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2ー8

 私たち、エルフの運命が変わったのはこの時だろう。あの方がエルフの国の近くへ来られたこと。最初、周辺監視をしていた人たちがドラゴンの群れを見つけて国の終わりを察知し、絶望の淵に落ちた後。ドラゴンの群れの中に、あり得ない感覚を掴んだ。

 私たちエルフは、自然に敏感だ。雨など天気の移ろいを把握できるし、大地の声を聞くことができる。

 その特徴的な耳が、肌が。今はお隠れになった精霊の感覚を掴んだ。エルフでも精霊の力を宿しているけど、そんな欠片の話ではなく、精霊そのもののような感覚。おかしな気配も混ざっていたけど、間違いなく精霊の気配だった。


 ドラゴンの群れの中にいることは誰もがわかった。だけど、精霊様がドラゴンに囚われているのであれば、救い出すのがエルフとしての最後の使命ではないか。そういった大多数の意見によって、選抜隊が組まれ、そこに私は入っていた。そして、死を覚悟してドラゴンの群れへ近寄った。

 周りにいたドラゴンは、伝承で聞くような屈強なドラゴンばかり。エルフなんて簡単に踏み潰せそうな巨体。一飲みにできそうな強大な口。鋭い爪や牙に、エルフでも感じられる、無尽蔵かと思うほどの魔力。


 エルフの国でも先鋭だからこそ、わかってしまった。戦いを挑めば絶対に死ぬことを。だから死んででも精霊様を奪還するという計画は一瞬で崩壊した。できっこないとわかってしまったために。

 だから、作戦なんて捨てて特攻をしようと思った時に、精霊の力を持つ方の姿を見つけた。

 美しい、人間だった。


 ドラゴンたちに囲まれながらも、朗らかに笑う年若き少女。その少女の内側から感じる、わたしたちとは全く異なる大きさの精霊の力。まるで精霊の性質を持ちながら、さらに加護まで戴いておられるような、それほどの濃さ。

 欠片ではなく、塊。大部分を占めるその在り方に私たちは戦慄した。そんな存在は見たことがなかった。伝承にも残っていなかった。完璧なる精霊としての性質を持った方を。


 もう、作戦なんてなかった。奪還という二文字も忘れた。ただ全員で武装を外して彼女の前に行って、深く頭を下げていた。

 この方が私たちの王でなくて、他の誰が王を名乗れるのか。

 最初は困惑されていたが、クロを護衛としてエルフの国に招待できた。駆け寄ってきた子どもが無礼にも気安く話しかけてしまったが、アユ様は。


「子どもは好きなので、大丈夫ですよ。人間の姿をしているから珍しかったのでは?あなたたちも物々しい表情をされていますし」


 子どもたちの頭を撫でてから、そうおっしゃってくださった。まだ三十歳にもなっていない子どもたちは頭を撫でられたことでアユ様の正体に気づき、後から恐れ慄いていた。アユ様が気にしていないことを伝えてことなきを得たが。

 それから、アユ様の事情を聞いた。こちらの事情も包み隠さず話した。


 今は魔王軍を率いていること。この世界のバランスを崩しかねないテンイシャと呼ばれる、人間が九人もこの世界を訪れて世界の危機であること。そのテンイシャに対抗するために、ドラゴンたちと方々を駆け巡っていること。

 人間たちの様子も確認したかったので、人間の国も巡っていたこと。エルフの国も外から確認しようとしていたこと。襲うつもりはなかったこと。エルフの事情については詳しくなかったこと。


 わたしたちも、話をした。アンドラシアという大国に囚われたエルフがたくさんいること。そこにいるエルフの扱い。エルフという種族について。そして人間へ復讐をしようとしていること。魔物は襲われない限り倒していないこと。

 最後については、魔王とはいえ魔王軍じゃない魔物については管轄外だったから気にしなくていいと笑われてしまった。この方でも、魔物の全てを手中に収めていないことに驚いた。


 いや、不慣れな魔王なんていう役職についているのだ。なぜ魔物たちがこの方を主人と認めているのかわからないが、それは適していない肩書き(・・・・・・・・・)だ。苦労されるのも道理かもしれない。

 それからはテンイシャを排除するために手を組もうという話になり、アユ様の配下になるのであれば魔物に頭を下げるのも厭わないと思ったが、アユ様から対等にしましょうという話になった。異種族同士だからこそ、上下関係を作りたくないと。組織をできるだけ一律化して、権限なども同じようにしましょうと。


 ただ一つだけ。エルフの国をそれまで治めていた国王については、アユ様と同等など耐えられないといい、国王を辞した。国王という立場ではなく、あくまでエルフ側の代表ということに落ち着く。

 それからはトントン拍子で様々なことが魔王軍とエルフで取り決められていき、魔王軍からの提供で生活の向上、軍備の増強など目に見えて変化があった。あの方が魔王だとしても、私たちにとっては救世主だ。今では子どもも含めて、あの方を崇めない方はいない。


