来世はイケメンがいい
ローレンス視点。
ローレンスがフローラに告白したときの話です。
突然だが、俺、ローレンス・ライトには前世の記憶がある。
それを思い出したのも突然のことだった。
学校に入学する直前、流行病にかかり苦しんでいたとき、前世の記憶が頭に流れこんできたのだ。
そのときは頭がどうにかなりそうで、混乱してひたすら苦しかったのを覚えている。
やっと体調が回復して、鏡を見た俺は思ったのだ__俺って、超絶イケメンじゃないか!?
それまでの俺は、卑屈だった。成長するにつれて、自分が不細工だということは嫌でも思い知らされていた。容姿について陰口を言われたことが原因で、人と関わるのが怖くなった。正直、学校にも行きたくないと思っていたんだ。
だが、もう一度言おう。(前世の基準で言うと)俺はイケメンだ。
俺は前世、日本の男子高校生だった。顔はまあ、普通。好きな子もいたんだよ……ふられたけど。そしてその子は、俺をふった後、イケメンと付き合い始めた。
下校中に車が突っ込んできて、空が見えたのが最後の記憶だった。薄れゆく意識の中で俺は思った__神様、生まれ変わったらイケメンにしてください……
神様は本当にいるのかもしれない。俺は超絶イケメンに転生した。
顔のパーツ配置は完璧、綺麗な黒髪は何もしなくてもさらさらで、琥珀色の瞳は宝石のように輝く。おまけにスタイルもいい。思わず自分で惚れぼれするほどだ。
ただ、この世界の美醜が前世と正反対なのは、悲しい誤算だった。
前世と同じく、俺は全くモテることがなかった。だが俺は諦めない。今世では好きな子と両想いになってみせると決心した。
そんな決意で学校に通い始めた俺は、ソフィアさんと友達になった。
ソフィアさんは俺にとても親切にしてくれて、最初は、もしかして俺のことが好きなのかもと思ったりした。
まあ、それはすぐに勘違いだとわかったんだけどね……ソフィアさんはクリストファーと完全に両想いだった。クリストファーは金髪碧眼のイケメンで、学校に入ったばかりで不慣れだった俺をいろいろと助けてくれた友達だ。二人は何やら痴話喧嘩でもしていたようだったけどね。
それから、なんとソフィアさんの初恋の人が俺にそっくりなのだとわかった。ソフィアさんは俺に似た人が初恋で、クリストファーが好き……これは完全に、俺と美的感覚が一緒じゃないか?
そして俺は、ソフィアさんにも前世の記憶があるのだとほぼ確信してしまった。そうじゃなかった場合なんて考えずにソフィアさんに尋ねてしまったんだ。
ぽかんとするソフィアさんを見て、やってしまったな……と思った。ソフィアさんが転生者じゃなかったら、俺は前世の記憶があるとかいう頭おかしいやつだと思われても不思議ではない。
しかし、ソフィアさんは、俺のことを信じてくれた。それは本当に嬉しかった。
……ということは、ソフィアさんはこの世界で、かなり特殊な趣味の持ち主なのかな。
俺がフローラさんに出会ったのも、その時期だっただろうか。
フローラ・ゴメス伯爵令嬢。絹のような銀髪とエメラルドの瞳の美少女である。
フローラさんを一目見たとき、時が止まったかと思った。あんなに美しい人を見たのは初めてだった。
ソフィアさんがなぜか応援してくれて、俺はフローラさんと話す機会を得た。フローラさんは儚げな容姿だが、性格は明るくしっかりしていて、俺はさらに惹かれていった。初めは、話すことすら緊張していたけれど、今ではいい友達になれたと思う。
__いや、友達じゃだめだろう!
俺はフローラさんが好きだ。仲良くなるうちに、どんどん想いは募っていった。
自惚れかもしれないけれど、友達としては嫌われていないと思うんだ。ただ、フローラさんからしたら、俺は不細工なんだよな……
当たって砕けてみようか……だけど、本当は両想いになりたい。
「告白すべきだと思いますわ!」
ソフィアさんが勢いよく言った。俺を応援してくれているソフィアさんに、俺がフローラさんに告白するべきどうか相談したのだ。
「告白することが意識してもらうきっかけにもなる……とフローラ様も言っていましたの。ローレンス様はとてもかっこいいんですから、自信をもってください!」
「うーん、でもさ、フローラさんからしたら俺って不細工だろう?」
「フローラ様は見た目で人を判断するような方ではありませんわ。それに、私が『ローリー様』のよさについて長年語ってきましたの。きっとフローラ様もそのかっこよさがわかりかけている……はずですわ」
『ローリー様』とは、俺にそっくりだというソフィアさんの初恋の人のことだ。
「はは、それは頼もしいな……」
「ローレンス様……告白ってとても緊張しますわよね。でも、きっとフローラ様は真摯に受け止めてくれますわ。後悔しない道を選んでくださいな」
そうだよね……人生なんていつ終わるかわからないんだから(経験談)、後悔しないようにしよう。
放課後、フローラさんを裏庭に呼んだ。
「ローレンス様、どうしましたか?」
……緊張して、手が震える。
前世の記憶をふと思い出した……好きだった子に告白して、断られたときのこと。やっぱりふられるのは怖い。
だけど……手を握りしめる。それ以上に、この想いは強い。
「フローラさん……君が好きだ。付き合ってください!」
フローラさんは一瞬目を瞬かせて__微笑んだ。
「はい、喜んで」
ええええーーーーっ!? これは夢かな!?
混乱している俺の手をフローラさんが握った。
「待って、フローラさん、手汗が」
「大丈夫ですよ。緊張しながらも伝えてくれたのが嬉しいです」
フローラさんが俺を見て優しく笑っている。ますます現実味がないな。
でもこの手の温もりは本物だ。
「俺でいいの?」
「もう、何を言うんですか……実は、ローレンス様が私を好いてくれていることはわかっていたんです」
「えっ!?」
「ごめんなさい、バレバレでした。好意を向けられて、私もローレンス様が気になり始めたの。だけどやっぱり自信がない私がいて、告白を待ってしまってごめんなさい」
バレバレだったのか……恥ずかしいな。
「私もローレンス様が好き。あなたと一緒にいると楽しくて、これからも支え合っていけると思えました。だから、私はローレンス様がいいです」
「フローラさん……」
繋がった手に力がこめられる。
前世も合わせて初めて、俺は両想いになったらしい。
もしも来世があるならば……また君と巡り合いたいと思うよ。
とりあえず今は、この幸せを噛みしめようか。