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君の理想に近づきたい《前》

クリストファー視点です。



 僕がソフィア・クラーク嬢と出会ったのは12歳のときのお茶会だった。


 僕、クリストファー・ディアスは伯爵家の長男で、両親にはお茶会で気に入った子がいれば婚約者にしていいと言われていた。そのときの僕は美少女と言われる令嬢の腹肉を見ることに夢中だった。

 しかし両親に皆に挨拶するよう言われ、僕はしぶしぶソフィア嬢とフローラ嬢にも声をかけたんだ。

 その頃の僕は『絶世の美少年』などと言われ、皆が自分の顔しか見ていないような気がしていた。虚しさを感じると同時に、もてはやされて傲慢になっていた。だから、彼女たちにブスなどと平気で言えたのだ。

 それまではそんなひどいことを言っても許されていた。しかし、ソフィア嬢はそんな僕に言い返してきたのだ。

 自分を否定されたのは初めてで、僕はカッとなった。僕はソフィア嬢の理想の男からかけ離れていると言うのだ。じゃあ理想の男というのは何なんだと尋ねた。


 「優しくて紳士的で、人を思いやれる方です。それから、すらりとした体型、透き通るような瞳と肌に、さらりとした髪の毛に……」

 「なんだそれ、趣味悪っ」


 思わず口が滑った。ソフィア嬢が述べた理想の男は、性格はともかく、容姿はとてもいいとは言えなかった。

 だがそれでソフィア嬢を怒らせてしまった。


 「あなたなんて、一生、私の理想の殿方にはなれませんわ!」


 そう言われて、腹が立った。絶対に理想の男になれないって? いや、なってやる……そして僕を好きにさせて、お前の鼻を明かしてやる……!


 ……そう思っていたんだ。

 きつい運動は嫌いだったが、美容にいいと言われている、脂っこくて砂糖をたくさん使った食事を変えたことで、初めは体重がどんどん減って楽しかった。

 しかし、途中からなかなか体重は減らなくなった。僕は焦って断食を始めた。水以外何も摂らず、三日くらいがたった頃、お茶会でソフィア嬢に会った。いつもなら話しかけに行くところだったが、そのときは身体が重く、お腹が空きすぎてふらふらして、座っているだけで精一杯だった。


 「クリストファー様、大丈夫ですか?」

 

 そんなとき、ソフィア嬢が珍しく話しかけてくれた。


 「なんだか顔色が悪いですわよ?」

 

 ソフィア嬢の顔を見て僕はなぜだかほっとした。そして無理が祟ったのか、僕はそのまま倒れてしまった。



 目が覚めると僕はソファーに寝かされていて、ソフィア嬢が傍に座っていた。


 「クリストファー様! 起きましたのね」

 「ソフィア嬢……」

 「気分はどうですか?」

 「ああ……お腹空いた。だめだな……太るから食べないようにしてたのに」

 「えっ」


 ソフィア嬢が目を見開く。

 

 「クリストファー様、まさかご飯を食べていないのですか?」

 「そうだけど……」

 「何日くらいですの?」

 「三日くらいかな」

 「……それは、倒れてもおかしくありませんわよ。そんな無理しないでくださいな……」


 そう言ったソフィア嬢はなんだか泣き出しそうに見えた。


 「心配してくれたの?」

 「当たり前ですわ……私の理想の殿方を目指したせいでクリストファー様が倒れてしまったら、寝覚めが悪いですもの」


 そう言って微笑んでみせたソフィア嬢は優しいな、と思った。

 多分、それがソフィア嬢を好きだと気づいたきっかけだった。ソフィア嬢は覚えていないかもしれないけれど、僕にとっては忘れられない思い出だ。


 それからは無理な減量はせずに、嫌いな運動も頑張った。痩せてみると、身体が軽く、たくさん動くのも苦ではなくなった。以前は馬を潰す勢いだった乗馬も好きになった。


 そして、本当にソフィア嬢が僕を好きになってほしいと思うようになった。それまでは、いわゆるかわいい系の令嬢のたっぷりした腹肉が好きだったはずなのに、ソフィア嬢のすっきりしたお腹やドレスから覗く細い足が気になるようになった。ソフィア嬢のふわふわした茶色の髪に触れてみたい、と考えてしまうようになった……こんなことをソフィア嬢に知られたら、嫌われてしまう。


 そう思った僕は殊更に紳士的な振る舞いをするようになった。ソフィア嬢は優しい人が好きだから、という邪な考えも持っていた。けれどその成果か、ソフィア嬢は僕にも笑いかけてくれるようになった。


 学校に入学して、クラスは離れてしまったが、ソフィア嬢と毎日話すことができてとても嬉しかった。

 ソフィア嬢は学校で花壇を作ったりしていた。普通の令嬢はあまりしないだろう。やっぱり彼女は変わっている……でもそんなところがとても好ましいと思う。ソフィア嬢の優しいところを知るたびに、僕はますます惹かれていった。


 容姿がソフィア嬢の理想並みになったら、告白しよう……そう決心して、夏休みはさらに減量に励んだ。

 ああ、夏休みにソフィア嬢と乗馬をしたのは本当に幸せだった。二人乗りで僕は平常心を保つのに必死だったが、あのときのソフィア嬢はとても楽しげで、笑顔がまぶしかった。


 二学期になり、僕もようやくソフィア嬢の理想の男にかなり近づけたのではないかと思っていた。

 しかし……僕はなぜかソフィア嬢から避けられるようになってしまった。


 そして、ローレンス・ライト__ソフィア嬢の理想を体現したような男が現れたのだ。



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