 そんな中、魔王城に出向として送り出す人員を選出する際に、私がセラさんと二人でアユ様の事務作業を手伝うメンバーとして選ばれた。そういう作業は確かに得意で、また将来性もあるということで二人の内の一人になれた。

 他にも戦士団の優良株だったり、研究職や生産職に就いていたエルフも選ばれて、魔王城で様々なことを習っているらしい。とてもためになるという話を聞くが、それはそうだろう。魔王軍の組織体系はしっかりしているし、私たちエルフよりも長生きで知力も高い。そんな存在が時間をかけて研究したりノウハウを纏めたりしているんだから。


 事務作業をやってみてわかった。魔王軍には大量の資料がある。その資料を纏めるための魔物もいるが、数が数だ。それにエルフが加わったことで資料や作業が増えた。その分を補うのが私とセラさんだ。

 アユ様のお姿を側で拝謁できるし、どんな方にもさん付けするアユ様が、私だけ呼び捨てにするのだ。そ、そういうことでいいんですよね?まだ床には呼ばれていませんけど、私は特別ってことですよね?同性だなんて関係ないです。ご寵愛を頂けるのなら。

 ただ、他にも呼び捨てなのがクロ。使い魔だし、猫だから仕方がないのかもしれないけど、私だけの特権が……。覚えてなさいよ。


 そして今日。なんと湯浴みに誘われてしまった。恐れ多いことだけど、これはチャンス。セラさんとクロがいるのが計算外だけど。

 あ、サキュバスのグーニャも増えた。なんですか、その大きすぎる胸とお尻は。下品すぎるでしょう。もっとアユ様や私のような、慎ましやかな黄金比を保ちなさい。まあ、その性質上無理かもしれませんけど。


「アユ様、かゆいところはございませんか?」


「大丈夫〜。悪いねえ、ミューズに背中洗ってもらっちゃって」


「いえいえ。このくらい」


 というかもっと!もっといろいろな場所触らせてくださいまし!これが男だったらこんな場面に遭遇できなかったかと思うと!ああ、アユ様肌が白すぎですぅ!全身からいい匂いがします〜!肌柔らかすぎですっ!いつまでも洗っていたい〜。ずっとお風呂でイチャイチャしていたい〜。

 大事な場所とか見えちゃってます!でもどこだって形が良くて、見たいような不敬という思いもやってきて!こんな幸せな苦痛があるなんて、知らなかった!


「クロ様、大丈夫ですか?」


「ナー」


 クロをセラさんに押し付けて良かった!セラさん、あなたが仕事のパートナーで良かったです!私はアユ様と公私共々パートナーになりますからぁ!

 はっ。猫には桶によるお湯責めがお似合いよ。ちょっと可愛がられてるからって何よ。私なんてアユ様の隅々まで洗えちゃうんだから!


「この洗剤、凄く香りが良いですね。肌にも優しいのか、泡も柔らかいですし」


「サキュバスの皆さんで、研究部隊に無理言って作らせたんでしたっけ?」


「そうですよ。私たちの武器と言ったら外見ですから。しっかりと淫夢を見せるには視覚情報で魅了させるのが手っ取り早いです」


「サキュバスの皆さん、綺麗ですしスタイル良いですよね〜」


「みなに伝えておきます。喜びますよ」


 チィ!パスを出してしまった!いや、アユ様は全員に分け隔てなくお優しいだけ!特別なのは私だけですよねぇ⁉︎

 そうですよね、アユ様っ‼︎

 いつまでも洗い続けていると不審に思われかねないので、適度に済ませて自分の身体も洗う。もしかしたら今夜寝室に呼ばれるのかもしれないんだから、綺麗にしなくっちゃ。


「そういえばグーニャさん。頼んでおいたアンドラシア帝国に関する調査は終わったんですよね?」


「はい。資料で提出した通りに」


「完璧に、ですね?」


「はい。一切の抜かりなく」


 アユ様もグーニャも、悪い笑顔をされる。ああ、そんな悪の横顔もステキ……。

 それにしても、アンドラシア帝国。魔王城から最も近くて、一番大きな人間の国だけど。エルフの敵だ。そこへ調査をさせていた?


「えっと、アユ様。何かなさるのですか?」


「はい。やりますよ。威圧行為は目立った方がいいんです。それに転移者の場所も、人物の予測もある程度できましたから」


「アユ様、もしや……」


「セラさんが考えている通りです。アンドラシア帝国に攻め入ります。エルフの奪還作戦も同時決行ですね。あちらに残りたいという酔狂な方以外を全員救出します。にっくき奴隷の証たる魔装具の解除方法にも目処が立ちましたし」


 ああ、やはりこの方は我らの王だ。こんなに私たちのことを考えてくださっている。

 この方に一生ついていこう。そう誓った瞬間でもあった。


次も20時に投稿します。

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