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「じゃあ、重要な地点にいる特殊な魔物っていうのは?随分と散り散りにいるみたいですけど」


「それはいわゆる、魔王城への結界を守っている門番です。結界を守っている者もいれば、人間には過ぎた宝物を管理している者もいます。戦う力がない者もいれば、我ら幹部を超える者も。全員等しく何かしらの使命を帯びています」


「それ、必要?魔王城の結界ってどうやって管理してるの?」


「魔物特有の魔力ですな。人間の魔力とはちょっと異なりまして、それで維持しております。一度発動させてしまえば半永久的に発動しています」


「ずっとそこにいる意味はない?」


「ありませんな」


 ハーデスさんの言葉を聞いて、そんな結界の門番なんていらないんじゃないかと思った。各個撃破されるくらいなら、魔王城に戻したほうがいいんじゃないかと思う。

 この辺りはこの三体に聞いてみないと。


「いる?その門番」


「その地形を好む者、動けない者もいます。火山が好きな溶岩魔神、その土地を触媒に生み出されたゴーレムなど。その場に留まることを望む者は引き剥がせませんな」


「ああ、そっか。海でないと生きていけない魔物とかもいるんだもんね。じゃあ動かしていい門番は?」


「この三体です」


 ファルボロスさんが羽根ペンで地図に丸をつけていく。結界の源は八箇所。動かせるのはたった三体。

 どうしたものか。


「この三体って魔王城に戻しても大丈夫?」


「問題ないでしょう。そこに到達されたら人間でも結界の魔法陣は破壊できます。その場所で人間を拒む理由も、ありません」


「じゃあこの門番と、従ってる魔物たちも撤退させて。そうしたらもぬけの殻になっちゃう?」


「野良の魔物が住むので問題ないかと。人間に協力する魔物などおりませんから」


「そっか」


 ファルボロスさんの言葉で、わたしは正真正銘人間として扱われていないことがわかった。彼らにとってわたしはここの城主。魔王なんだ。

 あんな天使に魂を売った時点で、人間ではなくなったらしい。


「この人間には過ぎた宝物って何?」


「我々魔物が扱えぬ、しかし人間に利する武器であったり、精霊の加護が具現化した物であったり。あとは魔物が開けられぬ宝箱だったり。人間に与えるのは癪だということで、魔物の部隊に守護をさせております」


「それってわたしなら開けられるかな?」


「アユ様は人間のお姿そっくりですからなあ。可能性はあります」


 可能性がある程度なんだ。じゃあそれも調べてみよう。ただそこに戦力を置くのはどうなんだろう。これも戦力を分断させている要因の一つなんだもんね。

 これなら人間襲撃の最前線部隊に送りたい。辺境に強い個がいる意義を感じない。


「じゃあこれをわたしが開けられたり使えたら、その場から魔物を引き上げます。使えなくても……トラップとかで妨害するだけじゃダメですかね?」


「この宝物。人間が手にすると脅威になるような代物ばかりです。そこを手薄にするのは……」


「絶対に取られちゃダメなものってわかります?そこだけ魔物による防衛網を強固にしましょう。逆にそこ以外はトラップ満載にして、強い魔物じゃなくて嫌がらせができる魔物に守らせましょう。直接的な戦力はこんなところに置いたら無駄だと思います」


「ではそのように。こちらでも宝物の詳細は調べますが、アユ様にしか開けられない宝箱もあると考えると……」


「わたしが直接確認したほうがいいんですね。じゃあ順次当たってみようか。わたしがいない間は誰が魔王城を指揮します?」


「ドラっちにはあなたを乗せて移動していただきますので、ファルボロスが適任かと」


「そうですか。じゃあファルボロスさんお願いしますね。ハーデスさんも補佐お願いします」


「「かしこまりました、我が主人よ」」


 二体が恭しく頭を下げる。うーん、この敬われる感じ、慣れない。頭も弱いなんちゃって魔王なんですけど。こんなのがトップで、ラスボスでいいのかなあ。こんなのを倒すために必死になってる人間たち、ざまあ。努力なんてしなくても、わたしがフラッと街中行ったらそれだけでゲームクリアだよ。


「それと、人間の国に送る諜報部隊。転移者の情報は必須ですからね。とんでもない力を持ってるかもしれないし、その人たちが唆したら魔王城に総力をあげて襲ってくるかもしれない。そういう部隊っているんでしたっけ?」


「ミラージュスライムのゲルダが指揮する部隊は諜報部隊ですな。幻術、変装、情報収集のスペシャリストが集まっております」


「そうそう!そういう部隊求めてた!できるだけ情報は欲しいから、とにかく世界中に散らばって情報集めしてくれます?生存、情報集めが最優先で危険があったらすぐ撤退させていいですから」


