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1-6 谷の底で見たものは

 

 やべええええこええええええ!!


 宙に放り出された身体がものすごいスピードで落ちていく。

 怖い怖い怖い!手も足も頭もお腹も、身体の全部が何の支えも無く、大して自由に動かすこともできず、為すすべもなくただただ猛スピードで飲まれていく。


 崖の中が暗すぎて何も見えないし自分が今どこにいるかも分からねえ。

 実はこれ落ちてるようで落ちてないとかない?


 とか言って現実逃避する僕に、耳を千切るほどの風の轟音と気色悪い胃の浮くあの感覚。「今お前は落ちている。このままじゃヤバイ」と切実に訴えてくる。分かる。このままじゃ死ぬのはよく分かる。じゃあどうしたら死なないのかもセットで教えてくれよ、分かったとこでどうしようもないんじゃ意味ねえんだよ!!なああ!


「ヴァンブリュイヤール!」


 メ、メル!ちょっとだけ上の位置から叫び声が聞こえた。

 そうか魔法!!


 一瞬、真っ暗闇がピカッと光った。やべえ。マンション10階分くらい下にゴツゴツした岩むき出しの地面がチラ見えした。マジか絶対痛い!無理無理無理無理!!


 すると刹那、ピュウと甲高い音が鳴り、僕の身体を包み込むように風が走った。少し生ぬくいその風は、谷底からぶわっと吹き上げて僕の身体を押し戻した。風の塊に煽られて少しずつ落ちるのがゆるやかになり、さかさまだった身体も徐々に頭が上に戻ってきた。


 どんどんスピードが殺されていく。良かった、これなら痛くなく着地できそうだ……!

 トン、とつま先がおりる。


「あっっっっっぶなかった……!メル、魔法ありが」


 ぐへっっっ!


 肩に何かが落ちてきてつぶされた。視界がガクンと下がり、地べたにつっぷす。身動きの取れない僕の背中の上から、甘くて甲高いメルの声が聞こえてきた。


「あぶなかったぁ~!良かったあ、魔法間に合って……」

「メル……踏んでる……僕踏んでる……」

「ってきゃあ!?大変!」


 ふっと背中が軽くなる。暗闇から目の前にぬっとハンカチが差し出された。


 あれ、もしかして僕を気遣って?なんだよ、なんだかんだやっぱり優しいなお前。いくら僕に怒ってても、こういう時は根の優しさってにじみ出ちゃうもんなんだな。


「ふう危ない、ラルクの大切なお顔に土が付いちゃうとこだった」


 にじみ出たのは辛辣さでした!

 大変ってそっちかよ!僕だって今痛かったんだけど……?


 はぁ、とため息をついて今の状況を観察する。暗闇で何も見えない。ピチャン、ピチャンと、水滴が落ちる音が鼓膜に響く。

 立ち上がると、ひんやりとした空気がむき出しの手や首を撫でた。ラルクの着てる長袖長ズボンのおかげでちょっとはマシだけど、それでも少し肌寒い。メルなんかミニスカだしきっとめちゃめちゃ寒いだろう。


「底についたのか……?暗くてなんにも見えないな……」

「ちょっと待ってね……ルーメン!」


 すると、真っ暗闇にポウッと光が浮かび上がった。メルのてのひらの上に現れた小さなそれは、少しずつ粒が集まり野球ボールくらいの大きさまで膨らんでいく。

 そのままふわふわと宙に浮かび上がり、メルの頭の横くらいの高さで止まった。光に照らされて、お互いの顔と全身くらいは見えるようになる。


「すごいな……ありがとうメル」

「何言ってるの、これくらい普通でしょ?って、あ、やだ!髪もぼさぼさ!」


 そういうと、メルは僕の頭をガシッと掴み、メルの目の高さまで下に下げた。ぐえ!首イタイ!

