10. 自分の好みに忠実ですの
「ソフィー様、ご婚約おめでとうございます!」
フローラ様が笑顔でお祝いしてくれた。
そう、私とクリス様は婚約することになった。元々、婚約者候補ではあったので、驚くほどあっさり決まってしまいました。
「ありがとうございます……フローラ様がいてくれたおかげですわ」
フローラ様に背中を押してもらわなければ、私はクリス様に告白する勇気も出なかったかもしれませんもの。
「実は、いつになったら二人がくっつくのかやきもきしてたんですよ」
「えっ?」
「だって、側から見たら完全に両想いだったんですから。二人とも鈍すぎです」
「えええっ!?」
そうでしたの!? いや、やっぱりフローラ様はエスパーなのでは……
「とにかくよかったです! 絶対、結婚式に呼んでくださいね」
「もちろんですわ」
「はい! いいですね、私も恋したいです〜」
「あら、あのう、フローラ様。そういえば、ローレンス様のことを、その、どう思います?」
さ、さりげなく聞けたかしら?
「え、ローレンス様ですか? あまり話したことがないので、なんとも」
「それでしたら、ぜひ話してみてくださいな! とってもいい方ですのよ」
「ソフィー様……何を企んでいるんですか?」
「ええっと……ローレンス様は私と趣味が似ていて、フローラ様のことが気になっているようでしたの」
エスパー様にさりげなく紹介するなんて、私には無理でしたわ……
「えっ、ソフィー様と趣味が似ているんですか!?」
「そうですのよ」
「……ふふっ、なんだかおもしろそうな方ですね」
「まあ、ぜひ紹介いたしますわ!」
これは好感触ではありませんの?
あとはローレンス様次第ですわね。
「ソフィー」
「クリス様!」
放課後、クリス様が私のクラスに来てくれた。
「今日は一緒に街に行く約束だっただろう?」
「もちろん、楽しみにしていましたわ」
やっと、なんとかクリス様の顔を見て話せるようになりましたの。
「僕も待ちきれなかったよ。じゃあ、行こうか」
クリス様が差し伸べてくれた手を取る。
やっぱり、手を繋ぐのはまだ慣れませんのよ〜!
でも、こんな優しくてドキドキする幸せな日々が続いてほしいと思いますの。
* * * * *
私たちは学校を卒業して18歳になった。
そしてついに、この日__私とクリス様の結婚式の日が無事に迎えられた。
これまで、楽しいことも苦しいこともありましたわ。
クリス様とは何回もデートを重ねた。今でも全部はっきりと思い出せますのよ。
何度も笑い合ったし、喧嘩したことも何度かありましたわ。
それも、全て大切な思い出ですの。
結婚式は本当に夢のような時間でした。
私、この日を一生忘れませんわ。
「ソフィー様、っうう、本当におめでとうございます」
「フローラ様、ありがとうございます。もう、そんなに泣いていてはかわいいお顔も……いえ、泣いていてもとってもかわいいですわ」
「そんなこと、うぅ〜」
フローラ様の涙は止まらない。こんな友達がいてくれて、私は本当に幸せですわ。
「フローラが泣いていてもかわいいのは同感だな」
「ローレンス様! さすが、わかってくれると思いましたわ」
「うん。ソフィアさん、改めて結婚おめでとう」
ローレンス様が微笑んで言ってくれた。
「ありがとうございます……ローレンス様も頑張ってくださいね」
「あー、うん。頑張るよ」
小声でローレンス様に告げると、ローレンス様は顔を赤らめて答えた。
ローレンス様とフローラ様は今、婚約者同士だ。ローレンス様の頑張りが、フローラ様を振り向かせたのですわね。そして今度、ローレンス様はフローラ様にプロポーズするらしい。
ふふ、結婚式が楽しみですわ。
ローレンス様と話していると、ふわっと体が持ち上げられた。
「クリス様!」
「楽しそうだね。僕も混ぜてくれる?」
って、ええ!? この体勢でですの?
「クリストファー、相変わらずだなあ」
「わかってるよ、ローレンス。自分でも心が狭いと思うけど、早くソフィーを独り占めしたいんだ」
クリス様と婚約してから、私がかなり愛されていることも気づかされましたわ。
……でもそれは、私も負けていませんのよ?
クリス様の首に腕を回して、頬に口づける。
「後でいっぱい独り占めしてくださいな?」
クリス様の頬がみるみる赤くなる。
「ソフィー、ずるいよ」
クリス様がそう言ったかと思うと、私の唇は塞がれた。
これから先も、楽しいことばかりではないかもしれません。
でも、クリス様と一緒に、どんなことだって乗り越えてみせますの。
きっとこれからも、大切な思い出をたくさん重ねていきますわ。
愛しています、クリス様。たとえ悪趣味と言われたとしても、この気持ちは変わりませんの。
なんせ私は、自分の好みに忠実ですから!
《終わり》
読んでくださってありがとうございました!




