2−2
そうやって話している内にグンナール火山に到着。ここは魔物の巣になっていると人間の間でもっぱら噂で、貴重な物が採れるわけでもないから人間は近寄らないらしい。街からもだいぶ離れているらしいし。
今は夜。こんなところに人間は来ないだろう。ドラゴンの群れもいるし、襲われることはないはず。
ドラゴン部隊の半分は一応周りの警戒。もう半分はわたしと一緒に宝物の捜索。ここにいる魔王軍の麾下にいる魔物と話をすればすぐみたいだけど。
そんな魔物たちを探していると、何だかドタバタと駆け足が聞こえてきた。何だろうと思っていると、赤い毛並みの魔物たちがやってきてお座りというか平伏というか。頭を地面につけて五体投地をしていた。狼かな。
ドラっちさんも特に気にしてないし、この辺りに住む魔物なのだろう。魔王軍の麾下かどうかわからないけど。もし麾下だとしても、最強のドラゴン部隊が来たら驚くか。
だって田舎の支部でゆっくり過ごしてたら、いきなり本社の重役が勢揃いでやってきたみたいな感覚でしょ?そりゃあ頭も伏せる。うん、事前連絡していないこっちが悪いけど、地方の魔王軍じゃ魔装具の通信機持ってないっていうんだもん。連絡のしようがない。
「ま、魔王様。本日はどのような御用で……?」
一匹の狼がわたしの顔色を尋ねながらそう口にする。あれ?わたしが魔王だってわかってるんだ。
「わたしが魔王だって連絡、行き届いているんですか?」
「あなた様が来られれば、すぐにわかります!それほど強大な力、そしてドラゴン部隊を率いていることから、推察は可能です!」
うん?強大な力?もしかしてドラっちさんたちを力で屈服させたと思ってる?
まっさかー。わたし、君たちにも殺される貧弱ボデェだよ?狼に襲われたら死んじゃうのに。
「頭を上げてください。名前を教えていただけますか?」
「はっ。ファイアーウルフのロウルでございます」
「ロウルさん。あなたたちが開けられない宝箱を守護していますか?」
「はい。我々魔物では開けることが叶わず。動かすこともできませんでした」
「そうですか。そこまで案内を頼んでも?」
「こちらです!」
魔王軍でのやり方が身に染みたというか。とにかく敬ってくるので、こっちも魔王ですよーって態度でいればいいと悟った。だって廊下でどんな魔物に会っても「魔王様」って言いながら頭下げてくるんだもん。頭下げなくていいのになあ。この肩書きなくなった瞬間発狂されて襲われそう。
天使の加護で据えられたお飾りだからね。本当は敵対すべき人間だし。誰も疑問に思わないとか異常だ。
ロウル君とその同族に連れられて行くと、行き止まりのような場所に宝箱が置いてあった。うーん、現代日本じゃ見られない、立派な木でできている宝箱だ。
「これ?」
「はい。ミミックではありません」
「魔物じゃないってことだね。魔物じゃ誰も開けられなかったっていうのは、どんな存在も確かめたんでしたっけ?」
「例の諜報部隊に、人間に化けてもらって確かめたんですがダメでしたね。鍵の作成とかもしたんですけど、開きませんでしたぜ」
ロウル君とドラっちさんがそう教えてくれる。試せる手段は全部やったってことか。
周りをぐるっと回る。なんてことのない宝箱にしか見えない。宝箱を見るのは初めてだけど。
「魔法とかもかけられてないんですよね?」
「確認済みですぜ。魔法解除も力自慢も試しましたが、ダメでした」
魔法でも力づくでも、鍵を作ってもダメ。やっぱり特殊なルールがあるんだろう。ファンタジー世界特有の何かだったり、これを作った人の呪いだったり。
この宝箱、作ったの誰なんだろう。人間なのかあの天使どもなのか、はたまた魔物だったり。裏切りとかもありそう。魔王軍から寝返ることがないように、組織体系見直そうっと。
確認がてら、宝箱を叩いてみる。良い音はするけど、中に物が入っているんだろうか。物が動いた音がしなかった。わたしが両腕を広げたくらいの長さがある大きな宝箱に、何も入っていないとかそんな詐欺があるんだろうか。
でもこれ、きっとラスボスを倒すための何かが入ってる宝箱なんでしょ?偽物とか置いておくかなあ。
考察はしたって無駄か。ヒントなさすぎだもん。開けられるなら開けてみようか。
そう思って蓋に手をかける。うん?なんかすんなりと──。
パカッ。
……開いたけど?
