2ー6
また例によって三幹部は集まっていた。ドラっちから直接の報告を聞くためだ。アユのずっとそばにいたのだから、通信で聞いていたこと以上の詳細な報告が聞けると思っていた。
ハーデスが内容を聞きながら、紙に記していく。アユ自身から受けた報告と合わせて、この旅で何があったのか三体が共有していた。
「なるほど。宝箱を開ける際に黒い光か」
「ああ。危険かとも思ったが、アユ様に何か不調があったようには見えない。それに何かしらの力を得ていたようだ。時には魔族からも力を得ていたようだぜ」
「報告では聞いていたが。宝箱の中に、何かしらの存在が力を結晶化させた宝石か。精霊、大地、世界、動物、天空、魔族、海洋。遥か太古に世界から去った、精霊の力……」
「その精霊の、唯一の子孫と言われるエルフとの同盟か。どうしてそのような運びになったのだ?」
気になるワードはいくつもあるが、エルフの国はあくまで視察で済ませる予定だったはずだ。どちらの味方になるかわからない存在。分類上は人間種に値するのに、人間と枝を分かった存在。
人間とは異なる長寿という特性を得て、自然の防人となった存在だが。
「視察してて、もちろんオレも近くにいたんだけど遠視かなんかでアユ様見つかって。丸腰のエルフが走ってきて、アユ様に平伏してたんだよ。まるで魔物が魔王の存在に気付いたように。オレたちだってアユ様が現れた瞬間、あの方を魔王だと認識しただろ?」
「そうだね。これは我々に備え付けられた本能だろう。魔王の才ある者への、絶対忠誠。見た目が人間であることなど瑣末なことだと言い切れる、絶対の理性だ」
「同じ感覚を、エルフは感じ取ったのかもしれない。エルフは平伏しながら『お待ちしておりました。我らが王よ』って言ってきてよ」
「エルフが、アユ様を王と認めた?あの方は魔王であり、エルフの長ではなかろう」
「ああ。最初はアユ様も困惑してたぜ。勘違いじゃありませんかって」
ドラっちは今でも困惑している。アユから感じる力、カリスマは確実に魔王としてのもの。魔物や魔族と呼ばれる存在と類似したオーラがある。ある種同種の気配だからドラっちたちはアユを魔王と認めた。そして逆らおうという思いすら抱いていない。
同じような感覚をエルフが掴んだのだろうと思うが、なぜという疑問は解決しない。
「そしたらよ。エルフの長老っぽい奴が『いいえ、間違いありません。あなた様は精霊を統べる御方だ』って言い出して」
「精霊を統べる。本来の精霊は隠れてしまったから、今や残っているのはエルフくらいだろうが……。エルフ側に精霊に関する何かが残っていると見るべきか?」
「そうだな。幾人かは魔王城で働かせるのだ。それにエルフがどういう思考をしているのか確認するために交渉の場を設けるとアユ様はおっしゃった。同盟を結んだと言えど、詳細は詰めねばならん。その辺りも聞くべきだな」
「……もしかして、アユ様ってエルフの血が流れてるってことか?耳は人間のように見えるけど」
「いいや、それではエルフの王だと言うだろう。だが、わざわざ見えない存在の精霊を名指しした。それにエルフは人間以上に血統を重視する種族だ。エルフの血が流れていても、たとえ王族のものであろうと。エルフの見た目をしていないアユ様を選ぶとは思えない」
「では何か?アユ様は精霊の血を引いていると?」
ハーデスの確認に、ファルボロスは頷く。それしかエルフの従う理由がわからないのだ。
だが逆に言ってしまえば。精霊の関係者なら精霊や大地、天空、海洋、動物や世界に認められて加護を得られるだろう。全て、精霊の隣人なのだから。精霊とは、世界が産み出した神秘なのだから。
しかしこうなると。逆に魔王としての資質。そして魔族からの加護が矛盾する。魔王としての力も確かなのに、精霊の関係者。
魔物と精霊など、接点がなかった。精霊の姿を見たことがある魔物も魔族もいなかった。エルフ以上の長寿を誇る魔物でもそうなのだから、誰が姿を見たことがあるだろうか。
だから、突飛な考えに至ってしまう。
「可能性の話だが。アユ様は魔族と精霊の間に産まれた存在なのかもしれない」
「ハァ⁉︎……いや、そうなるしかないのか?でも、人間の見た目をしていることは?」
「そんな存在だと知られぬため、であろう。精霊ということを知られたら人間はどうする?奴らは精霊を信仰する宗教があるのだぞ?」
「かといって、魔族の姿をしていたらエルフは、たとえ精霊の血が流れていても近寄れなかっただろう。エルフは人間種とされている。近しい見た目にすべきだ。そして魔族や魔物にはカリスマがあればいい。圧倒的な力を見せつければ外見など些事だ。これだけの種類の存在が魔物や魔族で一括りにされている。今更姿など誰が気にする」
そう。彼らは。多数の可能性に行き着いてしまうためにこういう結論が出てしまう。
未知と無知をどうにかあり得る既知に変えようと、強引にしてしまうとこうなってしまった。
アユが自身も転移者だと告げていないばっかりに。
「そして実際、アユ様は最後の精霊の末裔へ慈悲をかけられた。我々と同等としたのだ。それは両者を均等に愛しているということ。人間の姿をしているのに人間には容赦がない。であるならば。二つの血が流れているのだろう」
「クックック……。ハハハハハハッ!やはりあの御方は全てを統べるべき御方だ!精霊と魔族の混血児などどこにいた!あれほどの御力を持ち、知略を持ち!世界に認められた方がどこにおられた⁉︎ああ、まさしく!世界があの御方を祝福されておられる‼︎あの方こそ、神を引き摺り下ろす真の支配者となるだろう!」
ファルボロスの笑いに同調するように、ハーデスもドラっちも笑みを深めた。
今の神など怖くない。まさしく神を超える存在が自分たちの上にいるのだから。
そうして彼らは、珍しく酒を用いて乾杯をする。素晴らしき御方のために。部下となれた喜びに。世界を献上できる誇らしさに。
なお、ハーデスは飲食できないため、形だけであったことをここに記す。
次も20時に投稿します。
感想などお待ちしております。




