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4ー8

これにて完結です。


「ユメシロさん。結界を張りましたが、いつまで保つかわかりません。それにティーナさんも……」


「わかってる!……行ってくるよ、ラミュー」


 ラミューから手を離し、魔王が待つ扉へ手をかける。

 二人になってしまった。それでも僕がやらなくちゃいけないんだ。僕以外誰も、ここに辿り着けなかったんだから。僕がこの世界に、平和をもたらすんだ。

 扉を開けると、入ってすぐの大広間と同等の広い空間があった。そしてその先。部屋の奥には大きな、華美な椅子と共に、腕と頭が骨になった魔物が。

 魔王だ。帝国を襲った、アンデッド族。今まで対峙した中で一番のプレッシャーを放つ魔物。あいつこそが、魔王だ。


「よく来たな、勇者よ。ここまで辿り着けると、信じていたぞ」


「それは買い被られたものだ。皆の犠牲があって、辿り着いたんだ。僕は絶対にお前を倒す!」


 僕のことも把握していたんだろう。初めて魔王城に入り込んだ人間。きっとこの城での行動を全部見ていたんだろう。

 それに声も、帝国を襲った時に世界中で流れた声だった。


「魔王の歓待は、楽しんでいただけたかな?」


「糞食らえ、だ。不意打ちや戦力の分断なんて卑怯な真似ばかりだったじゃないか」


「それこそ魔物の得意分野でな。そも、そんなことは戦争における基本戦術ぞ?そんな少数で我らが城に挑むとは、我らを舐めすぎではないか?こんな喜劇を見せられて、我らは腹を抱えて笑っておったぞ」


 実際に笑いながら、椅子から立ち上がってくる魔王。確かに強いんだろう。でも僕はかなり鍛えてきた。それにラミューもティーナもキャサリンも、こいつがいなければ死ぬことはなかった。

 こいつが、人類の敵なんだ。こいつがいるから、人間は苦しむんだ。


「なら、最高の喜劇を見せてあげるよ。そうやって余裕をかましている魔王が、人間の勇者にあっけなくやられるっていう三文芝居を」


「ほう。それはそれは。では見せてもらおうか。どこからでもかかってこい、勇者」


「言われなくても!イーユ、後衛は任せた!」


「いいえ、ここでサヨナラです。最後の転移者」


 後ろからひどく冷めた声が聞こえたのと同時に、なぜか喉に酷い痛みを感じた。目線を下に下げると、僕の喉から、白い刃が突き出ていた。それを認識した瞬間、血が逆流したようで、僕の口から血が溢れていた。


「っっっ⁉︎」


「おめでとうございます。わたしのお膳立てで魔王の間まで到達できましたね。そして流石の『幸運』でした。あなたにはトラップのほとんどが効かないんですから。でも、認識していない脅威にはその『幸運』も発動しないんですね」


 裏切られた。そうわかった途端剣を振ろうとしたが、身体が痺れて動けなかった。立っていることもできず、その場に伏せてしまう。


「あんなところに、いくらハーフエルフの村とはいえ、人里があるわけないでしょう。全部幻ですよ。魔法使いが死んで、その場所に都合よく同じ実力の魔法使いがいると思いましたか?あなたについていく少女なんていると思ったんですか?色々ヒントはあげたつもりだったんですけど、わたしを可哀想な、けど実力のある少女としか思わなかったのがダメですね。……最後の一人は、絶対わたしの手で殺すと決めていました」


 彼女は何を言っている?ただ、裏切ったんじゃないのか?僕が転移者だと知っていた……?


「随分と良い思いをしたでしょう?可愛い女の子三人と懇ろになれて。勇者だと持て囃されて。ファンタジーのような世界を満喫できて。……おまけにわたしにまで色目を使って。傷心の女なら簡単に落とせると思いましたか?悍ましい。だから、そんな勘違いくんにはハッピーエンドだけはあげません。良い夢ばかり見て、現実を見なかったことがあなたの敗因です。……まあ、実力もハーデスさんやドラっちさんには遠く及ばないんですけど」


 ダメだ。意識というものが黒く塗りつぶされていく。まぶたも、重くなってきた……。


「サヨナラ、ユメシロ・カナタ。一番面倒でしたが、倒せない人ではありませんでした」



















 はぁー、終わった終わった。転移者って死ぬと身体が光って粒子になって消えるのかー。それは初めて知ったな。死ぬ瞬間はちゃんと確認してなかった気がする。というか、高ステータスの人間にも突き刺さる各種毒が配合された短剣、ここまで効くなんて。宝箱から見つけたゴミがこんな風に役立つなんてなあ。人間特攻の剣がこんな風に生まれ変わるなんて。魔王軍の技術部凄い。

 わたしは海洋の加護である変装を解く。海底神殿でもらった加護で、姿を任意の存在に変えられるんだとか。これで青髪のハーフエルフちゃんイーユになってたわけだ。


 最後から二番目の女性を倒した後、ユメシロの進行方向に幻術で村を作って、あの魔法使いの女の子を確実に倒すために自爆用ゴーレムを開発部に用意してもらって。生きている魔物が自爆魔法を使うのはわたしも禁止した。死んでほしくないからね。ゴーレムは意志がないから許可したけど。

 研究部の魔物たち、自爆魔法を搭載したゴーレムを作れるって知って喜んでたなあ。作ったゴーレムが稼いだキルスコアって作った科学者に加算されるみたいなんだよね。まあ、ただ殺しただけじゃそんなにステータスは上がらないんだけど。経験とかが大事らしいから、訓練して相手を殺して初めて効果が出るらしい。


