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1ー3

 幹部の三体が出て行った後、執務室の椅子に座ったままのわたしは大きく溜息をつく。


「いるんでしょ?クンティス」


「もちろんだとも」


 そう言ってスィーという音を出しながら現れるクソ天使。ずっと視線を感じるとは思ってたけど、マジでいるとは。


「わたしに関わってると、公平性がなくなるんじゃない?」


「そうでもないさ。転移者のバランスを考えればあなたが圧倒的に不利だからね。それにあなたはこういうRPGやファンタジーの基本がわかっていないだろう?そういう知識面の差異を埋めると思えばそこまで外れた行為でもない」


「RPGって、何?」


「そこからか……。ロールプレイングゲーム。こういうファンタジーの世界を冒険するゲームだよ」


「なるほど。つまりわたしはそこら辺の知識が一切なくて、相手はそういうお約束がわかってると」


「そうだね。だからこそ、君がさっきやっていたことは効果的だ。辺境の海やら火山には強力な魔物と特別な宝があるはずなんだ。それがスカだったり、存在してなかったら慌てるだろうねえ」


 うわー、良い笑顔。天使にしては嗜虐心溢れる顔をしていらっしゃる。本当に神様に仕える存在なのか?こいつ。

 でもそうか。そういう嫌がらせはどんどんやって良いのか。向こうの常識をどんどん壊して良いのか。一対九だからね、しょうがないね。

 お約束って破るためのものだよね。向こうに有利になることを見逃してたまるか。徹底的にいじわるしてやる。


「そういうことってどんどんやって良いんでしょ?」


「もちろん。好きにやってくれたまえ。天界ではすごく好評だよ?籠城作戦を行おうとしているあなたは。今回の参加者はバカばっかりで面白い」


「わたしの方策バカって言われた?それは聞き捨てならないんですけど」


「いやいや。それが人としてのあなたの当たり前だ。プッ。誰が魔物に休暇と給金を与えるかな……!」


 あ、バカにしてるのはそこか。だってこの魔王軍を一企業だとすると、わたしが社長で他の皆は社員だぞ。それにどんな身体してたって休みは必要だ。ずっと働き続けろって、そんな畜生なこと言えない。


「アンデッドって肉体的疲労がないからずっと働き続けられるんだよ?」


「え。そうなの?」


「元から死んでるんだし。かと言ってアンデッドだけ働き詰めにしたら不満が出る。無知で良かったじゃないか」


「はあ……。そういう種族的差別はなしの方向で行くから」


「ウンウン。それはそれで面白い。あなたらしい魔王としての在り方を見せてくれ」


「そうするよ。あと。籠城作戦するって言った?」


「うん?戦力をここに集めてるんだろう?」


「こっちから攻めたって良いんでしょう?」


 そう言うと、クンティスは目を大きくして丸めていた。何その予想外って顔。あんたたちを笑わすために話してるんじゃないんだけど。

 そう視線で伝えると、クンティスはお腹を押さえて笑い始めた。大爆笑だ。


「あははははは⁉︎え、なに?あなた攻め込むつもりだったの⁉︎」


「そうだけど、悪い?」


「悪くない!最高だとも!いやいや、あなたを見誤っていた。これは謝罪しよう。あの命題を乗り越えて、魔物を、転移者以外の人間を殺してしまうかもしれないのに攻める気だったんだ⁉︎」


「城内の様子を見たらわかるだろうけど、魔王が現れたことで士気がすっごく高いんだよね。だから、近いうちに攻めるけど、もちろん魔王城を空にはできない。世界の状況を把握したら、一回は攻めるよ」


「良いことを聞いた!来た甲斐があったよ!」


 本当にいい表情するなあ。天使の微笑みとか絵画にできそうだけど、本性知ってるから良いものとは思えない。だって悪魔がいじめっ子がいたずらする前の顔でしょ?それ。

 他の天使たちも、送った転移者をストーカーしたりしてるんだろうか。


「わたしの情報って、他の転移者に漏れてないんだよね?」


「それはもちろんだとも。あなたを倒そうと思っている者、この世界である程度の地位に収まろうとしている者、すでに満足している者。それぞれだけど、あなたがNo.10の少女だと思っていないし、そんな存在が魔王になっていて、魔王城にいるなんて知らないとも。今の時点で魔王城の場所を誰も把握していないよ」


「それを教えちゃうのは良いの?」


「良いことを聞いたお礼さ。他の天使たちはあなたのことを言わないよ。それではゲームがつまらなくなる」


 どうだか。他の天使の性格なんて知らないけど、クンティスがこんなに口が軽いとなると、他の天使だってわからない。こいつらの言う公平性っていうのはわたしたちにとっての公平性ではなく、天使たちにとっての公平性だ。

 わたしに情報を与え過ぎたら他の転移者に情報を与えるかもしれない。聞き出すのも自重しないと。


「あなたたちは今回のことをただ楽しんでいるの?それとも賭けとかしてるの?」


「賭けをしているよ。雑務をやるということを賭けている。しかし与えた加護で選択肢が限られていてねえ。賭けは三強状態だよ」


「ふうん?あなたは誰が勝つことに賭けたの?」


「もちろん君に」


「……雑務やるようになっても恨まないでよ?」


「恨まないとも。それに人を見る目はあるつもりだよ?」


「わたしが攻めることも見抜けなかったくせに?」


「おや。これは一本取られた」


 こいつの言葉、本当にアテにならないな。平気で嘘つきやがって。こんなファンタジー世界の基本の「き」の字も知らない小娘に賭けるバカがどこにいるんだ。

 それからもなんとなく話は続いたけど、有益なことはなかった。どうやらクンティスの姿は魔物には見えないらしい。つまりこうして話している時に誰かが入って来たら不審に思われるわけだ。

 本当にこいつら迷惑だな。


次も20時に投稿します。

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