小学生に見える姉と成人男性に見える弟は見た目で判断されることが嫌だった
私が彼と初めて会った時の印象は大人だなぁでした。
私のお母さんが再婚を決め、再婚相手の子供と私の顔合わせをすることになりました。
そこに来たのは子供ではなくて、成人男性でした。
どこか色気があり、大人の余裕もある彼はイケメンです。
子供が来ると思っていた私は本当に驚きました。
しかし、お母さんの言葉でもっと驚きました。
それはお母さんが彼は中学生だと言ったからです。
どこをどう見ても大人です。
私は驚きのあまり、口をパクパクしてしまいました。
それを見た彼は笑いました。
目を細めふんわり笑う彼はやっぱり大人の雰囲気があるイケメンです。
私は彼に恋をしてしまいました。
それからすぐに私達は姉と弟になりました。
せっかく姉と弟になったのに彼は私に敬語で話してきます。
なので私は彼に言いました。
「家族になったんだから敬語は必要ないでしょう?」
すると彼は笑って言いました。
「そうですね」
「「あっ」」
彼の敬語がなくなっていないことに私達は一緒に気が付き同じタイミングで言葉が出ました。
本当の家族になった気がしました。
ある日、彼と一緒にコンビニへ行きました。
彼は中学生なのに私より背が高く、声も低く体つきも男の人でした。
なのですれ違う女の子達から
「今の人、格好いい。でも隣の人、誰かな?」
「小学生の妹じゃない?」
こんなふうに言われていました。
私は気にしないようにしています。
小学生に見られるのはいつものことなのです。
今でも小学生料金のところがあれば入れるでしょう。
そんなことはしませんが。
私はプラス思考に考えて、若く見られていると思うようにしています。
彼との生活が当たり前になってきていたある日、事件は起きました。
それは私と彼が二人でショッピングモールへ買い物に来た日でした。
私達はいつものように二人、隣に並び歩いていると前から女の子達が来ました。
また、コソコソと話し声が聞こえます。
「ねえ、あの人すごくタイプなんだけど。」
「格好いいね」
「でも隣の人って誰?」
「小学生にしか見えないよね?」
「恋人とかだったらあの人、ロリコンじゃん」
初めて彼への陰口を聞きました。
彼にも聞こえていると思います。
彼の顔を見る為に私は見上げました。
彼はニッコリと私に笑いかけましたが目が笑っていません。
その後、彼は私の手を引いて彼女達の前で止まります。
「僕は中学生です。そして彼女は高校生です。何も証明はできないのですが人を見た目で判断するのはやめてください。傷付く人もいるんですよ」
彼の言葉に女の子達はポカンとしています。
「あっ、ごめんなさい」
私は彼女達にそう言って彼の手を引いてその場から離れました。
彼の顔はまだ怒っているのか眉間にシワがあります。
「そんなに怒らなくてもいいじゃない?」
「なんであなたは怒らないの?」
「いつものことだから気にしてないだけだよ」
「そんなふうには見えないけど」
「えっ」
「あなたはいつも陰口を言われているときうつむいてるよ。どんなに僕と楽しく話していてもいきなりうつむくんだよ」
「気のせいだよ」
「怒ってもいいよ。泣いてもいいよ。僕の前では我慢しないでよ」
彼は悲しそうな顔をして私を見つめました。
「君は私の弟だよ? 弟の前で泣いたり、弱いところは見せられないよ」
私は彼にそう言いました。
本当は泣きたかったし、怒りたかったです。
でも彼は私の弟で、私よりも年下です。
そんな彼を困らせる訳にはいきません。
私は姉で年上なのだから。
彼は傷付いたように小さく笑って「そっか」と言いました。
私は彼を傷付けました。
なんてひどい姉なのでしょう。
彼の優しさを私はいらないと拒否したのですから。
あれから何日か経ったある日。
私達は映画を見る為に映画館に来ました。
入口で券を買うために私は言います。
「高校生と中学生、一枚ずつお願いします」
「高校生? 大人でしょう?」
「えっ」
「後ろの男性は大人でしょう?」
この人は私を中学生で彼を大人と思っています。
この誤解は解かないといけません。
「彼は大人に見えますがまだ中学生です。学生証もあります」
「どう見ても大人だよ」
全然信じてもらえません。
「もう、いいから。大人料金で入るよ」
彼は諦めたように言います。
そんなの絶対ダメです。
私は許せません。
中学生は中学生料金で入れるのに彼は入れないのには納得できません。
「もういいです」
私はそう言って彼の手を引いて映画館を出ました。
「僕はよかったのに」
「私が嫌なの。見た目で判断するだけで話を聞こうとしないあの人の映画館で楽しく映画なんて見れないよ」
「あなたはこの前と違うことを言ってるよ」
「えっ」
「僕は怒っていいし、泣いてもいいって言ったのにあなたは僕には見せられないって言ったでしょう? それなのに今のあなたは怒って、悔しくて泣きそうだよ」
彼の言葉に私は驚きました。
そうです。
私はこの前と全く違う行動をしているのです。
私と彼の行動が正反対です。
なぜこんなことが起きたのでしょう。
彼のせいではありません。
私のせいです。
私は彼の姉。
私は彼より年上。
彼は私の家族。
彼は私の恋人ではない。
そうです。
彼は私の恋人ではないのです。
恋人の前で泣いたり、怒ったり、弱いところを見せることができるのは彼女だと思っていたのです。
だから私は彼の恋人でも、彼女でもありません。
甘えることができる訳もないと思っていたのです。
でも今、私は怒っています。
何故なのでしょう。
それを教えてくれたのは彼です。
彼の存在が私の考えが間違っていることを教えてくれたのです。
彼が大切だからこそ私は怒って、悔しくて泣きそうなのです。
姉だから、年上だから、恋人じゃないからなんて関係ないのです。
すると私の目から我慢していた涙が出てきました。
なぜ出てきたのかは分かっています。
私は彼の恋人になることはないのです。
私は姉なのだから。
それが悲しいのです。
そんな私を彼は抱き締めてくれました。
何も言わず、私が泣き止むまでずっと抱き締めてくれました。
「ごめんね」
私は泣き止んだ後、言いました。
「何で泣いたの? 何が悲しかったの?」
「ん? 何でだろうね」
「どうして誤魔化すの?」
「え?」
「僕が弟だから?」
「違うよ」
「僕が年下だから?」
「違うよ」
「僕が嫌いだから?」
「絶対違うよ」
「それはどういう意味?」
「嫌いじゃないよ」
「それは好きってこと?」
「うん」
「それは僕と同じ気持ちかな?」
「君の気持ちは分からないから答えられないよ」
「僕はあなたが大好きだよ」
そう彼は言って最初の日に見た笑顔と同じように目を細めてふんわり笑った。
彼の気持ちが私と同じなのは彼の目を見れば分かりました。
私は彼のようにふんわりとは笑えないけれど、あなたが大好きだよと言うように笑顔を見せて言った。
「私も君が大好きだよ」
読んで頂きありがとうございます。
読んだ方の心に残るような作品だったらいいなと思っています。