 彼らが喜んでいたのは、おおっぴらに使うことができない自爆魔法を検証できるからだろうけど。仲間を自爆させるようなキチガイは流石にいなかったようで胸を撫で下ろした。今度人間と戦争する時はその自爆ゴーレム突っ込ませてみようか。それだけで戦況は大きく変わりそうだ。


『No.1の青年が死亡しました。選んだ加護は「幸運」と「成長倍加」です。死因は魔王による殺害。残り0人です』


『おめでとうございます。このゲームは魔王側の勝利となりました』


 頭に機械音声が響く。人側にも魔物側にもあまり被害出さなかったし、バランスは取れたでしょ。たぶん。

 加護の内容も溶岩魔神さんのリーク通り。あの人、たった一回の戦闘でそこまで見抜くとかすごいなー。

 しかしクロが使い魔として便利すぎた。テレポート使えるだけかと思ったのに、各種魔法使えたんだよ?これで魔力消費なしで、見た目ただの猫とか疑われる要素ないし。


「ハーデスさん。度々魔王役やってもらってすみません」


「いいえ、この程度。アユ様がご無事で良かったです」


「護衛いっぱいいたじゃないですかー。心配性なんですから。それで手加減しましたけど、魔王城で負傷者は?」


「そこそこですが、死んだ者はおりません。あれが本当に最後の勇者だったのですか?」


「ええ、確実に。……『成長倍加』なんて加護をもらっておいて、ステータスはドラっちさんの半分以下ですからねえ。筋力と魔力がAでしたけど、それ以外は軒並みCでしたし。やっぱり人間って魔物を倒さないと強くなれないんですかね?」


 世界の仕組みとやらはまだ完全に理解していなかった。魔物とエルフの知識は得たけど、それだって不完全だ。わたし、クンティスからこの世界の手引き的な本貰ってないんだよね。転移者たちは貰ってたらしいけど、それは奪えなかった。残念。死んじゃうとそれと一緒に消えちゃうんだよね。

 あと。わたしが心配だからって幹部のケルベロスのローちゃんが姿を隠して付いてくるのは本当に過保護というか。シャドウデーモンもパーティー全員の影に潜んでたし。ローちゃんは人の十倍くらい体長があるのに、気配遮断と透明化ができるって酷くない?襲われたら終わりな気がする。


「強くなる仕組みは魔物も同じでしょう。キルスコアも大事でしょうが、あくまで強くなるために行った過程が大事だというのは検証済みかと。ドラっちがバカみたいに強いのは、種族と人間を大量に殺したからでしょうが。それを考慮して魔物が殺されないように指揮を執ったアユ様の采配の勝利かと」


「ありがとうございます。ハーデスさんはいつもの仕事に戻ってください。わたしも溜まってる仕事やりますので」


「かしこまりました」


 ハーデスさんと一緒に魔王の間を出て、ハーデスさんは地下へ。わたしは執務室へ。ファルボロスさんには、今日パーティーを開くことにしているので今頃準備をしている頃だ。大浴場とか食堂とかに通じる場所は幻影で誤魔化してたけど、あの人たち一切気が付かなかったな。楽で良かったけど。

 執務室に入ると、久々にそのクソ野郎の顔を確認した。


「やあ、アユ。おめでとう。僕の予想通りだった」


「はいはい、ありがとう。これでわたしはこの世界に永住していいんだっけ?」


「そうだね。あとは願い事を一つ、叶えてあげよう」


「あー、そんなのあったね。あなたたちの存在は否定できないんでしょ?」


「相変わらず物騒だねぇ。無理だよ」


「なら魔力ちょうだい。すっごい量の魔力とかいらないから、エルフくらいの魔力」


「……それでいいのかい?」


「なんか色んな存在から加護もらったし、問題なく魔王もできたし。ファンタジーの世界に来たんだから魔法くらいは使ってみたいし」


 加護ってかなり便利だし、魔力を使うものも多かった。それに目の前で魔法を見ちゃうとわたしも使いたくなった。

 ただそれだけ。大層な望みなんてないし。


「……全く、君は不思議な存在だね」


「天使のクンティスがそれを言う?」


「色々と予想外があったから楽しめたよ。願い事は明日にも叶えよう。では良き生を、アユ」


「あなたたちはもう少し、人に迷惑かけない生き方しなさいよ?わたしのように巻き込むとか最低だから」


「善処するよ」


 そう言って消えていくクンティス。絶対反省してないぞ、あいつ。また別の世界で同じことやりそうだなあ。

 パーティーの前にある程度書類を片しておこうっと。……うげ、三日しか空けてないのに、結構溜まってる。

 今日くらい休みたいけどなあ。ハーデスさんに仕事してって言っちゃったし。わたしもやりますか。





















「くそ〜。クンティスの一人勝ちかよ」


「ファンタジー知識ない子供って言ってたから勝てねえと思ったのに!」


「いやいや。問題はあの魔物たちだろ。あれどうやって人間側が勝つわけ?」


「加護を弄る……のは楽しみなくなるなあ。ものによれば倒せる加護なんていくらでもあるわけだし」


「今回の奴らがイロモノ多すぎなんだよ!性転換とフェロモンバカ連れて来た奴は誰だ⁉︎」


「「フヒヒ、サーセンwww」」


「クンティス、もう一戦だ!」


「ああ、別にいいよ?またアユが勝つだろうし」





























「さあ、第二のゲームを始めようか」









ということで、希望がありましたら続きを書くかもしれません。

ですが基本は「オンモフ」最優先ですのでご了承ください。


短い間でしたが、この作品では一度筆を置いて。

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