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3ー4

 魔王軍の襲撃に晒されたアンドラシア帝国は無理くりな前線を組み上げていた。帝国の固有戦力である帝国騎士団と、ギルドにいた冒険者、街にいた傭兵。本来であれば足並みを揃えることのない面々で首都を守りきらなければならなかった。

 しかも数的にも魔王軍に劣る。いくらこの首都に大魔法使いモーランとその高弟二人がいて、剣帝バルファロウと騎士長クリアランスという剣の達人、そして世界最大宗教イズミャーユ教教主のトランクリッドがいても、質の面で敵うかどうか。


 それだけ魔物というのは一体一体が強く、そこが人間の限界とも言える。この戦力でもし魔王軍と拮抗できるほどの強者(ツワモノ)だというのであれば、とっくの昔に魔王城へ攻めていた。彼らだって人類の中では最高峰の実力者なのだが、その程度の個で敵う相手ではないのだ。魔王軍というものは。

 魔王の宣言があって、戦線は開かれた。帝国騎士団は半分の戦力を前線に向けて、二割の戦力を常時魔法使いで編成された部隊の守護。残りを予備戦力としていた。傭兵も最初は予備戦力にして、冒険者たちは最前線で戦う。

 そんな中、転移者であるアサカに近く影が。黒髪で黒目の、女性を五人侍らせている大剣を持った男だった。


「やあ、アサカ君。ここは共闘を組まないかい?」


「誰だ、あんた」


 近づいてきた男はアサカの肩に腕を回して、耳元で囁く。あまり周りの人間に話を聞かれないために。


「君、転移者だろう?俺と同じ」


「……まあ、髪の色とか顔でわかるよな」


 黒髪の人間で、日本人のような平べったい顔であればだいたいわかってしまう。茶髪だって、暗めの色ならだいたい日本人だ。この世界の住民の茶髪は結構明るめの色だからだ。


「こんなところで強制イベントになるなんて思わなくてね。流石にここで魔王を打ち取れるとは思っていない。だから生き延びるための共闘だ。良いね?」


「ああ。……あと、そのフェロモン戦闘中はどうにかできねえのか?臭い」


「おや、同性の君が……。ああいや、そういう加護だね?すまない、まだ制御できていないんだ」


「……邪魔はするなよ」


「それで結構だ。俺の名前はクサナギ。7番だ」


「俺は6番だよ」


「並び数字とは縁のある」


 その協定によって、アサカのバランスの取れたパーティー(男女比においても、役職的にも)と、クサナギの確実に趣味でしかないパーティー(女性しかおらず、役職も被りまくり)は肩を並べて戦うことになる。

 だが、何故か。クサナギが大剣を振り回し、女性たちが支援魔法や攻撃魔法を繰り返すだけで魔物を撤退へ導いていた。支援魔法の重ねがけにも限界はあるのだが、数々の魔法のおかげで一線級の実力を仮初めとはいえ獲得し、クサナギを守ろうとする魔法が牽制になって決定打を打たれる前に対処していた。

 その様子を見たアサカは。


「なんだあれ。地道に鍛えてる俺が馬鹿みてえじゃねえか……」


「フハハハハ!見たか、俺の力を!」


「いや、支援魔法ありきだし……」


 驕っているクサナギを見て呆れていた。要するにあれは、支援魔法が尽きるまでの夢だ。つまりシンデレラ状態。そのシンデレラの力を得たのも、天使の加護による、異性を虜にするチートのおかげ。だから無理をしようとしたらパーティーメンバーの目をハートマークにした女が支援するし、たとえ彼女たちが間に合わなくても、偶然近くにいた女性がその力に充てられて助ける。

 今も人間の倍ほど身長のあるボーンナイトがクサナギに剣を振り下ろしたが、近くにいた女性弓兵が矢を放って顔面に当てて、攻撃をキャンセルさせていた。


「おおっ!すまない、助かった!」


「ふ、ふんっ!それだけ大立ち回りしてる奴が倒れたら戦線が崩壊するからよ!勘違いしないでよねっ!」


「ではこの戦いが終わったらお礼をしたい。首都を案内して欲しいな」


「良いわよ!いくらでもやってあげる!」


(うわぁ……。加護ってすげえ。心が一瞬で書き換えられていった。しかもあのクサナギってやつ、計算尽くめだ。天然じゃなくて、計算して女を増やしてやがる)


 パーティーメンバーと各々の適した仕事をこなしながら、ちょっと余裕があった時に読心術を使ってクサナギと助けた弓兵の心を読んでいたのだが、一瞬にしてクサナギのことしか考えられなくなっていた。

 マインドコントロールだし、それで信者を増やしているとなると。


(なるほど。俺と同じタイプのクズだな)


 だからこそ共闘してしまっているのかもしれない。

 それからも彼らは相手が獣タイプの魔物になっても奮闘を続けていく。生き残ることが優先だったので消費アイテムは惜しみなく使った。使わずに死ぬよりは、使って生き残るべきだ。そのためのアイテムだ。

 回復ポーションはもちろん、魔力を回復させるマナポーション。そして薬草などもどんどん使う。

 何時間戦ったか、周りでも被害が増え始めた時に、他のパーティーがやってくる。


「一旦下がれ!そんで後ろからポーションとかもらって状況を立て直せ!それまでは俺たちが場を凌いでやる!」


「任せた!」


 判断は早かった。武器とかの摩耗も始まっていたので、体力的にもアイテム的にも一旦休憩が欲しかった。アサカとクサナギのパーティーは全員下がって、帝国から支給されているポーションなどを使っていく。

 その際、アサカはさっきまでの戦闘で気になったことをパーティーメンバーに確認する。


「なあ。誰か一体でも魔物を完全に倒したか?」


「いいや。止めを刺す前に他の奴が間に入ってきて、止めを刺せてないな」


「私も……。魔法で倒そうと思っても、傷負った奴ってスタコラ逃げちゃうんだよね」


「あたしもそんな感じだった」


「全員……?」


 そのことが変に思えて、アサカには何かが引っかかっていた。これだけの大軍と戦うことが初めてということもあるし、これだけ統率された敵と戦うことも初めてだ。

 今まで散発的に会った魔物しか、倒していなかった。もしこれが初めての戦争じゃなければ気付いたかもしれなかった。

 相手が強いから。それでも疑問は残っていた。だが、言葉にできない。


 そんな不安を抱えながら、それでもまた戦場に戻るために軽く食事を摂る。

 戦場に戻った時は虫系の魔物ばかりが襲ってきたが、彼らは結局生き残るために必死で答えは出なかった。

 レベルアップをさせないために、逆転の目が芽生えないように、そして何より魔物に死んで欲しくなかったために。傷付いたら撤退というアユの約束(めいれい)に気付くことはなかった。


次も20時に投稿します。

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