 メルは乱れた僕の髪を手で丁寧に撫でた。時々耳に触れる指がくすぐったい。女の子との接近イベントに少しばかりドキッとしかけて思いとどまる。こいつは厳密には僕じゃなくてラルクを撫でている。


「キミ、ラルクの身体を借りてるんだからちゃんと自覚持ってね!身だしなみも気をつけること!」


 はい、すみません。でも僕の肩にキックしてきたの誰だっけ?あれで結構乱れた気もするんだけど?


 はあ、というかノエルちゃんを上に置いて来てしまった。今頃僕のことを心配してたり……?そんなことないか……あんなに嫌がられてたし……

 ノエルちゃんのさっきまでの態度に、拒絶されたショックが蘇る。

 はぁ……ノエルちゃんもメルも冷たいし、結構グサグサ痛い。僕だって急にこっちに来ちゃった被害者でもあるんだけど……


「すごいところまで落ちてきちゃった……」


 メルはそう言うと崖を見上げた。傷心の僕もならって上を向く。


 堅くてごつい岩肌が、上の方の光の届かない闇の中までずっと続いていた。落ちてきた時間も結構長かったし、かなりの高さまで続いているだろう。崖の質感はでこぼこしてるけど、さすがにこの高さをよじ登るのは無理だ。


 すると突然、「そうだ!」とメルが明るい声で手を叩いた。お、良い案思いついたのか!


「キミ、神の使いなんだよね?お祈りして神様降臨とかできない!?神様が助けてくれるかも!」


 僕かよ!

 そんな期待した目で見ないで……神の使いなんて嘘なんです……


 せめてもと、1周目でプレイした記憶を精いっぱい思い出す。

 考えろ考えろ……ラストダンジョンの地下、何かなかったか?


 !

 思い出した。


 ラストダンジョンの下にある隠しダンジョン。メインシナリオ的には別に来なくても問題ない場所。

 1周目、ノエルちゃんが倒されて絶望した僕は、ノエルちゃんのサブイベントやノエルちゃん復活イベントが無いものかとこの地下を血眼になって散策した。

 結局、ちょっと強い敵が出てくるやり込み要素的な隠しダンジョンとわかって外に出てしまったんだけど、僕ここに来たことあるぞ。


 確か、どこかに転移装置があってそこから地下まで入ってくるような仕組みだったと思うんだけど、あれどこにあるんだっけ……?

 あー、だめだ、思い出せない。ノエルちゃんを亡くして茫然自失で探索した1周目だ。ノエルちゃんの痕跡だけは見てたけど、ダンジョンの全体像とかはなんにも頭に入ってない。くそ!こんなことならもっとちゃんとプレイするべきだった!


「ま、まあぼちぼち行こうぜ、うん」

「なにそれ!顔が頼りないよ!逆に不安だよ!そもそも元はキミがさ!」


 そう、メルに胸倉をつかまれたその時、


 ざり。


 と、かすかに異音がした。

 今にも僕をなじろうと、息を吸ったメルの口を右手でふさぐ。


「ちょっと!」

「しっ、待って」


 小声でメルを制す。耳に神経を集中させる。


 ざり、ざりざり、と重ねて音が聞こえてくる。

 地面がこすれるような音だ。


 最初は眉を吊り上げたメルも異変に気付き、息をひそめて視線を動かす。


 ざり、ざり。


 音は僕の正面からだ。少しずつ近づいてくる。

 メルも静かにそろりと身体を反転させ、僕の隣に並んだ。2人で音の方を向く。生唾をごくりと飲んだ。


 ざり。

 光の届くギリギリの位置の地面が少しだけ動いた。

 あそこだ!


「ルミエールクーポワール!」


 その一瞬を逃さず、メルの魔法が飛ぶ。

 鋭い光の塊が空を裂き、ピカリとまばゆい光と共に目の前の何かを切った。


「ぐみゅうう!」


 光で照らされ正体が見えた。

 かわいい声と共にはじけたのはスライムだった。

 水色のぷにぷには、煙となって一瞬で消えた。


 なんだザコじゃん!

 と安心したその時、


「ぐむうっ!?」


 僕は、後ろから何かに押しつぶされた。


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