8. 『悪趣味』友達ができましたの
ローレンス様の前世は、美醜が正反対の世界だったのだと言う。
つまり、悪趣味なのは私ではなく、この世界の方でしたのね。おーほっほっほ。
いえ、好みを否定したいわけではありませんの。ただ、今までずっと悪趣味と言われ続けていたので、ちょっと言い返してみたかったのですわ。
「それは、まるで私のような美的感覚の世界、ということですわね」
「そうなんだよ! だからソフィアさんも転生者かと思ったんだ」
「なるほど。でも私は生まれたときからずっとこうですのよ。悪趣味とよく言われますの」
「あはは。俺も前世を思い出してからは大変だったなあ。だって、前世の感覚で言ったら俺、すごいイケメンなんだよ。絶対モテると思ってたのに、全然なんだよなー」
「私も、ローレンス様はとてもかっこいいと思いますわよ。大体、見る目がない人が多すぎるのですわ。私の友達のフローラ様なんて、とてもかわいいのに……」
「フローラ様ってこの前の?」
そういえば、フローラ様を見たときのローレンス様は……
「ええ。もしかして……この前、フローラ様に見惚れていましたか?」
「っあー、すごい美少女だなと思ったよ」
ローレンス様、ちょっと赤くなっていますわ。
「すっごくわかりますわ! フローラ様、かわいすぎますわよね?」
共感してもらえることがこんなに嬉しいだなんて。初めて趣味が合う友達ができましたわ!
「しかも、かわいいだけではないのですわ。フローラ様は優しくて、一緒にいてとても楽しいんですの。ローレンス様、よかったら紹介しますわ」
フローラ様の美しさと魅力をわかってくれる方が現れてほしいと、ずっと思っていましたの。ローレンス様、頑張ってくださいな。
「えっ、ありがとう? いやでも、ソフィアさんこそ」
「はい?」
「あー、クリストファーとちゃんと話したほうがいいよ」
「そう、ですわね」
今までクリストファー様を避けてしまっていましたもの。これからは頑張るつもりですわ。
それにしても、フローラ様やローレンス様はエスパーなのかしら。まるで私よりも私の気持ちをわかっているみたいですわ。
「そういえば、ローレンス様はクリストファー様と仲が良かったのですね」
「同じクラスで、学校に通い始めてからいろいろ親切にしてくれたんだ。優しいよね」
「そうですわね、クリストファー様は優しいですの」
そんなところが私は……
「っそれでは! 私はそろそろ帰ろうと思いますわ。ローレンス様、ありがとうございました」
「礼ならクリストファーに言ってよ。俺の方こそ、話を聞いてくれてありがとう。下手したら頭おかしいやつと思われるかもしれないと考えてたから、ソフィアさんが信じてくれて本当に嬉しかったんだ」
「ふふ、私も趣味の合う友達が初めてできて、とても嬉しいですわ。ぜひ語り合いましょうね」
「ああ。帰るんだったら、送っていくよ」
ローレンス様は私の迎えがきているところまで送ってくれた。好みのタイプについて話して、つい盛り上がってしまいましたの。同じ価値観を共有できるのって、こんなに興奮することだったのですね。
一晩寝たら、体調はすっかり回復しましたの。学校に着くと、フローラ様が駆け寄ってきた。
「ソフィー様、大丈夫ですか? 昨日倒れたと聞いて、本当に心配で……やっぱり付き添っていればよかったです」
「フローラ様、もう大丈夫ですから気にしないでくださいな。心配してくれてありがとうございます」
「無理しないでくださいね。クリストファー様もすごく心配していたんですよ」
「まあ、クリストファー様が……」
嬉しい、と思ってしまうのはいけないことかしら。
まだ助けてもらったお礼も言えていませんのに。
「ソフィー様、クリストファー様へのアタック頑張ってくださいね!」
フローラ様がいい笑顔で言う。
「うう、それがどうすればいいのかわかりませんの」
考えすぎて熱を出してしまったくらいですのよ……
「いっそ告白したらどうですか?」
「ええっ!? そ、そんな……引かれてしまわないでしょうか」
「そんなことありませんよ! むしろ意識させるチャンスです!」
そうなのかしら……いやでも心の準備というものがですね……
そうこうしているうちに、昼休みになった。何にせよ、クリストファー様に昨日のお礼を言わなくては。
ちょうど廊下でクリストファー様を見つけた。
「クリストファー様!」
「あ、ソフィア嬢……」
頑張るのですわ、私。ちゃんと目を合わせて。
「クリストファー様、昨日は本当にありがとうございました」
「いや……ごめんね。元気そうでよかった。じゃあ、用事があるから行くよ」
えっ……急いでいたのでしょうか……それとも、避けられた?
胸がずきんと痛む。
やっぱり私の体重が重かったのかしら……迷惑をかけてしまったから? 嫌われてしまったの?
苦しい……もしかして、私がクリストファー様を避けていたとき、クリストファー様もこんな気持ちだったのかしら。
どんどん悪い方に考えてしまう。でも、まだクリストファー様の気持ちがわかったわけではありませんのよ。ちゃんと、話したいですわ。
放課後、教室に行ったがクリストファー様は既にいなかった。
まだ学校にいるかもしれないと思って、図書室にも行ってみたけれどいませんでしたの。
万事休すですわ。はあ……こんなときは、花壇に行こうかしら。庭師のピーターさんが、ガーベラが咲いたと言っていましたの。少しは気が晴れるかもしれませんわ。
花壇へ行くと、金髪の後ろ姿が見えた。
「クリストファー様……?」
クリストファー様がぱっと振り向く。
「ソフィア嬢! 偶然だね、じゃあ僕は行くよ」
そう言って、行ってしまおうとする。やっぱり避けられていますわ……でも、ちゃんと話すって決めたんですの。
「待ってください!」
クリストファー様が立ち止まった。
私はその水色の瞳を見つめる。
「話したいことがありますの」




