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9. あなたが運命の人でしたの



 「話したいことがありますの」

 「ソフィア嬢……わかった」


 クリストファー様が私を見てくれた。

 ああ、緊張しますの。


 「クリストファー様は昔、私の理想の殿方を目指すと言ってくれましたわよね」

 「ああ……そうだったね」

 「私、理想の殿方はもう……」

 「っ、いいんだ。わかってるから、気にしないで。もうそれは、忘れてくれていいから」


 えっ……忘れてほしいと言うのですか? 私の気持ちもわかっていて、無かったことにしたいということですの?

 

 ……嫌ですわよ。私の理想を目指して頑張っていたクリストファー様も、今まで一緒に過ごした思い出も、無かったことになんてしたくありませんの。


 「クリストファー様、私……」

 「……ごめん、やっぱりこれ以上聞きたくない」


 そんな……私の気持ちを聞くのも嫌なのですか。

 クリストファー様はとても辛そうな顔をしている。そんなに、私の気持ちが迷惑ですの……?


 思わず、涙がこぼれそうになる。


 「クリストファー様……私、あなたに伝えたいのです。どうか、聞いてもらえませんか……」

 「ソフィア嬢、泣かないで……ごめん、僕は君を困らせてばかりだね。話してくれ」

 

 クリストファー様が困ったように笑う。困らせているのは私の方ですわ。

 でも、どうか私の気持ちを伝えるわがままを許してください。


 「私……クリストファー様が好きです」


 言ってしまいましたの……でも、クリストファー様は眉一つ動かさずに固まっている。

 いたたまれずにうつむきがちになり、言い訳じみた言葉が口から出てくる。


 「わかっていますの、クリストファー様なんて絶対に理想の殿方にならないなんて言っておきながら、好きになってしまうなんて都合がよすぎますわよね。でも、いつの間にかクリストファー様は理想の殿方に……いえ、理想の殿方なんてもう関係ありませんの。だから、チャンスをいただけませんか? 私、クリストファー様に好きになってもらえるよう頑張ります。クリストファー様の理想の女性を教えてくれま……」



 次の瞬間、私はクリストファー様の腕の中にいた。

 えっ?????


 「ソフィー!」

 「く、クリス……様?」


 さらにきつく抱きしめられる。

 何これ、どういう状況ですの??? 

 頭の中がパニックに陥って、なんだか、クリストファー様の匂いがしますの。もう、心臓の音がうるさいですわ……いえ、これってクリストファー様の心臓の音ではありませんの? 

 ちょっとだけ、落ち着きましたわ。おそるおそる、クリストファー様の背中に手を回してみると、その鼓動がさらに早くなった。


 「理想の女性なんていらないよ……ずっとソフィーだけが欲しかったんだ」

 「あの……クリス……様。ええっと……」

 「あっ、ごめんね、つい……」


 クリス様がぱっと手を離した。少し残念ですわ。

 クリス様は耳まで赤くなっている。きっと今、私も似たような顔をしていますわね。


 「僕も、ソフィーが好きだ。ずっと前から好きだよ」


 クリス様が私を見つめて言う。


 「どうして……」

 「最初は、絶対に理想の男になれないって言われたのが悔しかっただけだった。でも、僕のことを本気で心配してくれたり、優しいソフィーを知るたびに、本当に僕のことを好きになってほしいと思うようになったんだ」

 「でも私、そんなにいい人じゃありませんわ……」

 「ソフィーは優しいよ。いつもクラスの手伝いを率先してやっているじゃないか。それに、この花壇はソフィーが手入れしているんだろう? 眺めていると、すごく落ち着くんだ」


 クリス様が優しく笑ってくれる。だけど……


 「違いますのよ……それは、理想の殿方に好きになってもらうためにしていただけのことですわ……私が優しいわけではありませんの」

 

 私はただ、あるプリの主人公アリスを真似していただけですのよ……


 「そうかな? それをしたのはソフィーだろう? やっぱりソフィーは優しいと思うよ」


 そう言って優しい瞳を向けてくれるから……


 「……優しいのはクリス様の方ですわ」

 「いや、僕こそソフィーに好きになってもらえるようにって下心ありまくりで……あー、もうそれでもいいや」

 

 クリス様がまた赤くなった、かと思うと、急に真顔になる。


 「でも、ソフィーはローレンスが好きじゃなかったの?」

 「ええっ、ローレンス様を!?」

 「だって、ローレンスはまさにソフィーの理想の男だし、性格も良いし。ソフィーもすぐに仲良くなったし、愛称で呼んでたしさ」

 「確かにローレンス様は私の初恋の方にそっくりで、重ねてしまっていたのですが……でも今は、ローレンス様は友達ですのよ」

 「そうなんだ……でも、昨日ソフィーが倒れたとき、『ローリー様』ってうわ言を言ってたんだ」


 クリス様の瞳が不安そうに揺らいだ。

 それはもしかして……


 「あの、『ローリー様』というのは私の初恋の方なのです……私、昔から、そのローリー様にお姫様だっこ……横抱きしてもらうのが憧れで。きっとその夢を見ていたんですの」


 フローラ様以外にこんなことを言ったのは初めてで、恥ずかしいですの。


 「へえ……初恋の人か」


 クリス様が少し不機嫌そうになってしまった。


 「ええと、ローリー様というのはそのう……恋愛小説の登場人物ですのよ?」

 「でも、好きだったんだろう? 妬けるなあ。思ったより僕は嫉妬深いみたいだよ。横抱きなんで僕がいくらでもしてあげるのに」

 「それは特別感が減ってしまいますわ! それに……重くありませんでしたか?」

 「全然重くないよ。むしろ……」


 クリス様は突然赤くなって黙りこんでしまった。

 なんでしょう? ともあれ、太らないように気をつけなくては。


 「私はクリス様が一番ですわ。大好きです」

  

 いろいろと吹っ切れて、素直に想いを伝えると、クリス様にまた抱きしめられた。

 私、こうしているのが好きです。幸せですわ。

 きっと、私の運命の人はあなたでしたの。


 

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