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1-5 何かにぶつかった


 メルが走っていった方から、「ちょっと、何よ!」とノエルちゃんの声が聴こえてくる。

 僕も、入り口目掛けて一目散に洞窟を走った。入り口がついに目の前に来た!


 というところで、ガンッッッ!と、僕は何かに顔からぶつかった。


 ッテエエエエエェェェェ!!!

 鼻が!僕の鼻があああ!


 なんなんだよ!?

 目の前には何もなかったはずで、だからこそ全力で走ってたから痛すぎるし、吹っ飛ばされてしりもちついたお尻もイテエ。目の前に星が見えた。


 涙目で痛む鼻を押さえ、おずおずと顔を上げる。

 しかし、やっぱり辺りには何もなく、少し前に次のフロアへつながる入り口が見えるばかりだった。扉もなく、穴倉のようにぽっかり空いている。


「なんだってんだよ……」


 恐る恐る右手を前に伸ばし、僕がぶつかった辺りを探る。

 すると、指先が何かに当たった。

 固い感触が指から伝わり、徐々に手のひら全体を押し当てる。ペタッと張り付けて形を探ると、それは壁のような形をしていた。まっ平らで透明な何かがそこにある。


「させないわっ!」


 と、頭の後ろでノエルちゃんの凛とした声が響いた。地面を蹴る音が近づいてくる。

 慌てて振り返ると、メルを払いのけたノエルちゃんが今にも僕に組みかかろうとしていた。手を伸ばして突っ込んで来る姿に、咄嗟に身をよじる。が、直後、かわしてしまったことに焦る。待てよ僕、後ろには透明な何かがいるんだよ。これじゃあノエルちゃんがケガしちゃう!


「ノエルちゃん危ない!!そこには何かが!」


 が、なんと。

 ノエルちゃんは、透明な壁を何事もなくすり抜けた。


「え?ちょ、ちょっと待ってノエルちゃん!」


 彼女は次のエリアへの入り口の前に立つと、くるっとこちらを振り向いた。こちらを見下ろすその目は変わらず元気に輝いている。


「残念だったわね、こんなところでドジを踏むなんて」

「そこ、変な壁とかない?」

「え?壁?どこにもないけど」

「だって、僕にはほら」


 と、僕は両手を前についた。やはり固い何かがある。押してもびくともしない。ノエルちゃんが通った場所を触ってみても、やっぱり僕の手は通り抜けずパントマイム状態だ。

 痛むお尻をさすりながら立ち上がり、他の場所もぺたぺたと触る。やっぱりだめだ、どこも通れない。次のフロアの入り口はすぐそこなのに、そこまで行けない。


「何失敗してるのーーーーーー!」


 僕の頭の後ろから甲高い声が聞こえる。僕を非難するその声はメルだ。


「何でしりもちついてるの!ドジ!まぬけ!すかぽんたん!」

「ちがうんだメル、ここに壁があって通り抜けられないんだよ!」

「え?どういうこと…?」


 僕のとなりにやって来たメルも、同じように右手を伸ばした。

 が、メルも僕と同じく、何かに阻まれて中に入ることができなかった。


「な、なんで……?」

「分からない……なんでノエルちゃんだけ……僕たち2人はなんで入れないんだ……」

「なに2人とも。こっち来られないの?」


 様子のおかしい僕ら2人を見て、ノエルちゃんもいぶかしげに右手を出した。やっぱりノエルちゃんの手はすりぬける。


「ルミエールクーポワール!」


 メルが隣で呪文を唱えた。メルの目の前に光の粒子が集まり、一瞬ピカリと強く光ると目の前に勢いよく飛んでいく。光の衝撃波で空間を裂く攻撃魔法だ。

 魔法は壁を通り抜けた。

 メルはすかさず魔法で切った場所を触った。が、変わらず壁はそこにある。


 なんだこれ。こんなのゲームでもなかったぞ?


 ゲームでは、このゲートは難なく通れた。この入り口の先はラストダンジョンの第2層につながっていて、奥までいくとラスボスディオンが待つ部屋にたどり着くようになっている。


 考えられるとしたら、ノエルちゃんを倒してないからか?

