1-9 固い握手を交わした
というか、このチカチカ明滅する光り方。見覚えがある、サブイベントが発生する時に出てくる光だ。
もしかしてこれ、何かのサブイベントに関係するものなのか?
僕はかがんで、落ちていたそれを拾い上げた。分厚くて年季が入った本だ。ハードカバーの表紙が土と埃で汚れていて、タイトルは読めなくなっている。
ぱらぱらとページをめくると砂埃が舞った。ごほっ、身体に悪そうな本だな。中もページが茶色く変色しているけど、文字はギリギリ判別できる。でも日本語じゃないな、読めないぞ。
すると、僕の横からにゅっと顔を出したメルが「あ」と声を上げた。
「これ、神聖文字だよ。メルなら読めるからちょっと貸してみて」
神聖文字?よく分からんが読めるなら読んでもらおう。
メルは僕から本を受け取ると、冒頭部分を読み上げた。
「『精霊の書。これは、太古に現存した精霊の備忘録である』って、え!!」
「なんだなんだ?」
「この本!先代の継承者様たちがずっと探してた本だよ!こんなところにあったなんて!」
「ふーん?先代?おじいちゃんとかか?」
「え?」
メルはポカンと僕の顔を見上げた。次いで、眉根が寄せられる。
「………神の使いって、あんまり下界のことには詳しくないのかな?」
目を細め、じっとりした目線がメルから僕に伸びてくる。
やべ、地雷踏んだ臭いぞこれ。
なんだ、何がまずかった?先代ってのが何かおかしかったのか?
「あ、いや、えっと……」
「まあいいや、教えてあげる。100年前、サタンを大聖女様が封印したのは知ってる?」
それは知ってる。忘れもしない。この時のサタンを復活させようとしてあのクソディオンがノエルちゃんを破滅に追い込んだんだ。
「でね、大聖女様は亡くなる直前、サタンの封印が解けないよう、自分の力を受け継ぐものが各時代に1人生まれるように世界の仕組みを作ったの。メルは、その4代目聖女継承者なの」
そう言って得意げに胸を張るメル。
あー、メルって確かそんなキャラだった気がするわ。いやすまない、適当にしか覚えてなくてごめん。
自分でびっくりしてるんだけど、僕ってほんとにノエルちゃんに関する部分しか記憶に残ってないんだなって……ちゃんと細かいとこまで覚えてればこれ今頃無双できただろ僕。惜しいことした……
「そうかそうか。情報助かる。ありがとう」
「キミ、神の使いって言う割に世間知らずだよねー」
ぐは、ごめんなさい自称神の使いなんです…
「神の使いにも、得意不得意が色々あってねー……」
「得意分野は?」
「それはもちろんノエルちゃん。彼女のアレコレは任せてくれ」
誕生日も歳も身長も体重もスリーサイズもバッチコイ。
「なんでそんなにノエルのことに詳しいの?」
「それはもちろん、ノエルちゃんは僕の天使だからだ」
かわいくて可憐で美しくて。
そしてとても頑張り屋なんだ、彼女は。
僕は、彼女の強さに救われたんだよ。
「気付いてなさそうだから言うけどキミ結構キモイね」
「!!」
言うなって!内心かなり気にしてることを……!
でも、だからって僕はノエルちゃんへの想いに嘘をついたりはしない!
「でもま、メルにもいるからな、そういう人」
「へー?誰?」
「もちろん決まってるでしょ!ラルクだよ!ラルクはメルの王子様なの」
メルは両手を組み、うっとりと明後日の方を向いて語り始めた。
「ラルクはね、継承者としての公務を遂行するために雇った騎士なの。最近は魔物も増えてて危ないから、そろそろ護衛をつけなさいって15歳の時に。初めて会った時のあの寡黙な顔!つっけんどんないけすかないやつかと思ったらすごいかっこいいし優しいし強いし!くうう~!」
あれ?急に口数が増えてちょっと早口に…
さてはお前も僕と同類か?
「好き好き言っても全然つれないの。でもそんなクールなのが最高にいいの。クールにあしらってるけど実はまんざらでもないんだよ絶対。ラルクはツンデレなんだよ」
「分かる。分かるぞそれ。ノエルちゃんも普段は冷たいけどそれはクールなだけで、本当は内心めちゃめちゃ嬉しがってたりするんだよな。気持ちを表に出さないだけで、実は好きな人からもらったものや言葉を大事に取っておいて宝物にしてたり、好きな人に褒められた髪型をずっと続けちゃってたり?かわいすぎるんだよ、素直に言葉にしないだけでめちゃめちゃ分かりやすいっての」
「分かる?分かっちゃう!?そうなのラルクもまさにそうなの!メルがかっこいいって言っても大してリアクション取らないけど、メルが他の人にナンパされそうになった時とかものすごい剣幕で間に入って相手のこと威嚇してたの。その後ずっと不機嫌で。どうしたのって聞いても『いや別に』しか言わないけどあれはメルのことが好きすぎて焼きもち妬いてすねてたね!かわいかったよ!」
わかる。わかるぞメル。
オタク特有のマシンガントークありがとう。
おかげで、お前の気持ちは十分伝わったぞ。
僕らはがっしりと、どちらからともなく手を取り合った。
「キミの名前なんだっけ?」
「白河晴斗だ」
「シラカワハルト、ね。分かった、これからはハルトって呼ぶ。同志だもん」
「ありがとう。なんとしてもラルクとノエルちゃんを助けよう」
「うん。お互い大好きな人がいる者同士、力を合わせて頑張ろう。大好きな人の幸せを取り戻そう」
ここに強力なタッグが誕生した。
推しの幸せを取り戻す。グッと手に力を込めて、2人で真剣な顔で誓い合った。
「………で、そもそも何の話だったんだっけ?」
「えっと……?あ!そうだったこの本!」
すっかり忘れていた本を掲げ、メルは語り出した。
「知らない精霊の名前がいっぱいある……空を司る精霊、契約を司る精霊、絆を司る精霊……」
「そんなのもいるのか」
「これは世紀の大発見なの!持って帰る!」
「ふうん?まあなんでもいいけど、とりあえず上に戻ろうぜ」
「おっけーハルト!」
僕らは今度こそ、筒状の光の中に立ち、円盤を操作した。決定ボタンをぽちっと押す。
じわじわと目の前が明るくなり、一瞬強くまたたいた。
次の瞬間には光の粒子に包まれ、僕ら2人は姿を消した。
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