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4. 理想の殿方が現れましたの



 夏休みが終わり、二学期が始まりました。

 夏休みの間もちょくちょく花壇は見にきていたものの、ほとんど庭師のピーターさん頼みでしたの。そのおかげで、今は綺麗なコスモスが咲いています。

 結局、私のローリー様には今のところ見初められていませんが、花を育てることの楽しさはわかりましたわ。

 

 今はピーターさんのお手伝いで、鉢の植え替えをしていますの。ああ、無心。


 ……ええ、無心になりたいんです。

 クリストファー様と乗馬に行ってから、私はおかしくなってしまったのです。なぜか、クリストファー様の顔をまともに見られなくなってしまいましたの。顔が嫌なわけではありませんのよ、むしろ……ダメダメ、無心ですわ。


 

 「クラーク様、今日も手伝ってくれてありがとうございました」


 無心のあまり、いつのまにか植え替えが終わっていましたわ。


 「こちらこそ、いつもありがとうございます、ピーターさん。私はもう少し、花を眺めようかと思いますわ」

 「それでは、失礼しますね」


 ピーターさんが行ってしまってから、私はベンチに座って花を眺めた。何だかずっと変な気持ちですの。


 そうしていると、後ろから足音が近づいてきた。ピーターさん、忘れ物でもあったのかしら?

 そう思って振り向くと__


 「ローリー様?」


 思わずその名前が口からこぼれた。

 だってそこにいたのは、黒髪に琥珀色の瞳をもった美しい殿方__まるでローリー様のような方だったのだから。


 「え?」

 

 その殿方は目を見開いて驚いた顔をした。

 いけませんわ、ローリー様がいるはずないじゃありませんの。


 「ごめんなさい、あなたが……知り合いにそっくりでしたので。私、ソフィア・クラークと申します」

 「ああ……そうだったんだ。俺は、ローレンス・ライト。家族にはローリーって呼ばれてるから、びっくりしたんだ」

 「まあ、それは偶然ですわね」

 「だね。君も花を見ていたの?」

 「ええ。私、少し花を育てるお手伝いをしているので」

 「へえ……」

 

 また驚いたような顔をされた。そういえば、令嬢の土いじりは一般的ではありませんでしたわね。


 「それよりも、ローリー様、あ、いえ、ライト様は……」

 「ははっ。ローリーでいいよ」

 「ええと、ローリー様をこの学校で、今までお見かけしたことがなかったと思うのですが」


 こんな……私の理想の権化のような方がいらっしゃったら忘れるはずがありませんわ。


 「ああ……色々あってさ。明日から学校に通うことになってるんだ」

 「そうでしたのね。学校はもう見て回りましたか?」

 「いや、今日は初めて来て、先生に説明を受けただけ。たまたまこの庭を見つけたんだ」

 「花がお好きなのですか?」

 「好きって言うか……花はいつでも綺麗だから……って変なこと言ってるよね」

 「そんなことありません。あの、よかったら、明日学校を案内しますわ」

 「いいの? じゃあ、お願いします」


 にっこり笑うローリー様はもう、それはそれは美しいです。

 

 素敵ですわ、ローリー様。ああでも、私の大好きなあるプリの『ローリー様』とややこしいですわね。でも本当に『ローリー様』みたいなんですの。

 ローリー様のことを考えていたら、さっきまでの変な気持ちも軽くなったような気がします。

 お母様に尋ねてみたところ、ローリー様はライト伯爵家の一人息子なんだそうです。明日が楽しみですわ。



 次の日から、ローリー様も学校に通い始めた。

 私基準で美しいということは、大半の人にとってはそうではないわけで。ローリー様のことはあまり噂になっていませんでしたが、願ったり叶ったりですわ。さっそく放課後、ローリー様のクラスに行きたいと思います。


 「ソフィア嬢、ちょっといいかな?」

 「く、クリストファー様!」


 ローリー様と同じクラスのクリストファー様に話しかけられてしまいました。

 ああっ、やっぱり顔を見られませんの。なんだか、このクラス暑くありません?


 「ソフィア嬢、よかったらこの後……」

 「ごめんなさい、この後は予定が……あ、ローリー様、行きましょう!」

 

 ローリー様の手を引き、半ば無理やりクラスの外に連れ出す。


 「よかったの? 何か話してたんじゃ」

 「いえ、いいんです! 早く案内しますわ」


 ごめんなさい、クリストファー様。

 私、無心になる修行でもしようかしら。そうでないと、とてもじゃないけどクリストファー様と話せませんの。

 本当に私はどうしてしまったのでしょう……


 

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