「ウェエエエエ⁉︎」
「そんなあっさりぃ⁉︎」
「さすがアユ様だぜ」
ロウル君たちファイアーウルフの皆は慌てふためいているけど、ドラっちさんやドラゴンの皆は当然とばかりに大きく頷いている。
何その、あんたならやってのけるって信じてたぜ。みたいな頷きかた。
開けた宝箱には、小さい紅い宝石が入っていた。ルビーだろうか。それを取ってみるとそのルビーが勝手に浮いて、わたしの胸の中に入ってきた。
「ウエッ⁉︎なんか入ってきたー⁉︎気持ち悪っ!ドラっちさん取ってー!」
ファンタジー世界怖っ!なんで宝石が体内に入り込むわけ⁉︎しかも物理法則無視したよ!胃カメラだって鼻から通すんだぞ!
一番近くに護衛のためにいた、ドラっちさんにしがみついてわーぎゃー騒ぐが、誰も解決してくれない。どうにかしてよ、幹部!
なんでドラっちさんまで慌ててるの!目を逸らすな!
『精霊の加護を得ました。接地しているフィールドトラップを無効化し、足が若干浮きます』
「……はい?誰か、声を出しました?」
「へ?いや、何も聞こえませんでしたが……」
目を逸らしたまんまのドラっちさんはそう言う。ドラゴンで身体能力は人間よりも相当良いのに、聞こえなかった?
ロウル君たちにも顔を向けてみますが、誰もが首を横に振る。
「申し訳ありません。我々は何も聞こえず……」
つまり、脱落者と同じ、転移者にしか聞こえないメッセージと同じ感じだろうか。聞こえてきた声もどこか機械チックだったし。で、何て言ってた?精霊の加護?フィールドトラップ無効?足が若干浮く?
ドラっちさんから離れて、地面に立ってみる。けど、変化があるかと言われると……。あ、足が地面についてる感覚がない。
えー、何それ。もしかしてこの世界で得られる特殊能力とかそういうやつだろうか。フィールドトラップ無効とか、魔王城に基本引きこもるわたしに必要な力じゃないんだけど。魔王城のトラップ、わたしには作動しないようにしてもらったし。
ザ・無駄能力。
まだ周りの皆が慌てているので、落ち着かせよう。
「ごめんなさい、慌てました。もう大丈夫です。どうやら力を授かったようで」
「さっきの石の力ですかい?一体どんな?」
「……フィールドトラップ無効、だそうです」
「へえ、そりゃあまた。人間に取られると面倒な力でしたね。せっかく仕掛けた罠が無駄になっちまう」
確かに。そう考えるとわたしが取っておいて良かったかも。せっかく毒の床とか用意しておいても、平然と歩いてこられたら困る。
ドラっちさんの言う通りかも。人間に渡すとめんどくさい能力がこうやって宝箱に入ってるのか。やっぱり全部回収しないとダメなんじゃ?相手を弱体化させるためにも。
「でも、なんでわたしにはこの宝箱開けられたんでしょうね?」
「アユ様だからでは?なんたって魔王ですし」
「役職の問題ってことですか?」
「役職っていうか、御力というか。きっとアユ様がこの世界を支配すべき方だからだと思いますぜ」
「私もそう思います!あなたはまさしく、世界を統べる魔王様であらせられます!」
ドラっちさんもロウル君も大袈裟だなあ。世界を統べるつもりはないの。転移者倒して世界のバランスを整えるだけ。魔物の世界とか作るつもりないし。
それで良いのか、魔王。
「まあ、一件落着ということで。この調子で宝箱を開けていきましょう。人間には一個も渡しません」
「「「おおー!」」」
「でも今日はもう遅いので、皆で休みましょう。明日は溶岩魔神さんのところに行きましょうか」
初めての野宿だったけど、ドラっちさんの身体に寄っかかったので暖かくてぐっすりと眠れた。だいたい寒い思いをするもんだと思ってたけど、背中に乗ってた時から思ってたけどドラゴンって体温高いなあ。湯たんぽいらず。
魔王城には人間用の寝袋とかないから準備できなかった。仕方がないよね。この旅の間はドラゴンの誰かを湯たんぽにしよう。
(ウオー⁉︎背中に乗せて、頭にしがみつかれて、身体を預けてくださって!こんな幸運が一日どころか半日の間に一気に訪れて良いのか⁉︎オレ、明日死ぬのか⁉︎)
そんなことを思ったドラゴンの長がいたとかなんとか。
次も20時に投稿します。
感想などお待ちしております。