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6. 気持ちはままなりませんの



 「フローラ様。どうなさいましたの?」

 「えっと……先生が呼んでいました!」

 「あら、教えてくれてありがとうございます。ローレンス様、すみませんが……」


 ローレンス様を見ると、なんだかぽかんとした表情をしている。


 「ローレンス様?」

 「あ、ああ、ごめん。ソフィアさん、今日はありがとう」

 「どういたしまして。では、ごきげんよう」

 

 教室を出て、フローラ様と一緒に職員室に向かう。そういえば、ローレンス様の話はなんだったのかしら。

 考えていると、道半ばでフローラ様が突然立ち止まった。


 「ソフィー様、すみません!」

 「え?」

 「先生が呼んでいたというのは嘘なんです」

 「嘘? ではフローラ様、どうかしましたの?」

  

 フローラ様は真剣な顔で私を見つめた。


 「余計なお世話かもしれませんが……私、最近のソフィー様が心配なんです。確かにあのローレンス様という方は、ソフィー様の好みど真ん中なのはわかります」


 あら? フローラ様は一体なんの話をしているのかしら?


 「でも、ソフィー様は! クリストファー様が好きじゃないんですか……」


 ……あら、ら?


 「ええっと、フローラ様? 何やらいろいろと誤解なさっているようですわ」

 「誤解?」

 「まず、ローレンス様は友人ですわよ。好みど真ん中というのは間違っていませんが」

 「そうなんですか? じゃあさっき近づいていたのは……」

 「おそらく、人に聞かれたくない話があったようですの。それだけですわよ」

 「そう、でしたか。ちょうど教室を通りかかったとき二人を見て、勘違いして思わず止めてしまいました。すみません……」

 

 フローラ様がしゅんとうなだれる。


 「気になさらないでくださいな。心配してくれて嬉しいですの……あー、それから、クリストファー様が好きというのも、誤解ですわよ」

 「ええええっ!?」


 フローラ様がばっと顔を上げた。大きな瞳がこぼれ落ちそうなくらいに見開かれている。


 「な、何をそんなに驚いているのですか」

 「やっと最近、自覚したのかと思ったのに……」

 「何をですの!?」

 「だって最近、ソフィー様はクリストファー様と目が合っただけで赤面するじゃないですか!」

 「ばっ、バレていましたの!? それは私にも理由がわからなくて」


 そう言うと、フローラ様はため息をついた。


 「ソフィー様……それは、クリストファー様が好きだからではありませんか?」

 「もう、だからどうしてそうなりますのよ」

 「逆に、どうしてソフィー様はそれが恋じゃないと言い切れるんですか?」


 フローラ様もなかなか引き下がりませんわね。


 「どうしてって……私は理想の殿方と恋愛して結婚したいんですの……」

 「クリストファー様は理想の殿方ではありませんか?」


 えっ……確かに、今のクリストファー様は外見も性格も、私の理想に……っていやいや。


 「ですが、女たらしですし。それに……クリストファー様は意地で私の理想の殿方になろうとしているだけですわ。初めて会ったお茶会で、フローラ様も聞いていたでしょう? そろそろ諦めてもいいと思いますのに」

 「ソフィー様、私はそれだけで人があんなに変われるとは思いません。すごく大変だったと思いますよ」


 確かに、クリストファー様がとても努力していたのは、私が知っていますわ。なかなか体重が減らなくて、断食して倒れてしまったこともありましたわね。でも、結局は地道な食事改善と運動を続けていたことも知っていますわ。

 それに……たらしでも偽りでも、いつも私のことを気遣ってくれて本当に優しいと思いますのよ。


 「知っていますわ……でも! 私がクリストファー様を好きになったら、もうクリストファー様は私の理想の殿方でいることなんてやめてしまうに決まってますわ」


 そうしたら、きっとクリストファー様は私のそばからいなくなってしまう。クリストファー様が理想の殿方を目指すなんて、初めはお断りだと思っていたのに……どうして今、こんなにも辛いのでしょうか。

 

 ……好き、だから? 私はクリストファー様を好きになってしまったのでしょうか?

 わかりませんの。だってこんな感情は初めてなのです。ローリー様を想っていたときは、楽しい気持ちしか知りませんでした。こんなに苦しい気持ちなんて……

 ただ、クリストファー様のそばにいたいと思いますの。

 

 「……フローラ様の言う通り、私はクリストファー様を好きになってしまったのかもしれません。でも、このままでいたいのです。こんな気持ち隠してしまえば、きっとまた元通りに話せるようになりますわ。学校を卒業するまででも、そばにいたいのです」

 「本当にこのままでいいんですか?」


 フローラ様が少し怒ったように言う。


 「そのあとは諦めるつもりなんですか? クリストファー様が誰かと結婚するのをただ見ているんですか?」


 クリストファー様の隣に私ではない誰かがいるなんて、あの優しい笑顔を向けられるなんて、想像しただけで胸が張り裂けそうに痛む。

 気づいてしまった。卒業までなんて嘘、クリストファー様とずっと一緒にいたいと思ってしまいましたの。

 

 「私の知っているソフィー様は、いつも前向きで行動力のある方です。理想の殿方と結婚してみせるって、絶対諦めないって、その気合いはどこへ行ったんですか!」


 フローラ様の瞳には涙が滲んでいた。


 「フローラ様……」


 そう、でしたわね。

 まだ何もしていないのにくよくよしてばかりで。クリストファー様に好きになってもらおうとすらせずに、臆病になっていた。

 

 「フローラ様、私……諦めませんわ。次は私がクリストファー様を好きにさせてみせますの」



 そう、宣言したはいいものの。

 私は家で一人、思い悩んでいた。


 一体どうすればいいのかしら。

 今まではあるプリの主人公アリスを見習っていましたけれど。

 クリストファー様の理想の女性を目指せばいいの? それって腹肉があったほうがいいのかしら……それは嫌ね。自分の好みを曲げたくはないもの。

 そもそもクリストファー様とちゃんと話せるかしら。


 ぐるぐると悩み続けて……いつの間にか夜が明けていた。



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