふぅ、少し落ち着いた? また謝りそうな悪い口を塞ぐにはこれが一番だろ?」


「ふぇ、カイ……わたっ、キス……えっ!? えええええええええ!!」


 やはり俺の読み通り前にユリ姉さんとキスをした時と同じで時闇の楔が溢れた後に正気に戻っていた。キスの後は二日酔いが治った時の爽快感と話していたから今のルリはきっとスッキリしているはずだ。


「うん、顔色も良くなってる……良かった」


「わたっ、あの、えっ!? 初めて……」


 顔も真っ赤になって先ほどまでの真っ青な顔に比べたら健康的だ。俺はそれだけだと考えながら自分の顔も熱くなっているのは自覚していた。だけど今のは人命救助だからセーフだと言い聞かせる。恥ずかしいのは男の子だって一緒なんだ。


「ふん下らぬ解決策を……ならばもう一つから供給すれば良い、この恰好になったのだからな……そうでしょ、秋山さん?」


「あなた見覚えが……確か瑠実香と一緒に家に来た」


「そう、お友達だよ、あのバカな女、今はそこの王子の器になって消滅した狂った女の友達……名前は分かる?」


 俺がルリを抱き起していると今度はユリ姉さんに狙いを付けたようだ。俺は疑問符しか思い浮かばなかったがユリ姉さんとエリ姉さんの二人は思い出したみたいにハッとした顔をしている。


「えっと、名前は確か変わってて……嘘、でしょ」


「ああ、ユリ姉ぇ、私も何で今気付いたんだ……名前は石礼野いしれや陽菜、こんな名前が同姓同名なはず無い!!」


「せいか~い、実は英雄、君が小学生の時にこの家にも来た事が有ったんだよ?」


 ウインクとかキモイんだよ魔王と思わずげんなりする。那結果も勇者コールで思わず「オエッ」とか言ってるし精神的ダメージ与える天才だなこの魔王。


「じゃあ、まさかあんたも……」


「そう美村瑠実香、あのバカ女が英雄を狙っていたから英雄を絶望に追い込むのに利用した……だって初恋の女に拒絶されたら絶望するでしょ!?」


「つまり慧花の体の本来の持ち主を利用しユリ姉さんに俺が悪い噂を流したと誘導したのか?」


 まさかのユリ姉さんを騙した黒幕もこいつだったのかよ。それで前にキスした時に一部とはいえ時闇の楔が出て来たのか。そしてマリン達ドラゴンは気を失ったと言っていた。この時点で出て来ないのもユリ姉さんと繋がっているから楔に侵されていると見るべきだろう。


「実際は馬鹿女に囁いただけだがな……しかし、それを妨害したのが、そこの魔力反射特性を持つ人間だ!!」


「え? 私……なのか?」


「エリ姉さんがっ!?」


 そもそも特性って魔族しか持って無いんじゃないのか。人間で持ってる奴なんて初めて聞いたんだけど……エリ姉さんって天然チートだったんだ。

誤字報告などあれば是非とも報告をお願い致します。(感想ではなく誤字脱字報告でお願いします)


感想・ブクマ・評価などもお待ちしています。


この作品はカクヨムで先行して投稿しています。


下に他作品へのリンクが有りますのでよろしくお願いします。

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