 ゲームでこの通路を通るのはノエル・フォルジュ戦の後、つまりノエルちゃんを倒した後だ。

 僕たちが通れないのは、ノエルちゃんを倒すという条件をクリアしていないから……?ゲーム的にそういうフラグかなんかが設定されてるのか?僕にはよく分からないけど……

 他に理由があるのかもしれない。でも、とりあえず思いつかない。


 いよいよ困った。

 強行突破も無理。「詰み」という2文字が頭に浮かび、背中を冷や汗が伝う。


 すると、急にメルが「あ!」と大きな声を上げた。


「それならエクスカリバーは!ほら、この前見つけたあの剣!あれって最強なんだよね?このよくわかんない壁も切れるかも!」


 そう言ってメルは僕の方を見る。キラキラとした視線は、僕の背後に伸びていた。


「………って、あれ?エクスカリバーは?」

「え?エクスカリバー……?」


 メルの視線を伝い、僕は自分の背中に手をやる。

 鞘は背中にある。でも剣はない。


「剣なら、さっき投げちゃったけど。僕そんなすごい剣装備してたんだっけ?」


 あ、あれ?なんかメルの目がどんどん険しくなってきてるんだけど……


「………ラルクとメル、ついこの前一緒にダンジョンを突破して、エクスカリバーっていうすごーく強い剣をゲットしたのね?キミ、それどこにやったの?」


 冷たく低い声で僕に話しかける。


 いやごめん、君たちにとってはこの前でも僕にとっては半年前なんだよねそれ。

 しかもここ最近はノエルちゃん戦しかやってないから自分の装備なんか覚えてない。

 なんていう都合は、メルには通用しないワケで。


「が、えっと、が、崖に……」


 これはものすごくヤバイことになった。

 これ以上メルに嫌われることはしたくない。したくないけど、嘘言ったら容赦しないとその目が言っている……

 汗が噴き出る。視線を外し、もごもごと白状した。


「……投げました」

「え?なんて」

「えと、だからその、崖に、ぶん投げました。ハイ」

「…………崖にぶん投げた!?なんで!?なんでそんなことしたのどこに落としたの!」


 案の定、メルが目を吊り上げて僕をなじる。


「あ、あの、そこから……まあ色々ありまして……」


 そう言って僕は、さっき衝動的に投げた場所を指さす。

 崖の中をちらっとのぞくと、底の見えない暗い闇が広がっていた。冷え冷えとした空気が僕の頬をすっとなでる。


 すると、背中をがしっと掴まれた。

 恐る恐る振り向くと、ニコニコしたメルの顔。

 ただ、目だけが笑ってない。


「あ、あの、メル……?」

「早く行ってきて?」

「あ、えっと、この下、すごい暗いなぁ、僕と一緒に行ってくれたりとかしないかなぁ……?」

「どうしたの?ラルクの大事な剣を勝手に落としたんだから、自分で取ってきて?」

「ていうかエクスカリバーでもあの壁壊せるの?あれ、そういう物理的な何かで壊せるものじゃない気がするんだけど……あと別に、あの剣ただのちょっと強い装備品だし、僕あれじゃなくてもディオン倒せると思うし」

「ラルクの剣が無いことには変わりないもん!!!ほら早く!つべこべ言わずに早く行ってきて!!」


 人間、勢いでなんでもやるもんじゃないな。

 背中をぐいぐいと押される。真っ暗な闇が僕を見ている。


「え、ちょ、ちょっとちょっと待って!まさかいきなりここに落とそうって!?」

「うーん、でもそうするしかないよね?」


 肩を掴んだ指がきりきりと食い込む。こいつマジじゃねえか!

 やばくない?容赦なさすぎない?


「ちょっと!!待って待って!」


 僕はぐいっと体の向きを反転させ、メルに向き合う。メルの肩をつかんで押しとどめた。

 2人で押し合いして、足にぐっと力を入れてふんばった時、僕の足場がガランと音を立てて下がった。


 身体がガクッと下がる。


「うわ!」

「きゃ!?」


 メルも僕の方に体重をかけていて、そのまま前のめりになる。


「「うわああああああ!?!?!」」


 僕たちは悲鳴を上げながら、崖の下に吸い込まれていった。


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