「かしこまりました。この会議が終わったらすぐにでも」


 いやー、魔物って本能で動くばっかの脳筋かと思ってたけど、ちゃんとした部隊あるじゃん!しかも組織図もしっかりしてるし、ちゃんと用途ごとに纏まってるし!いろんな種類の魔物がいるからやりたいことがすっごくできる。

 これで戦力としては人間側と拮抗してるって本当?そんなに加護ってやばいのか、人間って成長したら魔物と戦えちゃうくらいになるのか。わかんないなあ。


「ドラっちさん。後で色んなところ回るからその工程表作ってくれます?効率よく、無駄なく行ってさっさとここに戻ってきますから」


「りょうかーい。ウチのドラゴン部隊が魔王様を安全に空輸してみせますぜ」


「ドラゴン部隊全部使うですか?戦力過剰じゃありません?」


「何をおっしゃいます!我らがアユ様に何かあったらその時点で魔王軍は終わり!むしろ戦力は増やしたいほどです!」


「いやいや。魔王城を手薄にするわけにもいかないですから。ドラゴン部隊で基本空を行くんでしょう?なら人間には手を出せないかと」


「それはそうですが……」


 飛行機とかヘリコプターとかないらしいし。空飛べる方法は人間にあるんだろうか。でもなんでもありのファンタジー世界みたいだからなあ。空飛ぶ魔法なんてありきたりかも。

 ま、ドラゴンには勝てないんじゃないかな!うん!でもファルボロスさんも心配してくれてありがとね。


「うーんと、あと決めること……。そう、お給料と休み!魔王軍ってそこのところどうなってます?」


「お給料と休み?存在しませんが?」


「……ドブラック企業じゃん!ダメダメ!お給料とお休みは絶対作るからね!わたしも休むし、貰うもの貰うから、皆にも徹底させますから!じゃないとわたしが休みにくい!」


「いえ。アユ様は存分にお休みください。我々下々が働きますので」


 ああああもう!そういう話じゃないんだよハーデスさん!というか、わたしがいる場所をドブラックにしたくないの!

 自分だってそんな境遇だったのに、上に立った瞬間部下にそういうことする屑だったのかなんて、わたしに残った最後の良心が痛むんだよぉ!そんでわたしだけベッドでぬくぬく休む?

 君たちの命預かって、戦いを任せるのにそんなことできるわけないじゃん!


「休みは絶対、週に一日以上!お給料は……貨幣文化とかある?」


「魔王軍にはありませんな。即物的な部分が多いので、幹部には城の中の大きい部屋を与えられたり、食事が上質だったり。いい武器や防具が与えられたり。そんな感じですな。求めるものも種族によって異なりますし」


「じゃあお金って文化作っても無駄ですね。ちなみに皆だと何が欲しいですか?」


「私ですと、今の設備で満足していますから。強いて言えば地獄への訪問の許可、でしょうか?」


「それって難しいことなの?ハーデスさん」


「アユ様が許可されれば特に問題は。ただ何をするのか問い質す必要があります」


「なに。悪魔としての知的好奇心ですよ。死んだ人間は何が一番苦痛だったのか。人間の悪感情というのは悪魔にとって最高の馳走ですので。我々悪魔にとってご褒美のデザートと思ってください」


「そうなんだ?他の悪魔たちもそれさせてくれたら嬉しい?」


「もちろんです」


「じゃあハーデスさん、許可してあげてください。ハーデスさんに負担かかっちゃいます?」


「いえ、それほどではありませぬ。問題ないでしょう」


 じゃあいっか。デザート我慢してとも言えないし。死んだ人間の魂にそうすることと、生きてる人間に拷問をすることで得る感情、どっちがいいんだろ。

 うーん。どんどんわたしがヒトデナシになっていく。


「ハーデスさんは?」


「そうですね。ケルベロスと相談して眷属を増やせたらなと。これには魔王城の広さにも限界がありますので、アユ様の裁量次第かと」


「じゃあそれは今度相談してください。大丈夫そうだったら許可しますから」


「ありがたき幸せ」


「ドラっちさんは?」


「肉!とにかく肉だ!どんな肉でもいい!」


「考えておきます」


 即物的ってこういうことね。これが八万……。あれ。相当大変じゃない?


「全員に何が良いかアンケート取っておいて。そこから給料として配分するから」


「はい。やることは山積みですな」


 ホントにね。


「まだまだ噴出すると思うから、定期的にこの会議開きましょうか。それに他にも参加させるべき魔物がいたら参加させていいから、声かけておいてください。わたしも探しますけど」


「御意」


 まだ初日だしね。動いてみて問題点が出てくるなんてこともあるだろうし。最初っから全部うまく行くはずがない。

 もしそうだったら、わたしのあっちの世界での生活、もっと楽だっただろうし。


次も20時に投稿します。

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