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2. 『絶世の美少年』に挑戦されましたの



 「おい」


 私とフローラ様がお話していると、クリストファー様が仁王立ちで話しかけてきた。


 「なんでございましょうか」

 「一応、皆に挨拶して回れと言われたんだ」


 不機嫌そうに言う。さっきまで大きな令嬢の腹肉ばかり見ていましたものね? それにしてもかなり尊大な態度ですわね。ローリー様ならもっと紳士的です。


 「私、ソフィア・クラークと申しますわ」

 「あ、わ、私は、フローラ・ゴメスと申します」


 フローラ様はかっこいい(?)クリストファー様の前で緊張しているようだ。


 「はあ……なんでこんなブスの相手しないといけないんだ」


 耳を疑いましたわ。


 「クリストファー様。平気でそんなことを人に向かって言えるなんて、私はあなたの人格を疑いますわ」

 

 クリストファー様は一瞬目を瞬かせると、一気に顔を赤くした。


 「なんだと!? 僕は事実を言っただけだ」

 「事実なんて。私はともかく、フローラ様は美しいということが事実ですわ。あなたは相手の気持ちを考えたことがありますの?」

 「なっ……別に、何をしたって顔が良ければ、それでいいんだろう」

 「はっ、笑わせないでくださいませ。いくら外見が美しくとも、心の醜い方とはお付き合いしたくありませんわ。それに、私からすれば、あなたは理想の殿方からかけ離れていますわ!」


 そうですの。確かに私はローリー様に一目惚れしましたが、彼の紳士的な振る舞いや、ヒロインへの一途な愛情、最後にはヒロインと王子の結婚を祝福する優しい心に惹かれましたの。本当、ローリー様って醜男と言われているだけで、俺様王子よりもずっと性格いいんじゃないかしら。やっぱり結婚したいですわ。


 「な、なんだよ、理想の殿方って」

 「優しくて紳士的で、人を思いやれる方です。それから、すらりとした体型、透き通るような瞳と肌に、さらりとした髪の毛に……」

 「なんだそれ、趣味悪っ」


 カチンときました。さっきから失礼すぎませんか。


 「そうおっしゃるのは結構です。あなたなんて、一生、私の理想の殿方にはなれませんわ!」

 「なに!?」


 クリストファー様が顔を険しくした。


 「僕が絶対に、お前の理想の男とやらになれないと?」

 「ええ、絶対に」

 「……そんなに言うなら、なってやる。お前の言う理想の男に」


 なんですって!? そんなの結構ですわ!!

 そう思うも、驚きで声が出なくなった私を置いて、クリストファー様は行ってしまった。


 「きゃあ、なんだか恋愛小説みたいでした」


 フローラ様が楽しそうに笑う。いえいえ、笑い事ではありませんわよ?

 こんなはずではありませんでしたのに……




 * * * * *




 結局、お茶会でクリストファー様の婚約者は決まらなかった。

 そして、一ヶ月たった今もクリストファー様は私の理想に近づこうとしている。


 「君の理想の男になって、僕を好きにさせてみせるよ」


 お、おえ……いきなり紳士的な口調になったのも相まって、ゾワゾワします。

  

 「(せいぜい)頑張ってくださいませ……」




 * * * * *




 時が経つのは早いものですね。

 私は15歳になり、貴族が通う学校に入学しました。フローラ様も一緒ですの。そして……


 「おはよう、ソフィア嬢、フローラ嬢」


 フローラ様と話していると、クリストファー様が話しかけてきた。

 クリストファー様はこの三年で、ずいぶんと変わった。顔は二回りほど小さくなり、水色の瞳がはっきり見えるようになった。体型はぽっちゃり程度になり、乗馬が得意になったらしい。肌も綺麗になり、金色の髪はさらさらしている。世間では、『普通にかっこいい』レベルなんですって。成長して崩れたパターン、だとか言われているのも聞きました。

 でも私は今の方がいいと思いますわ。健康的ですもの。問題は……


 「あれ、フローラ嬢、髪を切ったの?」

 「はい、気分転換に」

 「とてもよく似合ってるよ。フローラ嬢の髪の毛は本当に綺麗だなあ」


 クリストファー様が微笑む。確かに、ショートヘアのフローラ様はかわいすぎますわ。

 でも! クリストファー様はすっかり女たらしになってしまった。令嬢たちの間では紳士とか言われているそうだけど。


 「ソフィア嬢も新しい髪飾りをつけているのかい? すごくかわいいね」

 「……ありがとうございます」

 

 この、すけこまし! 紳士と女たらしは全く違いますのよ。

 


 「クリストファー様、素敵〜!」

 「そうかしら……」


 クリストファー様が行ってしまってから、フローラ様がはしゃいで言った。


 「もう、ソフィー様。もたもたしてたら、取られちゃいますよ!」

 「どうぞ取ってくださいな……クリストファー様も負けず嫌いですわね」


 まだ私の理想に近づこうとしているなんて。今だったら、クリストファー様の顔だけじゃなく、人柄を好きになる子も多いでしょうに。


 でも私は、私のローリー様を見つけますから。


 

 そして私は今日も、学校の花壇に水やりに行く。

 なぜかって……あるプリの主人公、アリスはお花を大切に育てているところをローリー様に見初められたからですわ! 形から入ることも大事ですよね。

 私も学校の庭園の一画を借りて、花壇を作りましたの。令嬢は普通、土いじりをしないそうですが、私は既に悪趣味令嬢と言われているので気にしませんわ。それに、土をいじっていると無心になれますの。

 とまあ、いつか出会う理想の殿方のために、私は着々と準備を進めているのです。


 あら、ピンクのチューリップが咲いていますわ! 実のところ、さほど花に興味はありませんでしたが、意外と楽しいものですね。次は何を植えようかしら。



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