7. 衝撃の事実?ですの
結局、昨日は眠れませんでしたの。
どうやったらクリストファー様に好きになってもらえるか、なんて……自分の気持ちもよくわかりませんのに。考えすぎて、なんだか頭がうまく回りません。
「ソフィー様、大丈夫ですか?」
フローラ様が心配してくれている。おでこにフローラ様のひんやりした手が当てられた。
「熱っ! ソフィー様、熱があるじゃないですか」
そうでしたの? なんだかぼーっとしますの。
「うーんと……ちょっと、保健室に行ってきますわ」
「私も付き添います」
「大丈夫ですわよ。先生に伝えておいてくださいな」
心配そうなフローラ様にひらひらと手を振って、保健室へ向かう。
……保健室ってこんなに遠かったかしら……歩くのが辛くなってきましたわ。思わずしゃがみこんでしまう。
ああ、行かないといけませんわ。足に力を入れて立ち上がると、くらっとした。
__誰かが私の名前を呼んでいる。もう、うるさいですわ。寝かせてくださいませ……
ふわりと体が持ち上げられた。
なんだかふわふわして、夢を見ているみたい。ああ、これは夢ですのね。まるで、お姫様だっこされているみたいですわ。あるプリを読んでから、ローリー様にお姫様だっこしてもらうのを何度も妄想していましたの。ふふ、ローリー様__
目を開けると、見慣れない天井があった。
ここはどこかしら?
「目が覚めた?」
「ローレンス様」
どうやらここは、保健室のようですわ。
「私、どうしてここに?」
「ソフィアさんは保健室に行く途中で倒れていたみたいだよ」
ええっ! そういえば、保健室に向かう途中からの記憶がありませんわ。何でしょう、とても素敵な夢を見ていましたの。
「今は放課後だよ。先生が少し外出してるんだけど……体調はどう?」
そういえば、だるさがなくなった気がしますの。
「だいぶ、楽になりましたわ。ところで、ローレンス様はなぜここに?」
「クリストファーに頼まれたんだ」
「へっ、クリストファー様に!?」
「うん、クリストファーがソフィアさんを保健室まで運んできたらしいよ」
「ええっ!?」
い、一体どういうことですの!? 運ぶって、私、重くなかったかしら!? 恥ずかしくて、また熱が出そうですの。
「そろそろ仲直りしたらいいのに」
ローレンス様が笑って言った。仲直り?
「どういうことですか?」
「ソフィアさんとクリストファー、痴話喧嘩中なんだろ?」
「は、はいいい!?」
な、何を言っているのですかローレンス様!?
「あれ、違うの?」
「違いますっ! そもそも付き合ってませんから!」
「えーでも……ふーん」
なんですかその生暖かい目は!
「まあ、それは置いといてさ……ちょっと話をしてもいい?」
ローレンス様が真剣な表情になった。これはもしかして、この前聞きそびれた話かしら。
「もちろんですわ」
「……ソフィアさんって、俺に似てる人が初恋で、クリストファーのことが好きなんだよね。俺が言うのもなんだけど、この世界では不細工って言われる部類だ」
「……不細工ではありませんわ。私にとってはとてもかっこいいんですの」
そして、さらっと私がクリストファー様を好きって……フローラ様といい、なぜわかってしまうんですの。
「それで、聞きたいんだけど……」
「はい、なんでしょうか?」
「……ソフィアさんには、前世の記憶があるの?」
前世の記憶?? ええっと、怪しい宗教勧誘ですか?
……ローレンス様の琥珀色の瞳が揺れている。
沈黙のまま、数十秒がたったでしょうか。
「ごめん、忘れて」
ローレンス様が苦笑いして言った。
「待ってください……ええと、私にはソフィア・クラークとしての記憶しかありませんわ」
「……そっか」
「ローレンス様には前世の記憶がありますの?」
ローレンス様が目を見張る。この流れでいったら、そうなりますわよね? あんな真剣な顔で冗談を言ったようには見えませんでしたもの。
「そうだと言ったら、信じる?」
「ローレンス様がそう言うなら、信じてみようと思いますわ」
そう言うとローレンス様は少し微笑んだ。
まあ正直、半信半疑ですが。でも絶対にないとは言い切れないですもの、ね? 本当じゃなくても、おもしろそうな話ではありませんか。
「ぜひ、その話を聞かせてくださいな」
「……俺、この学校に入学するはずだったすぐ前に、流行病にかかって、そのときに前世の記憶を思い出したんだ」
「それは大変でしたわね」
「うん、そのときは、いきなり前世の記憶が頭に流れこんできてパンクしそうでさ。結構重症化して、なかなか学校に来られなかったんだ」
「そうでしたの……」
「しかも、前世と今世の世界には全く違うところがあるんだよ」
「まあ、何ですの?」
「……前世の世界では、美醜の基準が正反対だったんだ」
「と、言いますと?」
「この世界で不細工と言われるような人が、美しいって言われていたんだ」
ふーん、なるほど……ってつまり、それは私の美的感覚と同じではありませんの!?
私、生まれる世界を間違えたのかしら?